

「天然由来」と書いてあるシャンプーにも、グリオキサールが100mg/kg以下で含まれていることがあります。
グリオキサール(Glyoxal)は、化学式C₂H₂O₂、分子量58.04の最もシンプルなジアルデヒド化合物です。CAS番号107-22-2として世界共通で管理されており、INCI名(化粧品成分の国際的な命名)でも「Glyoxal」と表記されます。
常温では淡黄色の液体で、水にきわめてよく溶ける性質があります。pH値は40%水溶液で2.1〜2.7という強酸性を示します。
SDS(Safety Data Sheet=安全データシート)は、化学物質を取り扱う際に必須の文書です。そこには物性、危険有害性、応急措置、取扱い上の注意などが網羅的に記されています。美容成分を選ぶ際にも、SDSを確認する習慣を持つことが、健康リスクを避けるうえで非常に重要になります。
グリオキサールは繊維処理剤・紙仕上げ剤・医薬香料原料・消臭剤・土壌硬化剤などに広く使われる工業用化学物質でもあります。国内での製造・供給量は年間約9,200トン(2002年時点)に達しており、産業的に非常に重要な物質です。東京ドームのグラウンド面積(約13,000㎡)に換算するのが難しいほどの、巨大な工業規模で流通しています。
つまり、日常生活に身近な化学物質ということです。
厚生労働省「職場のあんぜんサイト」グリオキサール安全データシート(GHS分類・危険有害性情報の公式一覧)
SDSで最初に確認すべき項目が「GHS分類」です。GHS(Globally Harmonized System)とは、化学品の危険有害性を世界共通の絵表示と言葉で伝えるための国際的な制度です。
グリオキサールのGHS分類は以下のように整理されています。
| 有害性項目 | 区分 | 意味 |
|---|---|---|
| 急性毒性(経口) | 区分3 | 飲み込むと有毒 |
| 急性毒性(吸入:ミスト) | 区分4 | 吸入すると有害 |
| 皮膚腐食性・刺激性 | 区分2 | 皮膚刺激あり |
| 眼刺激性 | 区分2A | 強い眼刺激 |
| 皮膚感作性 | 区分1 | アレルギー反応のおそれ |
| 特定標的臓器毒性(単回) | 区分2 | 肺・腎臓・副腎・中枢神経へのおそれ |
| 特定標的臓器毒性(反復) | 区分1 | 長期反復で呼吸器への障害 |
| 水生環境有害性(急性) | 区分3 | 水生生物に有害 |
なかでも「皮膚感作性:区分1」は要注意です。区分1は皮膚感作性の最高ランクで、「アレルギー性皮膚反応を起こすおそれ」という危険有害性情報が付与されます。これは一度感作(アレルゲンとして認識)されてしまうと、微量の接触でも強いアレルギー反応が現れるリスクがあることを意味します。
「特定標的臓器毒性(反復ばく露):区分1(呼吸器)」も見落とせません。
区分1は最も高いランクです。
これは深刻です。
長期または繰り返しの吸入ばく露によって、呼吸器に永続的なダメージを与える可能性があると評価されています。美容師など日常的にこうした成分を扱う方には、職業上のリスクとして認識しておく必要があります。
急性毒性(経口)のLD50はラットで200mg/kgと報告されており、これは「カフェインのLD50(約192mg/kg)とほぼ同等」という比較ができるほど、低い用量で毒性が現れることを意味します。小さじ1杯(5g)以下で危険なレベルに達しえる、という認識で取り扱うことが基本です。
化学物質評価研究機構(CERI)グリオキサール有害性評価書(疫学調査・皮膚感作試験・毒性データの詳細が収録)
SDS第11項(有害性情報)の皮膚感作性の項目には、具体的な試験データが記されています。ここが美容に関心のある方にとって特に重要な部分です。
モルモットを用いたビューラー法・マキシマイゼーション法の両試験で「陽性」という結果が得られています。ヒトを対象にした試験では、10%濃度での感作・2%濃度での惹起によって、被験者全例(24人全員)で陽性の皮膚反応がみられました。
全員で反応が出た、ということですね。
化学物質評価研究機構(CERI)の評価書によれば、グリオキサール含有の消毒剤を使用した病院職員65人のうち41人(63%)がアルデヒド系物質(ホルムアルデヒド・グルタールアルデヒド・グリオキサールのいずれか)に陽性反応を示しました。そのうち6人はグリオキサールのみに陽性、8人はグルタールアルデヒドとの交差反応が確認されています。
皮膚感作性に加えて「交差感作」の問題があることも重要です。グリオキサールに感作された人は、グルタールアルデヒドなど類似したアルデヒド構造を持つ別の成分にも反応してしまうケースがあります。これは、複数の美容成分が含まれるシャンプーやヘアトリートメントを使用する際に思わぬトラブルを招きうるリスクです。
肌荒れやかゆみが続く場合は皮膚科でパッチテストを受けることが、対策の第一歩になります。パッチテストでは、グリオキサールを含む成分を個別に特定することができるため、原因物質を明確にした対策が可能になります。
グリオキサールのSDS・GHS分類には記載されていない観点として、「ホルムアルデヒド放出物質」という側面があります。フランスの自然派化粧品ブランドTypologyの成分ライブラリーでも「疑わしい変異原因物質(ホルムアルデヒド放出物)」として記載されています。
グリオキサールは大気中で光分解される際、ホルムアルデヒドを生成します。日本の薬機法では、ホルムアルデヒドは化粧品への配合禁止成分に指定されています。
これは見落とせないポイントです。
ただし、グリオキサール自体は化粧品への配合が禁止されているわけではありません。日本の化粧品成分表示名称リスト(No.11, 2002年発行)に収載されており、防腐剤・香料として化粧品に使用できます。現在、グリオキサールを含む市販化粧品は32件確認されています(cosmetic-info.jp調べ)。
シャンプー・ハンドウォッシュジェル・ボディ用脱毛ジェル・シェービングクリーム・マスカラ・コンディショナー・ネイルポリッシュ・ローション・日焼け止め・フェイスマスクなど、多様な製品カテゴリに使用されています。
EU規制では、最終的な化粧品製品への含有は最大100mg/kg(0.01%)まで許可されています。これは小さじ1杯分(5g)に換算するとわずか0.5mg以下という、非常に微量の使用に限定する基準です。消費者として成分表示を確認し、感作リスクを理解したうえで選択することが大切です。
Typology(フランス)グリオキサール成分ライブラリー(EUでの許可濃度・健康リスク・使用製品カテゴリの情報が整理されています)
SDSの第7項(取扱い及び保管上の注意)と第8項(ばく露防止及び保護措置)は、実際に取り扱う美容師や施術者が目を通すべき実践的な情報が集中しています。
取扱い上の主な注意点をまとめると以下のとおりです。
許容濃度(職場での空気中の上限濃度)についても確認が必要です。ACGIHの2013年版では、吸入性粒子としてTWA(時間加重平均)0.1mg/m³と定められています。これは「パン箱1箱分の空間(約35L)にわずか0.0035mg」というほど、極めて微量でも職業上の管理が求められる濃度です。
換気設備の整っていない環境では、ミストや蒸気の吸入リスクが生じます。
美容室でグリオキサールを含む製品を扱う場合、「窓を1枚開けるだけ」では不十分で、全体換気装置や局所排気装置の設置がSDS上では求められています。消費者として美容室を利用する際も、換気環境が整っているサロンを選ぶことが身を守ることにつながります。
美容業界で「グリオキサール」と混同されやすいのが「グリオキシル酸(Glyoxylic acid, CAS No. 298-12-4)」です。名前が似ているために混乱しがちですが、これらは別の化学物質です。
グリオキサール(Glyoxal)はジアルデヒド、グリオキシル酸(Glyoxylic acid)はアルデヒドとカルボン酸を持つ化合物で、構造が異なります。CERI評価書によれば、グリオキサールは体内でグリオキシル酸を経てシュウ酸へと代謝されます。
グリオキシル酸は、現在多くの美容室で提供されている「酸熱トリートメント」の主成分として広く使用されています。髪のアミノ基(ケラチン)と反応してイミン結合(架橋)を形成し、くせ毛のうねりを落ち着かせ、ツヤと手触りを改善する効果があります。縮毛矯正のようにクセを根本から変えるわけではありませんが、ダメージが少ない施術として支持されています。
別物だということですね。
一方でグリオキサールは、酸熱トリートメントの主目的成分ではなく、繊維や紙の架橋剤・消臭剤原料などとしての産業用途が中心です。化粧品には防腐・抗菌目的で微量配合されます。
このように名前の類似性から「酸熱トリートメントにグリオキサールが入っている」と誤解しやすいのですが、使われているのはグリオキシル酸です。成分表示を確認する際には、このスペル・読み方の違いを必ず区別するようにしてください。
CERI有害性評価書(グリオキサールの体内代謝・グリオキシル酸への変換経路も収録)
SDSの第4項に記された応急措置は、実際のトラブル時に即座に役立つ情報です。美容用品を日常的に使う方も、成分の応急措置を知っておくと安心です。
状況別の対処方法は以下のとおりです。
皮膚への症状の特徴として、発赤・小水疱・湿疹が現れることが報告されています。これらは即時反応ではなく、48時間以内に遅延型で現れるアレルギー反応(IV型過敏症)である場合があります。「使ったその日は何もなかったが、翌日になって発疹が出た」という場合も、グリオキサールを含む成分が原因のことがあります。
症状が出たら早めに受診が基本です。
美容室で施術後に肌のトラブルが起きた場合は、使用製品の成分表示を美容師に確認してもらい、成分名を控えた上で皮膚科でパッチテストを依頼することを推奨します。原因成分が特定されれば、同じ成分を含む製品を今後避けることができます。
SDSの環境有害性と廃棄の項目は、一般消費者にはあまり注目されませんが、プロの美容師や美容室オーナーには重要な法的義務に直結する内容です。
グリオキサールは水生環境有害性(急性)区分3に分類されており、「水生生物に有害」です。SDSでは「環境への放出を避けること」「内容物・容器を都道府県知事の許可を受けた専門の廃棄物処理業者に依頼して廃棄すること」と明記されています。
使用済み製品や廃液を排水溝に流す行為は、環境基準違反になる可能性があります。特にグリオキサールを高濃度で含む業務用製品の廃棄には、廃棄物処理法に基づく適正処理が必要です。
廃棄方法を誤ると法的リスクになります。
また、化管法(PRTR法)では、グリオキサールは第一種指定化学物質として指定されており、一定量以上取り扱う事業者は排出量の届出義務があります。年間取扱量が1トン以上の場合は届出が必要なため、美容室の規模によっては対象になりえます。
グリオキサールの水溶液を大気中で光にさらすと、1日あたり8%の割合でグリオキシル酸に酸化されるというデータもあります。適切に保管・廃棄することで、環境中への分解生成物の拡散も防ぐことができます。
環境省「グリオキサールの物質基本情報」(製造量・用途・環境中運命・生分解性の公式データが掲載)
日本の化粧品には全成分表示の義務があります。グリオキサールは「グリオキサール」または「Glyoxal」(INCI名)として表示されます。
成分表示の読み方には基本的なルールがあります。記載順序は「含有量が多い順」が原則なので、リストの後方にあればあるほど配合量は少なくなります。グリオキサールは微量防腐として使用されることが多いため、通常はリストの後半に登場します。
確認のポイントは3つです。
肌が敏感な方・アレルギー体質の方は、グリオキサールが含まれる製品を避けるかどうかを皮膚科医に相談するのが安全策です。特に「繰り返し使う製品(毎日使用するシャンプーやコンディショナー)」にグリオキサールが含まれる場合、感作(アレルゲン化)のリスクが蓄積する可能性があります。
これが原則です。
EWG(Environmental Working Group)の「Skin Deep」データベースや、「コスメの成分解析サイト(ishampoo.jp等)」などを活用すると、手持ちの製品にグリオキサールが含まれているかを手軽に調べることができます。気になる製品は一度成分検索してみることをお勧めします。
グリオキサールのリスクを正確に把握するには、同じアルデヒド系成分との比較が役立ちます。美容成分として登場頻度の高いアルデヒド類とのSDS比較を整理します。
| 成分名 | 皮膚感作性 | 化粧品配合 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| グリオキサール | 区分1(最高) | 可(最大100mg/kg) | 防腐・抗菌・香料 |
| グリオキシル酸 | データなし | 可 | 酸熱トリートメント |
| グルタールアルデヒド | 区分1 | 制限あり | 消毒剤・固定液 |
| ホルムアルデヒド | 区分1 | 禁止(日本) | 防腐・固定剤 |
グリオキサール・グルタールアルデヒド・ホルムアルデヒドはいずれも皮膚感作性区分1です。しかも、これらは「交差感作」を引き起こす可能性があります。グリオキサールで感作された人が、グルタールアルデヒドを含む消毒剤に触れた場合にもアレルギー反応が出るケースが報告されています。
3つのアルデヒドはセットで注意が必要です。
ホルムアルデヒドは日本では化粧品への配合が禁止されています。しかし化粧品基準には、「ホルムアルデヒドを放出するパラベン誘導体」など「ホルムアルデヒド放出体」の使用が一定条件下で認められています。グリオキサールも環境中でホルムアルデヒドを生成する可能性が指摘されており、規制の考え方の整合性という点で今後の動向が注目される成分です。
敏感肌やアレルギー体質の方は、同じアルデヒド系成分がシャンプー・トリートメント・スキンケアなど複数のアイテムに重複して入っていないか確認するようにしてみてください。
ここでは、SDSの読み方を美容の実生活に応用する、あまり語られていないアプローチを紹介します。プロの美容師や化粧品開発者が実践していながら、一般消費者にはほとんど知られていない「SDS活用法」です。
通常、消費者が化粧品を選ぶ際は「成分表示」を見ます。しかし、各成分のSDSを個別に参照している消費者はほとんどいません。SDSには、成分表示では分からない「物質単体の危険有害性」が数値とGHS区分で明記されているため、「自分の肌に何をつけているのか」を科学的に把握できる強力なツールになります。
実践ステップは以下のとおりです。
SDSが読めると成分選びが変わります。
特にアレルギー体質の方や、化粧品でかぶれた経験のある方には、使用前に成分のSDSをチェックする習慣が、同じトラブルの再発を防ぐ最も確実な方法の一つになります。
厚生労働省の「職場のあんぜんサイト(anzeninfo.mhlw.go.jp)」では、グリオキサールを含む約3,000物質のSDSが無料で閲覧できます。CAS番号(グリオキサールは107-22-2)で検索すると直接アクセスできるので、ぜひ活用してみてください。
厚生労働省「職場のあんぜんサイト」グリオキサール(CAS番号107-22-2)のSDS全文(無料・公式)

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