

カラーをしている髪にグリオキシル酸トリートメントを施術すると、1〜2トーンほど色が一気に抜けて台無しになることがあります。
グリオキシル酸トリートメントとは、「酸熱トリートメント」のジャンルに属するサロンメニューのひとつです。2018年ごろに美容業界へ登場し、テレビ番組「マツコ会議」でも取り上げられるほど話題を集めました。
仕組みはシンプルで、グリオキシル酸という有機酸を主成分とするトリートメント剤を髪に塗布し、約180℃に設定したヘアアイロンで熱を加えます。熱が加わることで髪内部のタンパク質と反応し、新たに「イミン結合(架橋構造)」を形成。これが、傷んでスカスカになった髪の内部を内側から補強する核心メカニズムです。
従来のトリートメントは髪の表面をコーティングしたり、栄養分を一時的に補給するものでした。つまり普通のトリートメントは「外から詰める」イメージです。対してグリオキシル酸トリートメントは「内部に新しい結合を作る」ので、持続時間が平均1〜2ヶ月と長く、通常のトリートメントとは根本的に異なります。
もうひとつ重要なのが、グリオキシル酸が水溶性であるという点です。南米の捻転毛文化圏でかつて使われていたホルムアルデヒドに代わる安全な成分として採用された経緯があります。水溶性であることで、適切に塗布・洗い流す美容施術として扱いやすい素材になっています。
酸熱トリートメントに使われる酸は、主にグリオキシル酸・レブリン酸・サリチル酸の3種類があります。現在市場に流通している酸熱トリートメント剤の約8割にグリオキシル酸が配合されているとされており、酸熱トリートメントの代名詞的存在です。
グリオキシル酸のpHは非常に強い酸性で、原液のpHは1〜2程度になります。髪の健康な状態は弱酸性(pH4.5〜5.5)ですから、グリオキシル酸はかなり酸性に偏っていることがわかります。この強さこそが高いくせ毛緩和効果とハリコシ感をもたらす一方で、扱い方を誤ると過収斂(かしゅうれん)という状態を引き起こし、髪が硬化する原因にもなります。
これに対してレブリン酸はpHが比較的穏やかで、ツヤ感を出しやすく色落ちリスクも低いのが特徴です。サリチル酸はクセを落ち着かせる効果は弱いものの、パーマをかけた髪との相性が良いとされています。
| 成分 | 主な特徴 | 色落ちリスク | くせ毛緩和 |
|---|---|---|---|
| グリオキシル酸 | ハリコシが出る・補修力高い | ⚠️ 高い | ◎ |
| レブリン酸 | ツヤ感・柔らかさ | ✅ 低い | △ |
| サリチル酸 | パーマとの相性○ | ✅ 低い | △ |
つまり成分次第で仕上がりは大きく変わります。美容院でメニュー名だけ確認するのではなく、どの酸を使用しているか確認することが大切です。
グリオキシル酸トリートメントがなぜ髪を美しくするのか、もう少し踏み込んで解説します。
髪はケラチンというタンパク質で構成されています。カラーやパーマ、ブリーチを繰り返すと、このケラチンが損傷し、髪の内部(コルテックス)に穴や隙間が生じます。その結果、髪がうねったり、ボリュームが出すぎたり、パサついたりします。
ここにグリオキシル酸を塗布し、180℃前後のアイロン熱を加えると、グリオキシル酸が持つアルデヒド基がケラチンのアミノ基(リジンなど)と反応して、「イミン結合」という新しい化学的結合が生まれます。
これがいわゆる「架橋(かきょう)」です。
架橋とは、バラバラだった分子同士を橋でつないで固定するイメージです。名刺サイズの和紙がしわくちゃになっていたのを、何本もの細い糸でぴんと張り直すようなイメージが近いかもしれません。
この結合が定着することで髪内部の密度が高まり、ツヤやハリが戻ってきます。重要なのは、この反応が「化学的な結合」であるため、通常のトリートメントよりも持続期間が長いという点です。一般的なトリートメントの持ちが1〜2週間程度なのに対し、グリオキシル酸トリートメントは平均1〜2ヶ月間効果が持続します。
グリオキシル酸トリートメントの主な効果は以下のとおりです。
効果の持続期間は平均で1〜2ヶ月程度です。ただし、ハイダメージな髪ほど持ちが短くなる傾向があります。これは髪内部の穴が大きすぎるため、イミン結合がすぐに消耗してしまうためです。
効果が出るまでの回数については、2〜5回の施術を続けることで仕上がりが安定してくるケースが多いとされています。効果が切れる前に次の施術をすることで、前回の補修の上にさらに積み重ねられる「累積効果」があります。
なお、同じ部位に繰り返せる回数には目安として3〜5回までという制限があることも知っておきましょう。グリオキシル酸トリートメントはずっと続けるメニューではなく、集中ケア期間として位置づけるのが適切です。
参考:酸熱トリートメントの効果・持続期間・適切な頻度について詳しい情報
酸熱トリートメントの適切な頻度・回数|美髪をつくるための注意点(ENORE)
グリオキシル酸トリートメントの最大のデメリットのひとつが、ヘアカラーの色落ちです。これは実際に多くのサロンで確認されており、施術後に1〜2トーンほど明るくなるケースが報告されています。1〜2トーンの差というのは、たとえば「落ち着いたブラウン」が「明るい赤みブラウン」になるほどの変化で、自分で見ても明らかにわかるレベルです。
色落ちのメカニズムについてはいくつかの説があります。最も有力とされているのは「ジアミン破壊説」で、ヘアカラーに必須の成分であるジアミン(パラフェニレンジアミン)とグリオキシル酸が相互作用することで色素が壊れるという考え方です。また、グリオキシル酸のpHが強酸性すぎるため、髪内部のpHバランスが崩れ、カラー色素が定着できなくなるという見方もあります。
特に寒色系(アッシュ・マットなど)は色落ちしやすいとされています。いわゆる青みや緑みの色素は分子が小さく流出しやすいためです。カラーを大切にしている方にとって、これは大きな痛手です。
この問題を避けたい場合、グリオキシル酸の代わりにレブリン酸を使う弱酸性タイプの酸熱トリートメントを選ぶ方法があります。グリオキシル酸ではなくレブリン酸系であれば色落ちリスクが低くなります。カラーをしている方は、施術前に美容師さんへ必ず確認しておきましょう。
参考:グリオキシル酸とカラーの色落ちの関係について詳しく解説
グリオキシル酸がヘアカラーを色落ちさせる理由(MORIKOSHI.NET)
グリオキシル酸トリートメントには、繰り返し施術することで髪が硬くなってしまう「過収斂(かしゅうれん)」というリスクがあります。過収斂とは、酸が強すぎることで髪が収縮しすぎてしまう現象です。新しい靴のレザーを無理に縮ませたように、かちかちで弾力を失った状態がこれに近いです。
従来のグリオキシル酸系酸熱トリートメントの薬剤はpHが1〜2程度であり、これは強酸の領域です。一般的な酸熱トリートメントを3〜5回以上繰り返すと、髪が過収斂を起こすリスクが高まると言われています。髪の手触りがゴワゴワになり、指通りが悪化するという逆効果になりかねません。
この問題をある程度解消するアプローチとして、「弱酸性酸熱トリートメント」という選択肢があります。pH4.5(等電点)に調整した薬剤を使用することで、過収斂のリスクを大幅に下げつつ、柔らかい質感を保つことができます。弱酸性タイプであれば施術回数の制限も比較的緩やかで、繰り返し施術を受けやすくなります。
過収斂が心配な場合は、美容院で使用する薬剤のpHを確認するのが確実です。
グリオキシル酸トリートメントにはもうひとつ、見過ごせないデメリットがあります。
それは、施術後に独特の残臭が残ることです。
グリオキシル酸特有の酸っぱいような匂いで、濡れた状態のときほど強く感じます。ドライの状態では気になりにくいものの、水分を含むと1週間程度、残臭が気になることがあります。
臭いは問題なし、と思っていても、2024年3月に英国の医学誌「ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)」に掲載された症例報告が注目を集めました。グリオキシル酸を含むヘアストレート製品の使用により急性腎障害を発症した症例が報告されたのです。
ただし、この症例をどう読むかは慎重な判断が必要です。毛髪診断士歴29年の前田秀雄氏によれば、今回の症例報告では「患者が施術中に熱い感覚を覚えた」という記述があり、頭皮にベタ塗りに近い状態で施術が行われた可能性が指摘されています。日本の標準的な美容施術では、薬剤を頭皮に直接塗布しない方法が一般的です。また、グリオキシル酸は体内でシュウ酸を生成する経路があることは以前から知られており、経皮吸収リスクが懸念されています。
現時点では「症例1件をもって危険と断言できる段階ではない」というのが多くの専門家の見解ですが、ストレートアイロンの熱温度管理や頭皮への接触を避ける施術が一層重要だという点は間違いありません。
参考:グリオキシル酸と急性腎障害リスクを専門家が解説した記事
「グリオキシル酸で健康被害」は本当だったのか?(ボブログTV)
グリオキシル酸トリートメントは万能ではありません。髪の状態によっては効果を十分に感じられなかったり、逆に状態を悪化させてしまうこともあります。効果が出やすいのは次のような髪質・状態です。
グリオキシル酸トリートメントの原理上、髪の内部に隙間(ダメージ)がなければ成分が入り込む余地がないため、ダメージが少ない健康毛には効果がほとんど出ません。施術費用の相場は1〜2万円程度が多く、効果が出なければ出費だけが増えてしまいます。
また、梅雨時期など一時的に髪をまとめやすくしたい方や、縮毛矯正の毛先ダメージを補修したい方にも有効です。軟毛の方は特に効果を実感しやすく、ハリコシが出て扱いやすくなったという声が多く聞かれます。
一方、グリオキシル酸トリートメントが向いていない、あるいはやめた方が良いとされる髪質・状態もあります。
くせ毛で悩んでいる方が「髪質改善」という言葉に惹かれて受けてみたものの、思ったほどくせが伸びなかったというケースは少なくありません。先天性のくせ毛を根本から伸ばしたい場合は縮毛矯正や酸性ストレートのほうが目的に合っています。つまり「何を改善したいか」を明確にしてから施術を選ぶことが条件です。
サロンでのグリオキシル酸トリートメントの一般的な施術の流れを確認しておきましょう。
施術時間は1時間〜1時間半程度が目安です。
施術後2〜3日は髪が水に濡れると一時的にニオイが気になることがあります。これは基本的に時間とともに薄れていくので、施術直後に慌てる必要はありません。また施術後48時間以内はできるだけ髪を結んだり折り曲げたりしないほうが、イミン結合の定着がよりスムーズになります。
サロンでのグリオキシル酸トリートメント(酸熱トリートメント)の費用相場は、地域や美容院によって異なりますが、おおよそ以下の通りです。
| 施術の種類 | 相場価格(目安) | 特徴 |
|---|---|---|
| 一般的な酸熱トリートメント | 8,000〜15,000円 | グリオキシル酸配合が多い |
| 弱酸性酸熱トリートメント | 12,000〜20,000円 | pH調整済・色落ち少ない |
| 縮毛矯正+酸熱トリートメント同時施術 | 20,000〜35,000円 | クセ伸ばしと補修を同時に |
コスパの観点でも知っておきたいのは、効果が1〜2ヶ月続くという点です。毎月のトリートメントを1,000〜3,000円のサロントリートメントで賄うとすると、半年で6,000〜18,000円かかります。それと比較すると、酸熱トリートメントは仕上がりと持続力のバランスから見て費用対効果が高いと評価する美容師も多いです。
これは使えそうです。
ただし、ダメージが強すぎる髪の場合は「2〜5回通わないと効果が安定しない」こともあります。初回の施術だけでは劇的な変化を感じにくいケースもあるため、最初から数回分の予算を想定しておくと後悔が少なくなります。
グリオキシル酸トリートメントの効果を1日でも長くキープするには、施術後のホームケアが重要です。
まず、シャンプーの選び方から見直しましょう。アルカリ性のシャンプーはキューティクルを開かせる性質があり、せっかく定着したイミン結合を早く壊してしまいます。弱酸性シャンプーを使うことで、髪のpHを正常範囲(pH4.5〜5.5)に保ちやすくなります。具体的には「弱酸性」「ノンシリコン」「サルフェートフリー」と表記のある製品を選ぶと効果が持ちやすくなります。
施術後2日間程度はヘアアイロンの使用を避けることも重要です。イミン結合が完全に定着するまでの間に高温を加えると、効果が落ちる可能性があります。使用するとしても150℃以下に設定するのがおすすめです。
乾かし方も見直しましょう。施術後は自然乾燥を避け、ドライヤーで根元から乾かしてからアウトバストリートメントをつけるのが基本です。髪が濡れた状態で長時間放置するとキューティクルが開きっぱなしになり、補修したタンパク質の流出につながります。
参考:施術後のケアについて詳しく解説
酸熱トリートメント施術後のホームケアの方法(ALBUM HAIR)
くせ毛や広がりに悩む方が迷うのが、グリオキシル酸トリートメント・縮毛矯正・ストレートパーマの選択です。
それぞれの違いを整理しましょう。
縮毛矯正は、1剤でシスチン結合を断ち切り、アイロンで形を固定してから2剤で再結合させるという強力な施術です。先天性のくせ毛でも確実にストレートにできますが、髪へのダメージが大きく、やりすぎると毛質が劣化していきます。
ストレートパーマは縮毛矯正と似た原理ですが、アイロンによる形状記憶が弱く、「ボリュームを落とす」「うねりを緩和する」程度の効果です。
ダメージは縮毛矯正よりやや少なめです。
グリオキシル酸トリートメントはシスチン結合を断ち切らないため、くせを根本から伸ばすことはできません。あくまでも「ダメージ補修とうねりを緩和する」施術です。ただしその分、ダメージリスクが低く、自然な仕上がりになります。
「髪質改善」という言葉でひとくくりにされがちですが、目的によって最適な施術は異なります。
これが原則です。
参考:縮毛矯正と酸熱トリートメントの違いを専門家が解説
酸熱トリートメントとは?効果から注意点まで徹底解説(デミ化粧品)
グリオキシル酸トリートメントは成功すれば美しい髪を手に入れられますが、失敗すると取り返しのつかない事態になることも。
主な失敗パターンを知っておきましょう。
最も多い失敗が「チリチリ・ゴワゴワになる」というものです。原因は大きく2つで、アイロン温度が高すぎた(熱ダメージ)か、強酸による過収斂です。特にハイダメージな髪に強酸グリオキシル酸を使うと、過収斂を起こしてチリチリになるリスクが高まります。
次に多いのが「効果がまったく出なかった」というケースです。健康毛・硬毛・強いくせ毛の方にありがちで、髪質の見極めが甘かった場合に起こります。せっかく1〜2万円払ったのに何も変わらなかった、というのは痛いですね。
また、「カラーが激しく色落ちした」という失敗も少なくありません。施術後に鏡を見たら明らかに色が抜けていたというケースで、特にアッシュや寒色系のカラーを入れている方に多い失敗です。
これらを防ぐためには、まず「グリオキシル酸系を使うかどうか」「カラーをしているか」「自分の髪のダメージ状態はどの程度か」を事前に美容師と丁寧に確認することです。失敗事例が多いサロンメニューだからこそ、美容師の経験値と選択力が仕上がりの9割を左右します。
ここでは検索上位記事ではあまり触れられていない独自の視点からお話しします。「髪質改善」という言葉そのものが持つリスクです。
毛髪診断士の前田秀雄氏は消費者庁に実際に問い合わせたうえで、「改善」という言葉で「本質的に変わる=治る」という印象を与えるならアウトになる可能性があると指摘しています。つまり「髪質改善トリートメント」という表現自体、消費者に過度な期待を抱かせるグレーゾーンの可能性があるということです。
美容業界では「髪質改善」というメニュー名でグリオキシル酸トリートメントを提供するサロンが急増しましたが、実態は「ダメージを補修して一時的にまとまりやすくする」というものです。「くせが根本から治る」「永久に効果が続く」という理解は正確ではありません。
また、広告やSNSで「傷まない」と訴求しているサロンも見受けられますが、酸熱トリートメントは多少なりともダメージが伴います。薬機法や広告ガイドラインへの配慮が欠けた表現には注意が必要です。
施術を検討する際は、メニュー名だけでなく「何の酸を使うのか」「自分の髪質に合っているか」を美容師に直接確認することが最大の自衛策です。何のリスクがあるかを事前に把握してから予約することで、失敗を防ぎながら満足度の高い仕上がりが期待できます。

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