

50代の肌は20代の半分のセラミドしかない
スフィンゴ脂質は、私たちの肌の健康を守る重要な成分です。この脂質の最大の特徴は、長鎖塩基成分としてスフィンゴイド類を含む複合脂質である点にあります。具体的には、スフィンゴシンと呼ばれる長鎖塩基に脂肪酸がアミド結合した構造を持っています。
この基本構造を持つ部分がセラミドと呼ばれるものです。セラミドはスフィンゴ脂質の骨格となる中心的な存在で、肌の角質層に存在する細胞間脂質の約50%以上を占めています。つまり、セラミドはスフィンゴ脂質の部分構造ということですね。
スフィンゴ脂質は、このセラミド骨格に何が結合するかによって種類が分かれます。セラミドに糖がグリコシド結合したものがスフィンゴ糖脂質、リン酸と塩基が結合したものがスフィンゴリン脂質です。代表的なスフィンゴリン脂質としては、神経細胞のミエリン鞘を構成するスフィンゴミエリンがあり、体内のスフィンゴ脂質全体の約85%を占めています。
化学構造としては、長鎖塩基が炭素数18個を基本として、1位と3位に水酸基、2位にアミノ基を持つ長鎖アミノアルコールです。哺乳類の主要な長鎖塩基であるスフィンゴシンは、4位と5位の間にトランス二重結合を持つという特徴があります。脂肪酸は長鎖脂肪酸C16-22や極長鎖脂肪酸C22-24が多く結合していますが、皮膚の細胞が分化する過程ではC26-36という非常に長い極長鎖脂肪酸も見られます。
生化学会の研究論文では、スフィンゴ脂質の化学構造と生物種による多様性について詳しく解説されています
美容の観点から見ると、この独特な化学構造こそが肌の保湿機能を支える鍵となっています。セラミドは脂質でありながら、その化学構造に水となじみやすい「親水基」という部分を持っているため、水分を抱え込んで離さない働きができるのです。水にも油にも馴染む両親媒性という性質が、肌のバリア機能に欠かせない役割を果たしています。
肌の角質層で水分を保持する最も重要な仕組みが、スフィンゴ脂質が形成するラメラ液晶構造です。この構造は、セラミドの特殊な分子構造によって生まれる、水と油が交互に層状に並んだミルフィーユのような配列を指します。
ラメラ構造の形成メカニズムは非常に精密です。セラミドは水と仲良くできる部分(親水基)と脂と仲良くできる部分(疎水基)の両方を備えています。角質層の細胞間で、セラミドは水分子をしっかりとつかまえる一方で、セラミド同士が一定の方向を向きながら整列することで、疎水層(脂質)と親水層(水分)を繰り返す規則正しい構造を作り上げます。
この構造の素晴らしい点は、脂質が結合水を挟み込むことで水分を保持し、角質細胞間に層状のラメラ液晶構造を形成する点です。具体的には、角質層の厚さはわずか0.02mm、ティッシュペーパー1枚程度の薄さしかありません。しかしこの薄い層の中で、セラミドを中心とした細胞間脂質が緻密なラメラ構造を形成することで、外部からの刺激の侵入や体内の水分の過剰な蒸散を防ぐバリア機能を実現しています。
角質層の構造を建物に例えると、角質細胞がレンガ、細胞間脂質のラメラ構造がモルタルに相当します。レンガを塗り固めたモルタルが建物の強度を支えるように、ラメラ状に配列した半固形水和ゲル状態の細胞間脂質が、角質細胞をしっかりとつなぎ止めているのです。結論はラメラ構造が肌の保湿とバリアの要です。
ラメラ構造が正常に保たれている肌では、角質層の潤いの80%以上を細胞間脂質が担っています。しかし、セラミドの配列が崩れると肌のバリア機能が低下し、水分が蒸発しやすくなります。外部からの刺激にも弱くなり、乾燥や肌荒れといったトラブルが起こりやすくなるのです。
花王のスキンケア研究では、角質層の細胞間脂質とラメラ構造の詳細なメカニズムが図解されています
美容液やクリームの中には、このラメラ構造を模した「液晶乳化」技術を採用した製品もあります。肌本来のラメラ構造と同じ構造の保湿成分を補給することで、バリア機能を高め、内部からの水分蒸散を防ぎ、うるおいを保つ効果が期待できます。
スフィンゴ脂質の構造は生物種によって大きく異なり、その多様性が各生物の生存戦略に深く関わっています。人間の肌においても、スフィンゴ脂質の構造多様性が美容と健康に重要な意味を持っています。
ヒトの角質層に存在するセラミドには、実は11種類もの異なる構造が存在します。これらは長鎖塩基の種類と脂肪酸の違いによって分類され、それぞれが異なる役割を果たしています。代表的なものとして、セラミド1からセラミド9まで番号が付けられており、特にセラミドNP(旧称セラミド3)やセラミドEOP(旧称セラミド1)などが肌のバリア機能に重要とされています。
中でも特殊なのが「結合型セラミド」と呼ばれる構造です。一般的なセラミドに比べて非常に長い分子構造を持ち、角質細胞と細胞間脂質をつなぎとめる接着剤のような役割を担っています。大正製薬の研究によると、結合型セラミドは角質層構造を維持し、肌のバリア機能維持に重要な役割を果たすことが明らかになっています。
植物のスフィンゴ脂質は動物とは異なる構造的特徴を持っています。植物では、長鎖塩基にC18以上の炭素鎖を持つものや、複数の二重結合や水酸基を持つ複雑な構造が見られます。2025年の岐阜大学の研究では、スフィンゴ脂質の骨格構造にシス型二重結合が導入され分子内に屈曲が生じても、生物は生育可能であることが示されました。どういうことでしょうか?
この構造の柔軟性は、生体膜の流動性や機能性に影響を与えます。スフィンゴ脂質が「曲がる」ことで、細胞膜の性質が変化し、細胞の様々な機能が調整されるのです。肌においても、セラミドの構造多様性が季節や環境の変化に応じた適応力を提供している可能性があります。
スフィンゴ脂質の化学構造は多様であり、生物種によってその構造や組成は特有です。私たちは日常的にスフィンゴ脂質を食事から摂取していますが、他の脂質成分と比較してその機能性が注目されています。食品中のスフィンゴ脂質の化学構造も原料によって異なるため、摂取する食品の選択が肌への効果に影響する可能性があります。
肌の老化において最も深刻な変化の一つが、セラミドを中心としたスフィンゴ脂質の減少です。研究データによると、50代の肌には20代の約半分のセラミドしか存在しないことが明らかになっています。これは加齢によって細胞のセラミド合成能力が低下するためです。
セラミドが減少すると、細胞間脂質がスカスカになり、ラメラ構造が崩れてしまいます。その結果、うるおい保持力やバリア機能が著しく低下し、乾燥肌や敏感肌、シワなどの肌老化が現れやすくなります。
厳しいところですね。
加齢以外にもセラミドを減少させる原因は複数あります。間違った洗顔方法やスキンケアによる過度な刺激、紫外線によるダメージ、栄養バランスの偏った食事、睡眠不足やストレスなどです。特にコーン油やマーガリンに含まれるリノール酸の過剰摂取は、セラミドを減少させることが知られています。
セラミド不足のサインとしては、肌のカサつき、粉吹き、つっぱり感、化粧のりの悪さなどが挙げられます。手の甲や腕、足の肌がくすんで見える場合も、セラミド不足を疑うべきです。
これは使えそうです。
大正製薬の研究記事では、年齢によるセラミド減少のメカニズムと具体的な対策が詳しく説明されています
減少したセラミドを補う方法として、外側からのアプローチと内側からのアプローチがあります。外側からのケアでは、ヒト型セラミド配合の化粧品を選ぶことが効果的です。ヒト型セラミドは人間の肌に存在するセラミドと同じ構造を持つため、角質層への浸透性が高く、バリア機能をサポートする力が優れています。
内側からのケアとしては、セラミドを含む食品の摂取が重要です。生芋こんにゃく、米ぬか、大豆、わかめ、ひじきなどを日常的に取り入れることで、体内からセラミドの生成をサポートできます。また、ビタミンA、ビタミンB2・B6、必須脂肪酸などの栄養素も、肌の健康とセラミド生成に欠かせません。
乾燥がひどい場合には、セラミドだけでなく肌のターンオーバーを正常化させることも重要です。適度な運動、質の良い睡眠、バランスの取れた食事を心がけることで、肌自らがセラミドを作り出す力を高めることができます。
セラミド補給が基本です。
スフィンゴ脂質は様々な食品に含まれており、日常の食事から摂取することができます。美容効果を高めるためには、どの食品をどのように摂取するかが重要なポイントとなります。
植物性食品では、グルコシルセラミドという形のスフィンゴ糖脂質が主要な成分です。特に含有量が多い食品として、こんにゃく芋、米ぬか、小麦、トウモロコシ、大豆が挙げられます。中でも生芋こんにゃくは「こんにゃくセラミド」として注目を集めており、植物性スフィンゴイド塩基の体内吸収率が高いことが2020年の大成化工の研究で明らかになっています。
動物性食品では、畜産物や水産物にスフィンゴミエリンなどのスフィンゴリン脂質が含まれています。
牛乳や乳製品、卵、魚類などに豊富です。
動物性のセラミドは「ウマスフィンゴ脂質」や「セレブロシド」とも呼ばれ、ヒトの角質層にあるものと比較的近い性質を持っています。
グルコシルセラミドの吸収メカニズムは興味深いものです。経口摂取されたグルコシルセラミドは、まず消化管内でグルコシルセラミダーゼという酵素によってセラミドと糖に分解されます。ここで生成されたセラミドがそのまま小腸から吸収され、血液を通じて全身に運ばれ、最終的に皮膚の角質層に到達します。つまりグルコシルセラミドを含む食品を摂取すれば体内でセラミドに変換されるということですね。
田中消化器科クリニックの記事では、グルコシルセラミドの消化吸収メカニズムと機能性について医学的な観点から解説されています
効率的な摂取方法としては、毎日継続して摂取することが重要です。研究では、米由来のスフィンゴ糖脂質を経口摂取した結果、アトピー性皮膚炎モデルのマウスのバリア機能障害が軽減したことが報告されています。また、光老化でしわを作ったマウスにトウモロコシ由来のグルコシルセラミドを与えた実験でも、しわの改善効果が確認されました。
具体的な食品の取り入れ方として、朝食に米ぬか入りのパンやグラノーラを食べる、昼食や夕食にこんにゃく料理を加える、豆腐や納豆などの大豆製品を毎日摂る、わかめやひじきなどの海藻類を味噌汁や副菜に使うなどの工夫があります。これらの食品を組み合わせて摂取することで、異なる構造のスフィンゴ脂質を幅広く補給できます。
サプリメントも選択肢の一つです。市販されているセラミドサプリメントの多くは、米由来やこんにゃく由来のグルコシルセラミドを配合しています。ポーラの研究では、高純度なグルコシルセラミドを毎日摂取することで、肌の水分蒸散量が徐々に減り、3ヶ月後には「水分が逃げにくい肌」へと変化することが証明されています。
毎日の継続が条件です。
ただし、摂取する際の注意点もあります。コーン油やマーガリンに含まれるリノール酸の過剰摂取は、せっかく摂取したセラミドの効果を打ち消してしまう可能性があります。良質な脂質を選び、バランスの取れた食事を心がけることが、スフィンゴ脂質の美容効果を最大限に引き出す鍵となります。