
アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024年版では、従来の治療法に加えて新薬5剤が追加され、治療選択肢が大幅に拡充されています 。この改訂により、中等症以上の難治状態における治療オプションが増え、患者さん一人ひとりに最適化された治療計画の立案が可能となりました 。
参考)『アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021』が描く新しい治療…
最新のガイドラインでは、アトピー性皮膚炎の定義が「増悪と軽快を繰り返す、瘙痒のある湿疹を主病変とする疾患であり、患者の多くは『アトピー素因』を持つ」と明確化されています 。診断においては、症状の軽重によらず、瘙痒、特徴的皮疹と分布、慢性・反復性経過の3基本項目を満たすものをアトピー性皮膚炎と診断することが推奨されています 。
参考)https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/ADGL2024.pdf
治療ゴールについても見直しが行われ、「症状がないか、あっても軽微で、日常生活に支障なく、薬物療法もあまり必要としない状態に到達し、その状態を維持すること」が明確に定められました 。この目標設定により、長期寛解維持という理想的な状態の実現可能性が大きく高まっています。
ステロイド外用薬は、アトピー性皮膚炎治療の第一選択薬として位置づけられており、炎症を十分に抑えることができる有効性と安全性が多くの研究で確認されています 。薬剤は強さによってストロンゲスト、ベリーストロング、ストロング、ミディアム、ウィークの5段階にランク分けされており、皮疹の重症度に応じて適切な強さを選択することが重要です 。
参考)アトピー性皮膚炎の治療
最新のガイドラインでは「しっかりした強さのものを使う」というメッセージが強調されており、必要十分なランクの薬剤を選択することの重要性が再確認されています 。特に、ランクが不十分なために改善しないケースが多いことから、適切な強度選択が治療成功の鍵となります。
外用量については、成人の人差し指の先端から第1関節まで薬を乗せた量(約0.5g)を1フィンガー・チップ・ユニット(1FTU)として、この量を成人の手のひら2枚分の広さに塗るのが適量とされています 。顔面や頸部など薬剤吸収率の高い部位では、皮膚萎縮や毛細血管拡張などの局所副作用リスクを考慮し、原則としてミディアムクラス以下を使用することが推奨されています 。
参考)https://derma.med.osaka-u.ac.jp/a-guideline.html
スキンケアは、アトピー性皮膚炎治療において薬物療法と並ぶ重要な基盤治療として位置づけられています 。皮膚のバリア機能を正常に保つためには、「清潔な皮膚を保つこと」と「保湿で皮膚のうるおいを保つこと」の2つが基本となります 。
参考)アトピー性皮膚炎におけるスキンケア|アトピーのみかた|製薬会…
洗浄に関しては、古い皮脂や汗、黄色ブドウ球菌や泥汚れなどの皮膚炎悪化要因を除去するため、毎日の入浴やシャワー浴で石けんを用いた洗浄が推奨されています 。石けんはよく泡立てて、強くこすらず、シワなども丁寧に洗い、成分が皮膚に残らないよう十分にすすぐことが大切です 。
参考)アレルギーについて
保湿については、入浴後5分以内に保湿剤を塗布することが推奨されており、皮膚が水分を保持している間に保湿薬を塗って水分の蒸発を防ぐことが重要です 。保湿剤の種類には、ヘパリン類似物質製剤、尿素製剤、白色ワセリンなどがあり、角層内の水分保持や皮膚保護の目的に応じて選択します 。
最新のガイドラインでは、全身療法の適応が従来の重症・最重症・難治性状態から「中等症以上の難治状態」に拡大され、より多くの患者さんが対象となる身近な治療として再定義されました 。外用療法で寛解導入できない場合や、寛解状態を維持できない場合に、シクロスポリン(内服)、バリシチニブ(内服)、デュピルマブ(皮下注)の併用が選択されます 。
シクロスポリンは16歳以上が適応で、3mg/kg/日から開始し、最大5mg/kg/日まで適宜増減して8〜12週間で終了します。使用中は腎障害や高血圧、感染症などに注意し、定期的な薬剤血中濃度測定が必要です 。
デュピルマブは15歳以上が適応の注射薬で、IL-4とIL-13の受容体をターゲットとする抗体医薬です。初回600mgを皮下投与後、300mgを2週間間隔で皮下投与し、高い効果と安全性により寛解導入・維持両方に適しています 。バリシチニブは内服JAK阻害薬で、成人には4mgを1日1回経口投与し、かゆみを素早く抑える効果により寛解導入に適した薬剤とされています 。
プロアクティブ療法は、アトピー性皮膚炎の特性である再発の多さに対応した革新的な治療戦略として、現在のガイドラインで強く推奨されています 。この治療法は、炎症が起こってから治療するリアクティブ療法とは異なり、症状が再燃する前に予防的に外用療法を行う方法です 。
具体的には、再燃を繰り返す皮疹に対して急性期治療で寛解に導いた後、保湿外用薬によるスキンケアに加えて抗炎症外用薬を間欠的に(週2回など)塗布して寛解状態を維持します 。この手法により、見た目には正常化した皮膚に残存する炎症細胞による再燃リスクを効果的に防ぐことができます 。
プロアクティブ療法では、タクロリムス軟膏やデルゴシチニブ軟膏といった新しい外用薬も活用され、ステロイド外用薬で炎症を抑制した後の維持療法として使用されることが多くなっています 。特にタクロリムス軟膏は、皮膚が薄く経皮吸収されやすい顔面や首の皮疹に適しており、バリア機能が壊れた悪い状態の皮膚からは吸収されるが健康な皮膚からはほとんど吸収されないという特徴を持っています 。
この治療戦略の採用により、長期寛解維持という治療ゴールの実現可能性が大幅に向上し、患者さんの生活の質の改善に大きく貢献しています 。