

あなたが毎日使っているビタミンC美容液、実は塗るだけでは肌内部の酸化ストレスを根本から抑えられていない可能性があります。
HO-1(Heme Oxygenase-1)は、ヘムオキシゲナーゼという酵素ファミリーの中の1型です。正式名称はヘムオキシゲナーゼ-1といい、「HSP32(ヒートショックプロテイン32)」という別名でも知られています。
体が熱・紫外線・炎症・酸化ストレスなど「危機的な刺激」を感じたときに、肌細胞や内臓細胞の中で急速に産生が増えます。
これは体の自己防衛反応の一部です。
HO-1が働くと何が起きるかというと、血液中のヘムという成分を分解し、「ビリベルジン」「一酸化炭素(CO)」「鉄イオン」の3つに変換します。
つまりHO-1は「酸化ストレスを受けたときにだけ発動する、体内の緊急消火システム」といえます。
美容の文脈では、肌細胞(特に表皮の角化細胞)でのHO-1の発現が重要視されています。紫外線を浴びた肌細胞では、HO-1の遺伝子発現が有意に上昇することが複数の研究で確認されています。HO-1が十分に機能しているかどうかが、肌の酸化ダメージへの耐性に直結するわけです。
循環器用語ハンドブック(東亜薬品工業):HO-1の局在・機能・ストレスマーカーとしての役割
酸化ストレスとは、体内の活性酸素種(ROS)が抗酸化能を上回り、細胞にダメージが蓄積している状態のことです。
肌の老化のうち約80%は「光老化(フォトエイジング)」、つまり紫外線による酸化ストレスが原因とされています。
残りの20%が加齢そのものによる老化です。
これは皮膚科学の分野では広く知られた事実で、実は日焼け止めだけで老化のほとんどを予防できる可能性があることを意味します。
酸化ストレスが肌にもたらす具体的なダメージは次のとおりです。
このとき、体内ではHO-1の発現が急増します。つまりHO-1の増加は「体が酸化ストレスと戦っているサイン」でもあります。
コラーゲンは真皮の約70%を占める成分です。MMP-1(コラーゲン分解酵素)が活性化するたびにこの構造が崩れ、シワやたるみとして現れてきます。
酸化ストレスが慢性的に続くと、HO-1だけでは対処しきれなくなり、細胞の老化が加速します。
これが「老化が進んで見える肌」の正体です。
再春館製薬所:活性酸素が肌に与えるダメージとシミ・シワ・たるみの関係
HO-1の発現を制御しているのは、「Nrf2(Nuclear factor erythroid 2-related factor 2)」という転写因子です。
Nrf2は通常、Keap1というタンパク質と結合して不活性状態にあります。しかし酸化ストレスや特定の栄養成分がKeap1に作用すると、Nrf2が核内に移行し、HO-1をはじめとする抗酸化関連遺伝子群(NQO1・GCLCなど)の発現を一斉に誘導します。
これを「Nrf2-ARE経路の活性化」といい、現在、美容医療・抗老化研究の最前線で注目されているメカニズムです。
Nrf2が活性化すると、肌細胞は以下の状態になります。
つまりNrf2は「HO-1を含む抗酸化酵素を一括管理している司令塔」という役割を担っています。
エスティ ローダーとラトガース大学が2016年の米国研究皮膚科学会で発表した研究でも、Nrf2が活性化した皮膚細胞は紫外線や内因性酸化に対して高い抗酸化活性を示すことが確認されています。
Nrf2の活性化を通じてHO-1の発現を高めることが、肌老化の根本対策につながるということですね。
エスティ ローダー×ラトガース大学:Nrf2活性化と肌の抗老化経路に関する研究発表(PR TIMES)
Nrf2-HO-1経路を食品から活性化できる成分として、現在最も注目されているのが「スルフォラファン」です。
スルフォラファンは、ブロッコリーやキャベツなどアブラナ科の野菜に含まれるファイトケミカルの一種で、体内でNrf2経路の「最も強力な天然活性化因子」として機能します。
スルフォラファンがKeap1に直接作用することで、Nrf2が核内に移行し、HO-1・NQO1などの抗酸化酵素群の遺伝子発現が誘導されます(PMID: 23762991)。これは単なる抗酸化物質が活性酸素を直接消去するのとは異なり、体が自力で抗酸化酵素を産生する「内因性防御システムの底上げ」という点で、持続効果が段違いです。
スルフォラファンの効果は摂取後3日間持続するとされており、毎日摂取しなくても3日に1回の摂取で一定の効果を維持できます。
これは使えそうです。
効果を得るための必要量の目安として、ブロッコリーの場合は約230g(ほぼ1株)が必要とされています。一方、ブロッコリースプラウト(ブロッコリーの新芽)であれば1.5パック程度で同等の摂取が可能です。スーパースプラウトならさらに少量で済みます。
生のままよく噛んで食べることがポイントです。加熱するとスルフォラファンの前駆物質を変換するミロシナーゼ酵素が失活してしまうため、効果が下がります。
酸化ストレスによる肌老化を根本から防ぎたいと考えているなら、ブロッコリースプラウトを生で食べる習慣を取り入れることが有効な選択肢になります。
Generio(ヒロクリニック):スルフォラファンがNrf2経路を活性化し、HO-1・NQO1を誘導するメカニズム
HO-1の活性度を間接的に読み取れる指標として、血液検査の「ビリルビン値」があります。
HO-1がヘムを分解すると、ビリベルジンが生成されます。ビリベルジンはさらに「ビリルビン」に変換されます。このビリルビン自体が強力な抗酸化物質で、その抗酸化能はビタミンEに匹敵するとされています。
分子栄養学の分野では、「間接ビリルビン値が0.6を超えている場合、酸化ストレスを受けているサイン」と判断する見方があります。つまりビリルビン値が上昇しているとき、体内ではHO-1が活発に働き、酸化ストレスに対抗しようとしている状態です。
美容目的で血液検査を受けたとき、ビリルビン値が基準値内でも0.7前後に達している場合は、肌内部で酸化ダメージが蓄積している可能性があります。これは数値が基準内だからといって安心できないということです。
一方、ビリルビン値が極端に低い(0.2以下)場合は、逆にHO-1の活動が十分でなく、抗酸化防御が弱い状態を示している可能性もあります。
肌の酸化が気になる方が機能性医学や栄養外来でサプリメント指導を受ける際には、この「間接ビリルビン値」を確認してもらうことが、より精度の高いアプローチにつながります。
東京原宿クリニック(院長・篠原医師):ビリルビンとHO-1の関係、血液検査から読む酸化ストレスの評価法
日常生活には、HO-1を強制的に誘導する「酸化ストレス因子」が溢れています。
主なものを整理しておきましょう。
これらの因子が重なると、HO-1だけでは酸化ストレスを処理しきれず、「慢性的な酸化ダメージ」が蓄積していきます。
特に注意が必要なのが「複合ストレス」のケースです。たとえば「日中に紫外線を大量に浴びながら、睡眠不足で仕事のストレスも高い状態」が続くと、単独のストレスより数倍の速度で肌の老化が進むとされています。
酸化ストレスの原因は1つではありません。複数の因子を同時にコントロールすることが、HO-1を適切に機能させ、肌老化を遅らせる上で重要です。
ポノクリニック:活性酸素による細胞酸化とDNAへのダメージが肌老化を加速させるメカニズム(2026年1月更新)
HO-1を含む抗酸化システムを強化するためには、食事からの栄養補給が基盤になります。ここでは、特に研究エビデンスの蓄積が厚い栄養素を整理します。
| 栄養素・成分 | 主な働き | 代表的な食品源 |
|---|---|---|
| スルフォラファン | Nrf2活性化→HO-1誘導 | ブロッコリースプラウト、ケール |
| ビタミンC | 活性酸素の直接消去、コラーゲン合成サポート | ピーマン、ブロッコリー、アセロラ |
| ビタミンE | 細胞膜の脂質過酸化を抑制 | アーモンド、アボカド、米油 |
| アスタキサンチン | 強力な一重項酸素消去、紫外線ダメージ緩和 | 鮭、エビ、カニ |
| βカロテン | 一重項酸素消去、皮膚がんリスク軽減 | ほうれん草、人参、かぼちゃ |
| ポリフェノール(ケルセチン等) | Nrf2活性化、抗炎症 | 玉ねぎ、ブルーベリー、緑茶 |
| グルタチオン前駆体(Nアセチルシステイン) | 体内グルタチオン生成、解毒・抗酸化 | サプリメントとして補給が有効 |
| CoQ10(還元型) | ミトコンドリア保護、脂溶性抗酸化 | 青魚、卵黄、肉類、サプリ |
ビタミンCとEは水溶性・脂溶性の違いから、体内で「連携して働く」関係にあります。ビタミンEが活性酸素と反応してラジカルになると、ビタミンCがそれを元に戻し、ビタミンCはグルタチオンによって再生されます。この連鎖が成立しているときが、最も抗酸化効果が高い状態です。
抗酸化は単品でなく、組み合わせが条件です。
食事での摂取が難しい場合や酸化ストレスが特に高まる夏場・高ストレス期には、抗酸化サプリメントで補充することも合理的な選択です。ただし、含有成分と含有量を確認し、「Nrf2活性化成分(スルフォラファン・ポリフェノール)」が入っているかどうかを選択基準の一つにすることをおすすめします。
実はHO-1研究の世界で見落とされやすい重要な事実があります。それは「ある程度の酸化ストレスは、HO-1を含む抗酸化システムを鍛えるために必要」という逆説的な知見です。
抗酸化酵素系は、適切な酸化刺激を定期的に受け続けることで、発現レベルを高く維持できます。これを「ホルミシス効果(hormesis)」といいます。完全に酸化ストレスをゼロにしようとすると、逆にHO-1をはじめとする抗酸化酵素の産生能力が低下してしまうのです。
たとえば、適度な有酸素運動(週2回の歩行など)は体内でROS(活性酸素種)を適度に発生させ、Nrf2/HO-1経路を活性化します。「中高年および高齢者における運動を介したNrf2/ARE活性化」に関する研究では、定期的な段階的運動負荷によってHO-1を含むNrf2関連遺伝子の発現が増加することが確認されています。
つまり、「完全無酸化の生活」を目指すよりも、「適度な酸化刺激+強力な抗酸化補給」というバランスが、HO-1の機能を最大化し、肌の長期的な老化防止につながります。
サウナや軽い筋トレも、短時間の適度な熱・酸化ストレスを与えることでHO-1(HSP32)の産生を誘導するとされており、美容目的でのサウナ習慣にはHO-1活性化という科学的な根拠も存在します。
運動や入浴習慣を美肌ケアの一部として位置づけることは、スキンケアの枠を超えた「体内から始まる抗酸化戦略」として非常に合理的です。
オリ・ジャパン:中高年・高齢者の運動によるNrf2/ARE活性化とHO-1遺伝子発現の増加に関する研究
HO-1と酸化ストレスの知識を、実際の肌トラブルごとのケアに落とし込んでみましょう。
シミ・くすみの場合
紫外線が引き金となる酸化ストレスは、メラノサイトを刺激してメラニン産生を増やします。HO-1の活性化はTYR(メラニン合成酵素)の遺伝子発現を抑制するため、Nrf2-HO-1経路を強化することがシミ・くすみの予防に直結します。具体的には、スルフォラファンやポリフェノールの摂取と、日焼け止めによる物理的な紫外線遮断を組み合わせることが有効です。
シワ・たるみの場合
酸化ストレスによるMMP-1の活性化がコラーゲンを分解し、シワ・たるみを深めます。Nrf2活性化でMMP-1の発現を抑制しつつ、ビタミンCでコラーゲン合成を促進する「二方向アプローチ」が基本です。
肌荒れ・赤みの場合
HO-1の産生する一酸化炭素(CO)とビリルビンには抗炎症作用があります。慢性的な肌荒れや炎症性ニキビには、Nrf2活性化成分(スルフォラファン・ケルセチン)を継続的に摂取することが、外用薬だけに頼らない根本的なアプローチになり得ます。
乾燥肌・バリア機能低下の場合
酸化ストレスはフィラグリン(天然保湿因子)の産生を低下させます。酸化ストレスの軽減がフィラグリン産生の改善に関与することが研究で確認されており、抗酸化ケアが保湿効果にも間接的につながります。
これは意外ですね。
肌トラブルの原因別に、HO-1・酸化ストレスの視点からアプローチを変えることが、効果的なスキンケア設計のポイントです。
東洋新薬:HO-1・フィラグリン産生と酸化ストレスの関係(媛小春エキスの実験データ含む)
HO-1・酸化ストレスの知識を活かしてスキンケアを選ぶ場合、注目すべき成分があります。
外用スキンケアで注目される成分
内服・サプリメントで補う場合
外用では角質層までしか浸透しにくいビタミンCも、内服なら血流を通じて真皮の繊維芽細胞まで届きます。外用と内服を組み合わせることで、HO-1が活動する「表皮と真皮の両方」にアプローチできます。
成分の選び方の基準として「Nrf2を活性化するか」「酸化ストレスマーカー(HO-1)に作用するエビデンスがあるか」を確認することが、成分選びの精度を高めます。
ヒロクリニックGenerio:HO-1・MMP1・TYRなど遺伝子発現を指標とした抗酸化成分の医学的メカニズム解説
HO-1を適切に機能させ、酸化ストレスを日常的にコントロールするための生活習慣を、実践しやすい形でまとめます。
毎日できること
週に2〜3回できること
見直したほうがよい習慣
HO-1は「体が危機を感じたときだけ動く酵素」です。日常的な酸化ストレスを減らしながら、Nrf2経路を食事や運動で適度に刺激することが、HO-1の機能を最大限に引き出す最善策になります。
在津内科(山口市):ヘムオキシゲナーゼとHO-1・HO-2の違い、ビリルビンの抗酸化作用の解説