

毎日丁寧に保湿しているのに、肌が乾燥したりヒリヒリしたりする経験はないでしょうか。
クローディンとオクルディンは、肌の表皮顆粒層に存在する「タイトジャンクション(密着結合)」という構造を作るタンパク質です。タイトジャンクションとは、隣り合う細胞どうしをぴったりと接着させることで、細胞のすき間からの異物侵入や水分蒸発を防ぐしくみのこと。イメージとしては、服のファスナー(ジッパー)が細胞間にかかっている状態が近いです。
クローディンは現在27種類のファミリーが確認されており、皮膚では主にクローディン1・3・4などが重要な役割を担っています。一方オクルディンは、安定したタイトジャンクションを形成するための「補強材」として機能し、最適なバリア状態を維持するためのマーカーでもあります。
つまり、この2つは役割が少し違います。
クローディンが「ジッパーの歯」そのものを形成する中心的なタンパク質であるのに対し、オクルディンはそのジッパーを安定させ、きちんと閉まった状態をキープする役割を担っています。2つが正常に機能して初めて、バリア機能が完全に働く仕組みです。
美容の文脈では「バリア機能=角質層のセラミド」とイメージされがちですが、実は顆粒層にあるタイトジャンクションも同様に重要な「第2のバリア」として機能しています。角質層が壊れた場合にも、タイトジャンクションが外部からのアレルゲンや刺激物を食い止める最後の砦となるのです。
タイトジャンクションの構造と役割をわかりやすく解説 – ドクターズオーガニック
バリア機能が正常に保たれている肌では、外からの刺激(花粉・ほこり・細菌・化学物質)が細胞間から侵入できず、内側からの水分も蒸散しにくい状態が維持されています。これはタイトジャンクションが細胞間を高精度で「選別」しているからです。
タイトジャンクションは水分子レベルの微細な隙間管理を行っています。具体的には、必要なイオンや水分は通過させ、不必要な異物やアレルゲンはブロックするという、極めて精密な「セレクターの役割」を持っています。この機能はクローディンの種類によって特性が異なり、どのクローディンが発現しているかによって、透過しやすい物質の種類が変わることも研究で明らかになっています。
また、タイトジャンクションは「神経線維の位置を保持する」という役割も担っています。花王株式会社の2025年の研究によると、健常な肌ではタイトジャンクションが神経線維を顆粒層の内側に保持していますが、敏感肌ではタイトジャンクションの機能低下によって神経線維が角層深部にまで伸長してしまうことが確認されました。これが、チクチク・ヒリヒリという不快感の一因になっています。
つまり、クローディン・オクルディンの量が保たれていることは、乾燥を防ぐだけでなく、肌の知覚過敏そのものを抑える意味においても欠かせない条件です。
敏感肌とタイトジャンクション・クローディン3の関係について – 花王株式会社プレスリリース(2025年)
クローディン1がアトピー性皮膚炎の発症に深く関与していることは、2016年に大阪大学のグループが米国科学アカデミー紀要(PNAS)に発表した研究で初めて定量的に示されました。研究では、クローディン1の発現量を6段階に変化させたマウスを作製し、発現量の変化とバリア機能・皮膚炎症の関係を詳細に解析しています。
この研究で特に注目すべき点が、「発現量が半分程度になるまではバリア機能に大きな変化はないが、半分を下回ると急激に機能が低下する」という結果です。つまり、バリア機能の低下はじわじわ進むのではなく、ある閾値を超えた途端に急落する「崖型」の変化をたどります。
さらに、クローディン1発現量が低下したマウスでは、アトピー性皮膚炎に類似した皮膚変化が観察され、特に幼児期に重症度が高く、成長に伴って回復する傾向があったとされています。この経過はヒトの小児アトピーの自然経過とよく似ており、クローディン1が皮膚疾患の予防・治療において鍵となるタンパク質であることが示唆されています。
クローディン1がゼロになると生後1日で死に至るほど、生命維持に不可欠な分子でもあります。それが健康的な量から半分程度になっただけで皮膚炎のリスクが高まるというのは、注目すべき事実です。
クローディン1とアトピー性皮膚炎の関係を解明した大阪大学の研究プレスリリース(JSTサイト)
敏感肌のヒリヒリ・チクチクした不快感の原因は、長らく「角層のバリア機能低下」一点に絞られがちでしたが、2025年に花王と京都大学の共同研究が新たなメカニズムを発表しました。
花王の研究チームが20〜50代の日本人女性を敏感肌群と健常肌群に分けて皮膚神経線維の分布を比較したところ、敏感肌群では角層深部まで伸長する神経線維の数が有意に多いことが判明しています。そのメカニズムとして浮かび上がったのが、タイトジャンクション構成分子のひとつ「クローディン3」の遺伝子発現量の低下でした。
クローディン3が低下すると→タイトジャンクションの機能が低下する→神経線維が角層深部に侵入しやすくなる→外部刺激に反応しやすくなる、というプロセスがたどられることが示されています。
また同研究では、アミノ酸の一種である「γ-アミノ-β-ヒドロキシ酪酸」がクローディン3の発現を濃度依存的に増強させることも発見されています。敏感肌意識がある女性40名を対象にした連用試験(8週間)では、この成分を含むプロトタイプ製剤を使用した群で「日常生活のチクチク・ヒリヒリが軽減した」と回答した人の割合が有意に高く、8割以上が改善を実感したという結果も報告されています。
敏感肌に悩んでいる方にとって、クローディン3の維持・増強は「保湿」以上に本質的なアプローチになり得ます。
「日焼け止めを塗る理由はシミ・シワ対策のため」と考えている方は多いでしょう。しかし実はUVBは、肌バリアそのものを担うクローディン1を破壊するという、より深刻な問題を引き起こしています。
コーセーコスメトロジー研究財団の研究(2020年)では、微弱なUVB照射によってクローディン1がタイトジャンクションから消失し、細胞間バリア機能が低下することが確認されています。さらにそのメカニズムとして、UVBによってNOS3(一酸化窒素合成酵素3)が関与していることが明らかにされました。
日常生活で浴びる「日焼けしない程度の弱い紫外線」でさえ、クローディン1の局在異常(本来いるべき場所からの消失)を引き起こす可能性があるという点は、特に見逃せません。曇りの日にも一定量のUVBが降り注いでいることを考えると、日焼け止めの意義はシミ予防をはるかに超えています。
UVBによってバリアが崩れると、そこからアレルゲン・刺激物質が侵入しやすくなり、肌荒れや炎症の悪循環が始まります。
毎日の紫外線ケアが必要です。
日焼け止めを選ぶ際は、SPFとともにPA値(UVA)にも加えてUVBカット成分が含まれているかを確認しましょう。成分表示で「メトキシケイヒ酸エチルヘキシル」「t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン」などが入っているかをチェックするのが、ひとつの目安です。
微弱紫外線による皮膚タイトジャンクションバリアの破壊機構 – コーセーコスメトロジー研究財団(2020年報告書)
加齢による肌の変化として、しわやたるみが代表的に語られますが、タイトジャンクションの機能低下も老化プロセスの一部です。
研究では、加齢に伴い皮膚のCLDN1(クローディン1)発現が低下し、細胞間バリア機能が落ちることが確認されています。また、老人性乾皮症(高齢者に多い乾燥肌)においても、CLDN4(クローディン4)の発現低下がひとつの要因となっていることが報告されています。
皮膚は年齢とともにターンオーバー(新陳代謝)が遅くなります。20代では約28日周期だったターンオーバーが、40代では40〜55日、60代以降は75日以上になることも珍しくありません。ターンオーバーが遅くなると、顆粒層の細胞が更新されるペースも落ち、クローディンやオクルディンが正常に産生・配置される機会が減っていきます。
これが加齢肌の乾燥・バリア機能低下の一因となります。加齢による低下は避けられないものの、ターンオーバーをできる限り正常なペースに近づけるスキンケアや生活習慣が、クローディン・オクルディンの維持に間接的に寄与します。
睡眠の質を高め成長ホルモンの分泌を促すことや、適度な運動による血行促進がターンオーバー維持の基礎となります。
クローディンとオクルディンの発現を促進する成分は、いくつかの研究によって具体的に確認されています。これらを含む化粧品を選ぶことが、バリア機能ケアにおいて科学的に根拠のあるアプローチです。
オウレン根エキスは、クローディン1とオクルディンの発現を促進してタイトジャンクション機能を修復する作用が報告されています。生薬由来の成分で、抗アレルギー・抗菌作用も持つため、敏感肌やニキビ肌にも適しています。化粧水・乳液・マスクなど幅広い製品に配合されています。
グリチルリチン酸ジカリウム(GK2)+ヘパリン類似物質(HP)の組み合わせについては、チフレグループ綜合研究所の研究で、Claudin-1・Claudin-4・Occludin・ZO-1のタンパク質発現がいずれも単独使用より高くなることが確認されています。GK2単独ではなく「組み合わせによるシナジー効果」があるという点が注目すべきポイントです。
γ-アミノ-β-ヒドロキシ酪酸は、2025年の花王の研究でクローディン3の発現を増強する効果が確認されている比較的新しい成分です。現在はプロトタイプ段階ですが、今後の製品展開が期待されています。
これらの成分を使った製品を選ぶ際は、成分表の全成分表示を確認するのがおすすめです。オウレン根エキスの場合、INCI名「Coptis Japonica Root Extract」と記載されています。
GK2(グリチルリチン酸ジカリウム)とHPの組み合わせによるバリア機能への効果 – チフレグループ研究レポート
タイトジャンクションは皮膚だけでなく、腸管にも同じように存在しています。腸管のタイトジャンクションも、やはりクローディンやオクルディンで構成されており、腸内環境が悪化すると腸管バリアが崩れ、毒素や未消化タンパクが体内に漏れ出す「リーキーガット(腸漏れ)」が起こります。
この腸管バリアの崩壊が、全身性の炎症反応を引き起こし、皮膚にも影響することは複数の研究で示唆されています。つまり「腸活が肌荒れに効く」という感覚は、タイトジャンクションというメカニズムで科学的に説明できる話でもあります。
腸のタイトジャンクションを強化する成分として注目されているのが「酪酸」です。腸内細菌(特に酪酸産生菌)が食物繊維を発酵・分解することで生まれる短鎖脂肪酸の一種で、腸上皮細胞に直接作用してオクルディンやクローディンを増加させることが研究で確認されています。食物繊維を豊富に含む食事(ごぼう・玉ねぎ・大麦など)や発酵食品(納豆・ぬか漬けなど)が、皮膚のバリア機能維持にも間接的につながるのはこのためです。
腸と肌はつながっているという視点から、スキンケアだけでなく食生活の見直しも、美肌ケアの重要な柱となります。
タイトジャンクションとクローディン・オクルディンの解説 – ヤクルト中央研究所
「しっかり洗顔すること=清潔で良いこと」と思って毎日ゴシゴシ洗っている方は、実はタイトジャンクションを傷めている可能性があります。これは多くの美容好きに共通する思い込みです。
洗顔料に含まれるラウリル硫酸ナトリウム(SLS)などの界面活性剤は、肌への刺激が強く、タイトジャンクション構成タンパク質(クローディン・オクルディン・ZO-1)の発現を低下させることが in vitro(細胞実験)レベルで確認されています。洗浄力の高すぎる製品を毎日使用することは、バリア機能を「洗い流している」と言っても過言ではありません。
また、ピーリングやスクラブの過剰使用も、顆粒層のタイトジャンクションに直接ダメージを与えるリスクがあります。週1回以上の頻度で強いピーリングを行うことは、表皮の再生速度を超えてバリアを削ることになり、肌荒れの悪循環につながります。
洗顔は必要最低限の洗浄力で済ませ、こすらず泡で包むように洗う方法が基本です。洗顔料を選ぶ際は、アミノ酸系洗浄成分(ラウロイルグルタミン酸Naなど)が主体のマイルドなものを選ぶのがおすすめです。
クローディン・オクルディンを守る日常ケアは、特別な成分だけに頼るものではありません。日々のスキンケアの「順序と選び方」に科学的根拠を持たせることが、最も持続可能なアプローチです。
まず洗顔後はできるだけ素早く(3分以内を目安に)保湿を行うことが重要です。洗顔後に肌が乾燥すると、タイトジャンクションへのダメージが蓄積されやすくなります。
次に、化粧水・乳液・クリームの選び方として、「タイトジャンクション強化」「バリア機能修復」を謳った製品や、クローディン・オクルディン発現を促進する成分(オウレン根エキス、グリチルリチン酸ジカリウムなど)を含む製品を取り入れることが効果的です。
以下に、日常ケアのチェックポイントをまとめます。
バリア機能は一朝一夕では改善しません。
これらのケアを継続することが大切です。
Q. セラミドを塗るだけでは不十分なの?
セラミドは角質層の細胞間脂質を補い、物理的なバリアを強化します。一方クローディン・オクルディンは顆粒層のタイトジャンクション機能を支えるもので、作用する層が異なります。2種類のバリアは独立して存在しているため、セラミドケアだけでは顆粒層バリアをカバーできません。セラミドとタイトジャンクション成分を組み合わせることが理想的です。
Q. クローディン・オクルディンは食事で増やせる?
クローディン・オクルディンそのものを食べ物から直接補給することはできません。ただし、ターンオーバーを支える亜鉛(牡蠣・牛肉・カシューナッツ)やビタミンB群(鶏むね肉・玄米・豆腐)、腸管タイトジャンクションを強化する食物繊維(大麦・ごぼう・玉ねぎ)などは、間接的に皮膚バリアの維持に貢献します。
Q. 敏感肌の人がタイトジャンクションを改善するには何から始める?
まずは「これ以上壊さない」ことから始めましょう。強い洗浄成分を避け、紫外線対策を徹底し、摩擦ゼロの洗顔に切り替えることが第一歩です。その上でオウレン根エキスやグリチルリチン酸ジカリウムを含む化粧水を取り入れると、タイトジャンクション機能の回復を助けることができます。
Q. タイトジャンクションは年齢が若ければ問題ない?
若い年齢でも、紫外線暴露・過剰洗顔・刺激の強いスキンケア・睡眠不足・腸内環境の悪化などによってクローディン・オクルディンは低下します。年齢に関係なく、日常的なケアを意識することが大切です。
タイトジャンクション構成成分の産生促進によるバリア機能修復の詳細解説 – 化粧品成分オンライン
美容業界では長年、バリア機能といえば「角質層のセラミド」というメッセージが主流でした。これは化粧品マーケティングにおいてセラミドがわかりやすく訴求しやすい成分であったことや、角質層バリアの研究が先行して進んできたことが背景にあります。
実は顆粒層のタイトジャンクション(クローディン・オクルディン)という概念が皮膚科学的に注目されるようになったのは2000年代以降のことで、それほど歴史が長くありません。2002年に古瀬幹夫博士らの研究グループが、表皮顆粒層にもタイトジャンクションが存在し機能していることを初めて実証したことが、このフィールドの出発点とされています。
つまり、「肌のバリア=セラミド」という常識が形成されたのは、タイトジャンクションの役割がまだ明らかになっていなかった時代の名残りとも言えます。
現在では顆粒層タイトジャンクションのバリア機能が「第2のバリア」として皮膚科学的に認められており、アトピー性皮膚炎・敏感肌・乾燥肌の根本的な原因のひとつとして研究が急速に進んでいます。美容の最先端では、セラミドに加えてクローディン・オクルディンへのアプローチが「次世代のバリアケア」として位置づけられています。
美容情報のアップデートが大切です。セラミドケアをすでに取り入れている方は、次のステップとしてタイトジャンクションへのアプローチも視野に入れてみてください。