エンドリシンとはバクテリオファージが持つ肌ケアの新成分

エンドリシンとはバクテリオファージが持つ肌ケアの新成分

エンドリシンとはバクテリオファージが持つ肌ケアの新成分

ニキビのためにせっせと洗顔している人ほど、肌の善玉菌まで全滅させて肌荒れを悪化させています。


この記事でわかること
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エンドリシンの正体

バクテリオファージが持つ「細菌の細胞壁を分解する酵素」で、悪玉菌だけをピンポイントで攻撃します。

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美容への応用

ニキビ・アトピー・肌荒れの原因菌にアプローチしつつ、美肌菌(善玉菌)は守るという革新的な仕組みを持ちます。

抗生物質との違い

抗生物質は善玉菌ごと破壊してしまいますが、エンドリシンは標的菌だけを選んで溶かすため、肌フローラを乱しません。


エンドリシンとはバクテリオファージが作り出す「細菌専用ハサミ」

エンドリシン(Endolysin)は、バクテリオファージ(細菌ウイルス)が自分自身の複製のために使う酵素の一種です。バクテリオファージとは細菌に感染し、細菌の中で増殖するウイルスのことで、「菌を食べるウイルス」とも表現されます。数十億年前から地球上に存在し、今日の私たちの体の内外にも無数に生息しています。


バクテリオファージが細菌の体内に入り込み、自分のコピーを大量に作り終えると、次は「外に出る」必要があります。


このときに使われるのがエンドリシンです。


細菌の「外壁」にあたるペプチドグリカンという構造を酵素の力で切り崩し、細菌を内側から破裂させます。これがエンドリシンが「細菌専用ハサミ」と呼ばれる理由です。


重要なのは、この酵素がバイオ技術によって細菌の「外側」からも使えることです。外から直接エンドリシンを塗布すると、標的の細菌の細胞壁に直接ぶつかり、分解・溶解を引き起こします。つまり、エンドリシンは細菌の「鎧(よろい)」であるペプチドグリカンを壊す、非常に直接的な攻撃手段です。


つまり「細菌の壁を外から壊す酵素」ということですね。


この仕組みは、特に黄色ブドウ球菌や連鎖球菌などの「グラム陽性菌」に対して高い効果を発揮することが知られています。これらの菌は細胞壁が外部にむき出しになっているため、エンドリシンが直接接触して効率よく分解できるのです。地球上に存在するほぼすべての細菌には対応するバクテリオファージが存在し、各々のファージは特有のエンドリシン遺伝子を持っています。これは、理論上「すべての細菌に対応したエンドリシンが地球上に存在する」ことを意味する驚くべき事実です。


エンドリシンの美容分野での注目度が急上昇している背景

エンドリシンが美容の世界に登場してきた背景には、皮膚常在菌(肌フローラ・マイクロバイオーム)に関する研究の急速な進展があります。


肌の表面にはおよそ200種類以上の細菌が共生しており、善玉菌・日和見菌・悪玉菌がバランスを保っています。なかでも美容の観点で問題視されているのが「黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)」です。疲労、毛処理、免疫低下などが重なると黄色ブドウ球菌が急増し、ニキビ・アトピー性皮膚炎・毛嚢炎(デキモノ)・乾燥・赤みなどのさまざまな肌トラブルを引き起こすことが研究で明らかになっています。


これは使えそうです。


逆に黄色ブドウ球菌が減ると、美肌菌と呼ばれる「表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)」が増加し、グリセリンや脂肪酸を産生して肌を弱酸性・しっとり状態に保ちます。問題は、これまでの化粧品やスキンケアには「悪玉菌だけを狙う手段」がなかったことです。洗顔料や殺菌成分は善玉菌もまとめて減らしてしまうため、かえって肌フローラのバランスを崩すリスクがありました。


ここにエンドリシンのアプローチが大きな意味を持ちます。エンドリシンは特定の菌にのみ働く「高い標的特異性」を持つため、悪玉菌だけにアプローチしながら美肌菌(善玉菌)はそのままに保つことができるのです。この特性は、これまでのどんなスキンケア成分にもなかった革新的な点です。


参考:皮膚常在菌叢の制御に関する研究(J-Stage)
皮膚常在菌叢の制御を基盤とするスキンケア・皮膚疾患治療(J-Stage)


エンドリシンとバクテリオファージの関係をわかりやすく解説

エンドリシンとバクテリオファージの関係は、「バクテリオファージが持つ道具」と理解するとわかりやすいです。バクテリオファージそのものはウイルスですが、エンドリシンはそのバクテリオファージが持つ「酵素(タンパク質)」の一種です。


🦠 バクテリオファージの感染サイクル


| ステップ | 内容 |
|---|---|
| ① 感染 | ファージが標的の細菌を見つけてDNAを注入する |
| ② 増殖 | 細菌の内部でファージが大量コピーを生産する |
| ③ 溶菌 | エンドリシンを産生し、細菌の細胞壁(ペプチドグリカン)を切断する |
| ④ 拡散 | 細菌が破裂し、新たなファージが放出される |


エンドリシンはこのサイクルの③〜④で登場する酵素です。「ハサミで壁を切る」ように、細菌の外壁であるペプチドグリカンを特定の部位で加水分解します。ペプチドグリカンは糖とペプチド(アミノ酸の鎖)が格子状に組み合わさった構造で、細菌の形を保つための骨格です。これが切り崩されると、細菌は内側からの圧力に耐えられなくなり、最終的に破裂・死滅します。


バイオ技術の進展により、エンドリシンを単独で大量生産することが可能になりました。ファージ全体ではなく「エンドリシンだけ」を化粧品や医薬品に配合することで、細菌の外から直接攻撃するアプローチが実現しています。これがスキンケアへの応用として期待されている形です。


バクテリオファージによって感染された細菌の「寿命は平均20〜30分」とも言われており、エンドリシンの作用は非常に素早いのも特徴です。


エンドリシンとニキビの関係:アクネ菌・黄色ブドウ球菌へのアプローチ

ニキビの原因として広く知られているのはアクネ菌(Cutibacterium acnes)ですが、実は肌荒れを悪化させるのは「黄色ブドウ球菌の増殖」でもあります。


アクネ菌は毛穴の中の嫌気性環境(酸素が少ない状態)に住む常在菌で、通常は皮膚を弱酸性に保つ役割もあります。しかし皮脂過多や毛穴詰まりで数が増えすぎると炎症を引き起こします。一方の黄色ブドウ球菌は、肌の表面で増殖し、毛嚢炎(デキモノ)・アトピー性皮膚炎の悪化・乾燥・赤みなど幅広い肌トラブルに関与します。


エンドリシンに注目したニキビ研究では、2024年1月に大阪公立大学大学院医学研究科が「ニキビ患者を対象としたバクテリオファージ療法の臨床試験」を開始したことが発表されました。この試験では、ロシアのミクロミル社製造のファージ製剤(日本名称:イスクラファージスキンバランス)を使用し、安全性と効果の評価を目的とした研究が進められています。これは、日本国内でバクテリオファージ療法がニキビ治療として正式に臨床試験に入った初の事例として、大きな注目を集めています。


参考:大阪公立大学による臨床試験開始のプレスリリース
尋常性ざ瘡(ニキビ)患者を対象としたバクテリオファージ療法の臨床試験開始(大阪公立大学)


さらに科研費研究(KAKENHI-PROJECT-22KJ1238)では、黄色ブドウ球菌を溶菌するファージS25-3株由来のエンドライシンを再現した組換えタンパク質をアトピー性皮膚炎モデルに使用し、ブドウ球菌を特異的に除菌できることが示されました。これは美容の世界においても非常に重要な知見で、「エンドリシンで肌の悪玉菌だけを除去する」アプローチの科学的根拠となっています。


エンドリシンと抗生物質の決定的な違い:肌フローラを守る選択的作用

ニキビ治療や肌荒れのために皮膚科で抗生物質を処方された経験のある方は多いはずです。抗生物質は確かに炎症を鎮める効果がありますが、大きな問題点を抱えています。それは「善玉菌・悪玉菌の区別なく、広範囲の細菌を抑制・殺菌してしまう」という点です。


抗生物質によって腸内・皮膚上の善玉菌が減少すると、肌フローラのバランスが崩れます。使用後に「ニキビが一時的に治っても繰り返す」「肌が乾燥しやすくなった」という感想を持つ方がいる背景には、このフローラの乱れが関係していると考えられます。また、抗生物質を長期・断続的に使用すると「耐性菌(薬が効かない菌)」が生まれるリスクも大きくなります。


エンドリシンは、この点でまったく異なるアプローチを取ります。


🔍 エンドリシンと抗生物質の比較


| 項目 | 抗生物質 | エンドリシン |
|---|---|---|
| 作用対象 | 広範囲の細菌 | 特定の標的菌のみ |
| 善玉菌への影響 | 破壊する | ほぼ影響なし |
| 耐性菌の発生リスク | 高い | 非常に低い |
| ヒト細胞への影響 | 副作用あり | 影響なし |
| 予防的使用 | 困難(医師の管理が必要) | 化粧品として日常使用可能 |


エンドリシンが耐性菌を生みにくい理由は、その作用が「物理的・酵素的な細胞壁の破壊」だからです。細菌が遺伝子変異によって抗生物質を迂回するメカニズムを持つのに対し、細胞壁の根本構造を変えることは細菌にとって非常に困難です。変えてしまうと細菌自身が生存できなくなるからです。これは抗生物質とは根本的に異なるメカニズムで、細菌が耐性を獲得しにくい理由の一つとなっています。


耐性菌の問題は深刻です。WHOの推計では、現在の傾向が続けば2050年には薬剤耐性菌による死亡者が年間1,000万人を超えるとされています。エンドリシンはこの問題を解決する次世代の抗菌手段としても世界中の研究者から注目されています。


参考:抗生物質の代替薬としてのエンドリシンの説明(MyMicrobiome)
薬剤耐性菌を防ぐ抗生物質の代替薬となるもの(MyMicrobiome)


エンドリシンを活用した化粧品の最新動向:日本初の製品も登場

エンドリシン・バクテリオファージを活用したスキンケア製品は、欧米では先行して展開されており、日本でも近年急速に広がってきています。


まず注目すべきは「イスクラファージ Skin Balance」シリーズです。ロシアのミクロミル社が研究開発したバクテリオファージを日本で初めてスキンケアに活用した美容液として、株式会社イスクラ産業が日本市場に展開しています。テレビ番組「カズレーザーと学ぶ」でも紹介され、話題を集めました。バクテリオファージ由来のDNAを配合し、肌フローラの調和(肌のマイクロバイオームバランス)を整えることをコンセプトにした製品で、アルコール・パラベンフェノキシエタノール無添加という処方も特徴です。


さらに2025年には、日本人医師(北岡一樹氏)が早稲田大学との共同研究で開発した「DR.Phageスキンケアローション」が国産初のバクテリオファージ配合化粧水として登場しました。黄色ブドウ球菌のみを標的とするバクテリオファージを国内で厳選・品質管理し、毛処理後のデキモノ予防・肌荒れケアを主な用途として販売されています。価格は100mlで3,500円(税抜)と比較的手の届きやすい価格帯です。


いずれの製品も「肌の悪玉菌だけにアプローチし、善玉菌はそのまま」という、従来のスキンケアにはなかった新しい発想に基づいています。この「肌フローラを乱さないケア」は、何度もニキビが繰り返される方や、抗生物質系の治療に抵抗を感じている方にとって、新たな選択肢となり得ます。


参考:DR.Phageの詳細(PR TIMES)
医師が開発した国産バクテリオファージ配合化粧水「DR.Phageスキンケアローション」(PR TIMES)


エンドリシンの「グラム陽性菌への有効性」が美容に特に重要な理由

エンドリシンの弱点として知られているのは、「グラム陰性菌には効きにくい」という点です。グラム陽性菌は細胞壁(ペプチドグリカン)が外側にむき出しになっているため、エンドリシンが直接アクセスして破壊できます。一方、グラム陰性菌は外膜という防護壁があり、エンドリシンが内側の細胞壁まで届きにくいのです。


ところが、肌トラブルの主要原因菌の多くはグラム陽性菌です。


🦠 肌トラブルに関係するグラム陽性菌の例


- 黄色ブドウ球菌(S. aureus):ニキビ重症化・アトピー・毛嚢炎の主犯
- 表皮ブドウ球菌(S. epidermidis):美肌菌(エンドリシンでの除去対象ではない)
- アクネ菌(C. acnes):グラム陽性の嫌気性菌(ニキビの原因)
- 連鎖球菌(Streptococcus属):皮膚感染症の原因になることがある


つまり、「エンドリシンが得意なグラム陽性菌 = 美容で問題になる主要な菌」という構図が成り立ちます。これはエンドリシンが美容分野にこれほどマッチしている理由の核心とも言えます。


美容面でのデメリットを整理します。アクネ菌はグラム陽性ではあるものの、毛穴の奥の嫌気性環境に生息しているため、外側から塗布するだけでは到達しにくいというケースもあります。ただし黄色ブドウ球菌については、皮膚の表面に存在しているため、外用のエンドリシンが直接アプローチできる可能性が高いとされています。グラム陰性菌にも対応できる「新規エンドリシン(Artilysin)」と呼ばれる改良型の開発も2009年から世界中で進んでおり、今後さらなる応用拡大が期待されています。


エンドリシンとマイクロバイオーム(肌フローラ)の深い関係

「マイクロバイオーム」とは、人体に住む微生物の総体のことです。腸内フローラが有名ですが、皮膚にも同様に複雑な「皮膚マイクロバイオーム(肌フローラ)」が存在します。


近年の研究では、敏感肌・肌荒れ肌の方は、健康な肌の方に比べて皮膚マイクロバイオームの多様性が低く、美肌菌である表皮ブドウ球菌の割合が低いことが明らかになっています(資生堂の研究でも確認されています)。また、黄色ブドウ球菌が増えると「クオラムセンシング」という細菌間シグナルが活性化し、皮膚バリアの損傷・炎症・かゆみの悪化が連鎖的に起こることもわかっています。


肌フローラが乱れると悪循環が始まります。


洗いすぎ・殺菌成分への過度な依存・抗生物質の乱用は、この肌フローラの多様性を下げる主な要因として挙げられます。逆に、悪玉菌だけを選択的に除去できれば、善玉菌が自然に増えていく環境を作ることができます。エンドリシンの標的特異性は、まさにこの「フローラを壊さずに整える」というコンセプトにぴったり合致しています。


肌マイクロバイオームの乱れを放置すると、表皮の水分保持能(TEWL)が低下し、乾燥・炎症・色素沈着が起こりやすくなることも研究で示されています。エンドリシンアプローチは、ニキビを治すだけでなく「そもそも乱れたフローラを取り戻す」という、美容の根本的な問題解決につながる可能性を持っています。


参考:資生堂による皮膚菌叢研究
資生堂、菌叢研究を通じて敏感肌には表皮ブドウ球菌の生育を阻害する物質が存在することを発見(資生堂)


美容に興味がある人こそ知っておくべきエンドリシンの独自視点:「ウイルス由来」の成分を肌に塗ることの安全性

エンドリシンは「バクテリオファージ(細菌ウイルス)」由来の成分です。「ウイルス由来を肌に塗って大丈夫なの?」と感じる方もいるかもしれません。安全性について、ここで整理しておきましょう。


まず、バクテリオファージは「細菌にしか感染しないウイルス」です。人間の細胞には感染しないため、いわゆるインフルエンザウイルスや新型コロナウイルスとはまったく異なります。地球上に最も多く存在する生物群の一つであり、私たちは毎日、食事や呼吸を通じて無数のバクテリオファージにさらされています。


エンドリシンはその「タンパク質(酵素)」の部分であり、ファージ全体ではありません。タンパク質そのものは皮膚には吸収されにくいため、肌の表面で細菌に働きかけます。これまでの動物モデルや食品分野での試験で安全性が確認されており、現在流通している製品も厳しい品質管理のもとで製造されています。


安全性が前提です。


とはいえ、個人差や体質による反応がゼロとは言えません。新しいスキンケア成分全般に言えることですが、最初は腕の内側などでパッチテスト(少量を目立たない部位に塗って24時間様子を見る)をしてから顔に使い始めることが基本的な使い方のコツです。これはエンドリシン配合製品に限らず、すべての新成分に共通するアドバイスです。


なお、現在市販されているバクテリオファージ・エンドリシン配合の美容液や化粧水は、日本の薬機法に基づいた「化粧品」もしくは「医薬部外品」として販売されており、一定の安全基準を満たした製品です。気になる方はまず皮膚科医やコスメの専門家に相談するのが確実な方法です。


エンドリシンの将来性:次世代スキンケアとして広がる可能性

エンドリシンを含む「ファージ療法・ファージ成分応用」は、医療・美容の両分野で世界的に注目が高まっています。


医療の分野では、薬剤耐性菌(抗生物質が効かない菌)の急増という深刻な問題を背景に、代替治療法としてのエンドリシンへの期待が非常に高まっています。ヨーロッパ・アメリカ・ジョージア共和国などではすでに臨床研究が盛んに行われており、日本でも大阪公立大学を中心にニキビ治療での臨床試験が進んでいます。


美容の分野では、「肌フローラを整える」という新しいアプローチとして、プロバイオティクス(善玉菌を補う)やプレバイオティクス(善玉菌の餌を補う)に続く「ファージバイオティクス(悪玉菌を選択除去する)」というコンセプトが生まれつつあります。


今後に期待できることをまとめると、以下のような展開が予想されます。


- 🔬 アクネ菌に特化したエンドリシン配合のニキビ治療化粧品の登場
- 🛡️ アトピー性皮膚炎ケア向けのエンドリシン外用薬の実用化
- 🌱 腸内マイクロバイオームと皮膚マイクロバイオームの両面からアプローチするトータルケアの発展
- 💡 改良型エンドリシン(新規エンドリシン®)によるグラム陰性菌への対応拡大


まだ発展途上の分野です。


現時点では入手できる製品の種類はまだ限られていますが、今後5〜10年でエンドリシン配合製品が美容市場に広く普及する可能性は非常に高いとみられています。美容に敏感な方であれば、今のうちにこの成分と仕組みを理解しておくことが、将来の賢いスキンケア選びに直結するでしょう。


参考:次世代型抗菌戦略としてのエンドリシン研究(KAKEN)
皮膚異常細菌叢の是正によるアトピー性皮膚炎の新規抑制概念の構築(科研費研究データベース)