

毎日丁寧にスキンケアしているのに、美白化粧品を塗るほどシミが増えていた、という経験を持つ人が約6割いる。
ベツリン酸(Betulinic Acid)は、五環性ルパン型トリテルペノイドと呼ばれる天然有機化合物の一種です。化粧品成分としての表示名は「ベツリン酸」、英語ではBetulinic Acidと記載されます。
この成分が特に多く含まれているのが、白い幹が美しいシラカバ(Betula platyphylla)の樹皮です。シラカバ樹皮にはベツリン酸の前駆体であるベツリンが豊富に存在し、そこから変換されることでベツリン酸が得られます。シラカバ以外にも、ユーカリ(Eucalyptus globulus)、カリン(Chaenomeles sinensis)、ナツメ(Ziziphus jujuba)の果実、柿(Diospyros kaki)のヘタなど、意外と身近な植物にも含まれています。
つまり植物由来の成分です。
美容の文脈でベツリン酸が特に注目されるようになったのは比較的最近のことで、2018年に九州大学とスカルパの共同研究、1997年にポーラ化成工業の特許出願、そして2023年の福井県立大学による国際学術誌への研究発表と、科学的裏付けが次々と積み重なっています。
スキンケアの世界では「植物由来=マイルドで効果が弱い」と思われがちですが、ベツリン酸は植物由来でありながら非常に高いメラニン抑制活性を示す、まさに意外な実力派成分といえます。
化粧品成分オンライン:ベツリン酸の基本情報・配合目的・安全性(美白・抗老化作用の根拠となる試験データが詳しく掲載)
ベツリン酸の美白効果を語るうえで外せないのが、メラニン生成の50%阻害濃度(IC50値)の比較データです。
2018年に九州大学とスカルパが報告した試験では、マウス由来のB16メラノーマ細胞を使ったin vitro試験において、ベツリン酸のIC50値は12.0μMでした。比較対象として使われた美白成分の定番アルブチンのIC50値は976.5μM。数字が小さいほど少量で効く(活性が高い)ことを意味するため、この結果はベツリン酸がアルブチンに比べて約80倍以上のメラニン抑制活性を持つことを示しています。
これは驚きの数字です。
アルブチンは厚生労働省が認める医薬部外品有効成分として、多くの美白化粧品に配合されている実績ある成分です。そのアルブチンとの差が約80倍というのは、数字のうえだけでなく実際の美白力としても非常に大きな差といえます。
さらに重要なのは、この試験においてベツリン酸が細胞毒性の低さも同時に確認されていることです。メラニンをしっかり抑えながら細胞への悪影響が小さい、というのは化粧品成分として理想的な条件といえます。
安全性が条件です。
また1997年にポーラ化成工業が実施したヒト使用試験では、シミ・ソバカスを有する28名の女性を対象に、0.05%ベツリン酸配合乳液を6週間使用したグループと未配合乳液を使用したグループを比較。ベツリン酸配合グループでは18名中、「有効」が8名・「やや有効」が9名と合計17名に効果が確認されました。一方の未配合グループでは「やや有効」が1名のみで、その差は歴然です。
福井県立大学:ナツメのベツリン酸に皮膚細胞の老化を抑制する効果を発見(2023年・国際学術誌掲載研究の詳細)
美白作用と同じく注目されているのが、ベツリン酸のⅠ型コラーゲン産生促進作用です。
肌のハリや弾力を支えているのは真皮のコラーゲン繊維で、そのうちⅠ型コラーゲンが80〜85%を占めています。しかし、紫外線を慢性的に浴びることで真皮のⅠ型コラーゲン繊維は顕著に減少し、深いシワやたるみを引き起こす「光老化」が進行します。
光老化は要注意です。
九州大学とスカルパが2018年に報告したin vitro試験では、ヒト正常皮膚線維芽細胞にベツリン酸を添加し、コラーゲン生成活性(CP)と細胞生存率(CV)の比(CP/CV比)を測定しました。基準値1.0以上がコラーゲン産生促進を意味するこの指標で、ベツリン酸は1μg/mLという非常に低い濃度でCP/CV比1.6、5μg/mLで3.0、10μg/mLで2.6という顕著な結果を示しました。
つまり低濃度でも効果があるということです。
同時期にポーラ化成工業がおこなったヒト使用試験でも、小ジワを有する26名の女性に対して0.05%ベツリン酸配合乳液を6週間使用してもらったところ、配合グループ16名のうち「有効」6名・「やや有効」8名と合計14名に改善効果が確認されました。未配合グループでは「やや有効」が1名のみという結果との差は大きく、エイジングケアへの実用的な有効性を示しています。
コラーゲンの産生が促されると、肌の内側からハリが回復し、小ジワや毛穴の目立ちが改善されやすくなります。エイジングサインが気になりはじめた30〜40代の方が注目するのは自然な流れといえるでしょう。
コラーゲンの産生促進が基本です。
2023年4月、福井県立大学生物資源学部の伊藤崇志教授らの研究チームが、食品化学の国際的権威学術誌「Journal of Agricultural and Food Chemistry」に重要な研究成果を発表しました。
研究チームは、培養した正常なヒト皮膚線維芽細胞にベツリン酸を処理し、その影響を詳しく調査しました。その結果、以下の2つの重要な効果が明らかになりました。
これは注目すべき発見です。
タイプ1インターフェロンのシグナル伝達は、細胞が老化するにつれて過剰に活性化する経路で、これが老化した肌の炎症や機能低下に関係しています。ベツリン酸がこの経路を抑制するということは、「肌細胞そのものが老化するスピードを遅らせる」という、これまでの美容成分にはなかったアプローチを持つことを意味します。
一般的なエイジングケア成分は、コラーゲンやヒアルロン酸を補う「補填型」のアプローチが多いです。これに対してベツリン酸は、細胞自体の老化を抑制する「根本的なアプローチ」という点で際立っています。
研究の可能性は大きいといえます。
また、ナツメは福井県の特産品として知られており、この研究成果がナツメを活用した新たなスキンケア製品やサプリメントの開発にもつながることが期待されています。地域産業と最先端の美容科学が手を組む形で、ベツリン酸の応用範囲は今後さらに広がっていくでしょう。
ベツリン酸は特定の植物にのみ存在する希少成分ではなく、実は私たちの身近にある植物にも含まれています。
主な含有植物と食品を整理すると次のとおりです。
これはうれしい話ですね。
化粧品にベツリン酸を取り込む場合は、純粋なベツリン酸単体としての配合よりも、シラカバ樹皮エキス・ナツメ果実エキス・ヨーロッパシラカバ樹皮エキスなどの植物エキスとして配合されるケースが一般的です。これらのエキスはベツリン酸を含有しながら、他のトリテルペノイドや保湿成分も複合的に含むため、単一成分よりも多角的なスキンケア効果が期待できます。
成分表示の確認が重要です。化粧品を選ぶ際には全成分表示の中に「ナツメ果実エキス」「シラカンバ樹皮エキス」「ヨーロッパシラカバ樹皮エキス」の記載を確認しましょう。ベツリン酸を手軽に取り込む一番の近道は、これらのエキスが配合された化粧品を選ぶことです。
美白とコラーゲン産生に加え、ベツリン酸にはもうひとつ重要な側面があります。
それが抗炎症・抗酸化作用です。
ベツリン酸はオレアノール酸やウルソール酸と同じ「機能性トリテルペン」に分類されており、炎症を引き起こす酵素であるシクロオキシゲナーゼ(COX)の初期段階を抑制する働きが報告されています。
炎症が皮膚に与える影響は想像以上に大きいです。ニキビ跡のシミ(炎症後色素沈着)はその代表例で、肌の炎症が繰り返されるたびにメラニン生成が促進され、シミが定着しやすくなります。また慢性的な炎症は真皮のコラーゲンを分解する酵素(MMP:マトリックスメタロプロテアーゼ)の産生を高め、肌のハリ・弾力の低下を加速させます。
抗炎症と美白のセットで対策できるのは大きなメリットです。
抗酸化作用については、紫外線や大気中の汚染物質によって肌内部に発生する活性酸素を中和することで、シミ・くすみ・シワの原因となる酸化ダメージを抑えます。日々の紫外線を完全にゼロにすることは難しいですが、スキンケアで抗酸化成分を取り入れることで、酸化ダメージを積み重ねにくい肌環境を整えることができます。
ベツリン酸が持つ「美白+コラーゲン産生促進+抗炎症+抗酸化」という複合的な作用は、シミ・シワ・くすみといった複数のエイジングサインに同時アプローチできる点が他の単一機能成分との大きな違いです。
複合的な効果が強みです。
どれだけ効果が高くても、肌への安全性が確認されていなければ毎日使えません。ここではベツリン酸の安全性データを整理します。
ポーラ化成工業が実施した動物試験のデータによると、以下のことが確認されています。
このデータをふまえ、化粧品成分オンラインでは「化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます」と評価しています。
一般的に安全性は高いといえます。
ただし、注意したい点もあります。ベツリン酸を高濃度(10%前後)で配合した動物試験では皮膚反応が出なかったという結果は心強いですが、ヒトに対する眼刺激性のデータが現時点では不十分です。目の周りに使用する際や、敏感肌の方が高濃度配合製品を使用する場合は、パッチテストをして確認するのが安心です。
また、ベツリン酸を含む植物エキス(シラカバ樹皮エキスなど)についてはアレルギーの観点も考慮が必要です。シラカバ花粉アレルギーのある方は、シラカバ由来成分に反応する可能性もゼロではないため、成分表示の確認と使用前のパッチテストをお勧めします。
パッチテストが条件です。
ベツリン酸は現時点で化粧品への単体配合実績がほとんどなく、多くの場合はシラカバ樹皮エキスやナツメ果実エキスなどの植物エキスとして製品に配合されています。
ベツリン酸関連成分を含む可能性が高い製品を探す際は、全成分表示で以下の成分名を確認することをおすすめします。
具体的な製品としては、2021年に株式会社ウテナが福井県・福井市棗地区のナツメから抽出したナツメエキスを配合したスキンケアライン「HIRAKU」を発売した例があります。地域の特産品と美容科学を組み合わせた日本初の取り組みで、化粧水・乳液・オールインワンジェルクリームなどが展開されました。
また、国際市場では「Nixalin(ニキサリン)」というベツリン(ベツリン酸の前駆体)を主成分とした化粧品素材が存在し、皮膚バリア機能の回復と保護、皮膚再生への効果が注目されています。わずか2週間で肌の水分保持機能と快適さに目視できる変化をもたらすとされ、消費者が4週間後にはより健康的で若々しい肌を実感するとのデータが報告されています。
成分表示を確認するのが第一歩です。ドラッグストアやコスメショップで美白・エイジングケア商品を選ぶ際に、上記の植物エキス名が入っているものを選ぶだけで、ベツリン酸の恩恵をスキンケアに取り入れることができます。
化粧品成分オンライン:ナツメ果実エキスの基本情報・配合目的・安全性(ベツリン酸含有成分の詳しい解説)
ベツリン酸単体の効果も十分魅力的ですが、他の美容成分と組み合わせることでさらに相乗的な効果が期待できます。
まず美白の観点では、ベツリン酸はメラニン合成の「生産段階」を抑制する成分です。これに対し、トラネキサム酸はメラノサイト活性化因子の分泌を抑制する「活性化段階」のアプローチ、ビタミンC誘導体は生成されてしまったメラニンの「酸化還元(色を薄くする)」アプローチをとります。つまり、これらを組み合わせることでメラニンの生成・定着・色素沈着を多角的にブロックできる可能性があります。
次に、エイジングケアとしては、ベツリン酸のコラーゲン産生促進効果にレチノール(ビタミンA)やペプチド成分を組み合わせることで、コラーゲンの生成・維持を複数のルートから支えられます。ターンオーバーを整えるレチノールと、線維芽細胞に直接働くベツリン酸は方向性が異なるため、互いを補い合う関係といえます。
ただし、成分同士の相性や使用する濃度・pH環境によっては効果が減弱する場合もあります。ベツリン酸関連の植物エキスを含む製品を選ぶ際は、ビタミンCやレチノールとの併用を前提としたブランドのライン使いを優先するのが、安全かつ効果的な使い方の基本です。
組み合わせは慎重に選びましょう。
特にナイアシンアミドはメラニンの転送を抑制する働きがあり、ベツリン酸の「メラニン生成抑制」と組み合わせることで、生成段階と転送段階の両面からシミを防ぐことができます。実際に市販の美白美容液にこれらを複合的に配合した製品も増えており、成分表示を見比べながら選ぶ習慣をつけると美容効果を最大化しやすくなります。
ベツリン酸は現在、美容・医療の両分野で注目度が急速に高まっています。
グローバルなベツリン酸市場のレポートによると、化粧品およびスキンケア用途は抗酸化・抗炎症作用の利点が評価され、市場シェアの26%以上を占めています。さらに、バイオテクノロジーと有機化合物の研究投資が増加しており、スキンケア製品へのベツリン酸配合は今後さらに拡大する見通しです。
注目が集まっているのは確かです。
医療の分野では、ベツリン酸はがん細胞に対するアポトーシス(細胞死)誘導効果や、血管新生抑制効果が研究されており、天然由来の抗腫瘍候補成分として複数の研究機関で調査が進んでいます。2025年に発表された研究では、大腸がん細胞に対する抗炎症・抗酸化・アポトーシス誘導効果を示唆するデータも報告されました。これは美容目的での使用とは別軸の可能性ですが、安全性への信頼をさらに裏付ける材料となっています。
美容の世界では、既存の美白成分であるアルブチン・コウジ酸・ビタミンC誘導体に次ぐ「第4の美白成分軍」として、ベツリン酸をはじめとする植物由来トリテルペノイドへの関心が高まっています。コンシューマーが「クリーンビューティー(自然派・低刺激)」を求める傾向が強まっている中で、植物由来かつ高い活性を持つベツリン酸は、この流れにぴったりとはまる成分といえます。
今後の展開が楽しみです。日本国内でも、福井県産ナツメを活用したスキンケアブランドの登場のように、地域資源とベツリン酸の研究成果が結びついた製品開発が加速することが期待されます。
Global Growth Insights:ベツリン酸の世界市場規模・成長レポート(化粧品・医薬品分野での市場動向の概要)
一般的なベツリン酸の記事はスキンケア製品への配合に焦点が当てられていますが、ベツリン酸は食べ物からも摂取できる成分です。
ナツメは中国医学で「百益の果実」と呼ばれ、気と血の両方を補う食材として長く親しまれてきました。乾燥ナツメは1日5〜10粒程度をそのまま食べたり、お茶に入れたり、お粥に加えたりと幅広い食べ方ができます。ナツメには食物繊維・ビタミンC・鉄分・亜鉛も豊富で、腸内環境の改善や免疫力向上にも役立ちます。
食べながらケアできるのはうれしいですね。
梅エキスにもオレアノール酸・ウルソール酸とともにベツリン酸が含まれており、日本人には馴染み深い「梅」が実は機能性トリテルペンを含む美容食材でもあるという点は見逃せません。毎日の食事に梅干し1個を加える習慣は、消化促進・疲労回復だけでなく、ベツリン酸を体内に取り込む手軽な方法にもなります。
ただし、食品からのベツリン酸摂取量は化粧品に配合される有効濃度(0.05%前後)と比べて微量であり、劇的な美肌効果を食事だけに期待するのは過信になります。あくまで「スキンケアと食事の両軸でアプローチする」という考え方のひとつとして、日々の食卓にナツメや梅を取り入れる習慣を加えてみるのが現実的な活用法です。
外から塗ると内から食べるのセットが理想です。
| ベツリン酸の摂取方法 | 手軽さ | 期待できる効果 | コツ |
|---|---|---|---|
| ナツメ果実エキス配合化粧品 | ⭐⭐⭐⭐⭐ | 美白・コラーゲン産生・細胞老化抑制 | 全成分で「ナツメ果実エキス」を確認 |
| シラカバ樹皮エキス配合化粧品 | ⭐⭐⭐⭐⭐ | 美白・バリア機能・保湿 | 「シラカンバ樹皮エキス」表示を確認 |
| 乾燥ナツメを食べる | ⭐⭐⭐⭐ | 抗酸化・整腸・鉄補給との相乗効果 | 1日5〜10粒。お茶・お粥にも応用可 |
| 梅干し・梅エキスを食べる | ⭐⭐⭐⭐⭐ | 疲労回復・抗酸化・腸活との複合効果 | 1日1粒の梅干しから無理なく継続 |
ここまでの内容を整理して、ベツリン酸(関連成分含む)を含む化粧品を選ぶ際の実践的なポイントをまとめます。
継続することが前提です。ベツリン酸関連の成分は肌の根本的な細胞機能に働きかける性質上、即効性より「じわじわと肌質が変わっていく」感覚が実感のスタイルになります。シミや小ジワが気になりはじめた方、エイジングケアを今から始めたい方にとって、ベツリン酸は知っておいて損のない成分です。
化粧品成分オンライン:美白成分の解説と成分一覧(ベツリン酸を含む主要美白成分の比較が一覧で確認できる)