

「抗酸化」と書かれた化粧品を選んでも、その数値がDPPH法で測ったものなら、あなたが本当に気にしている水溶性成分の効果を正確に反映していない可能性があります。
ABTS法の原理を理解するには、まず「ABTSラジカル」という物質を知ることから始まります。ABTSとは「2,2'-アジノビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)」という化合物の略称で、これに酸化剤(通常はペルオキソ二硫酸カリウム)を加えると、特徴的な青緑色のカチオンラジカル(ABTS•⁺)が生成されます。
この青緑色の溶液が、ABTS法の測定の核心です。抗酸化成分が存在すると、ABTSラジカルに電子が渡されて色が薄くなっていきます。
これが「脱色反応」です。
溶液が透明に近づくほど、その成分の抗酸化力が高いということになります。
試験管の中で起きていることはシンプルです。もとは鮮やかな青緑色 → 抗酸化成分を加える → 脱色していく → 吸光度(734nmの波長)で色の濃さを計測する、という流れになります。
つまり「色が消える速さと量で抗酸化力を測る」ということです。
このABTSラジカルはDPPHラジカルと異なり、それほど安定ではありません。そのため使用前に酸化剤を使って「その都度」ラジカルを調製する必要があります。手間はかかりますが、それだけ精度の高い評価ができるというメリットがあります。
ABTS法の反応原理は、「SET機構(Single Electron Transfer:一電子移動反応)」に分類されます。抗酸化物質がラジカルや酸化物に1個の電子を渡すことで、ラジカルの活性を打ち消す仕組みです。
同じSET機構を使うものに、おなじみのDPPH法やFRAP法があります。抗酸化能の評価法は大きく2つに分けられており、HAT機構(水素原子移動反応)とSET機構があります。ORAC法はHAT機構、ABTS法はSET機構に属します。
SET機構が重要なのは、金属イオンの還元能も同じ仕組みで評価できるからです。つまりABTS法での測定値には、金属イオンに対する還元能も反映されている可能性があります。これは抗酸化力の評価をより多角的に行える点で、美容成分の品質評価に意義を持ちます。
抗酸化反応には2種類の原理があります。HAT機構(水素原子移動)とSET機構(電子移動)です。
ここが基本です。
| 機構 | 代表的な評価法 | 特徴 |
|---|---|---|
| HAT機構 | ORAC法、TRAP法 | 水素原子を供与してラジカルを消去 |
| SET機構 | ABTS法、DPPH法、FRAP法 | 電子を1個渡して酸化物を還元 |
ABTS法はSET機構をベースに、734nmの光吸収を利用して測定します。この波長は可視光の「赤色に近い領域」で、ABTSラジカルの青緑色が吸収する波長帯と一致しています。色が薄くなるにつれ吸光度が下がり、その変化量から抗酸化能を算出します。
実際の測定ステップを整理します。ABTS法の手順は大きく3段階に分けられます。
まず「ラジカルの調製」です。7mMのABTS水溶液にペルオキソ二硫酸カリウムを混ぜ、12〜16時間、暗所に置きます。これがABTSラジカルを生成するフェーズです。その後、734nmの吸光度が0.7±0.02になるように希釈します。これが「ABTSワーキングソリューション」です。
次に「反応・測定」です。調製したABTS溶液に試料(評価したい成分)を加え、30℃で4分間インキュベートした後、734nmの吸光度を測定します。試料を加えない場合との吸光度の差が「消去率」になります。
最後に「TEACの算出」です。試料のIC₅₀値(吸光度を50%低下させる濃度)を求め、標準物質であるトロロックスのIC₅₀値と比較することで、「トロロックス等価抗酸化能(TEAC)」を算出します。
手順はシンプルですね。ただし、ABTSラジカルを毎回調製する必要があるのが特徴です。
トロロックスは1974年に化学合成されたビタミンEの水溶性誘導体で、抗酸化能の「ものさし」として広く使われています。「TEAC値が2.0μmol TE/μmol」であれば、「同じモル量のトロロックス2個分の抗酸化力がある」という意味になります。
ABTS法とDPPH法は、どちらもSET機構を使ったラジカル消去測定法です。
しかし重要な違いがあります。
それが「水溶性・脂溶性への対応力」です。
DPPH法で使われるDPPHラジカルは疎水性(脂溶性)の性質を持ちます。そのためビタミンEなど脂溶性の抗酸化物質との相性が良く、水溶性成分(ビタミンCなど)の評価には向いていません。
これがDPPH法の盲点です。
一方ABTS法は、水溶性・脂溶性どちらの抗酸化物質も測定できる有利さがあります。化粧品成分には水溶性のビタミンC誘導体も脂溶性のビタミンEも含まれています。そのため、総合的な抗酸化能を評価したい場合にABTS法がより適していると言えます。
両方測れるのがABTS法の強みです。
さらに、同じ成分を測定しても両法の数値が一致しないことがあります。特にカテコール構造を持つ化合物(緑茶カテキンや没食子酸など)の場合、DPPH法はABTS法より約1.3μmol TE/μmol高い活性値を示すことが、福岡女子大学・高知大学・国立医薬品食品衛生研究所などの共同研究(2014年)で明らかになっています。
スキンケア製品を選ぶ際、「抗酸化力〇〇倍」という表示を見たときは、どの方法で測ったか確認するのが理想です。
測定法によって数値が変わってくるからです。
参考:ABTS法・DPPH法の特性比較に関する学術論文(日本食品保蔵科学会誌 2014年)
酸化防止剤力価評価を目的としたDPPHおよびABTSラジカル消去能評価法の特性比較 - CiNii Research
ABTS法は美容・化粧品の研究現場で具体的にどのように使われているのでしょうか?
化粧品原料の開発現場では、新しい植物エキスや天然抗酸化成分の「実力」を客観的に数値化するためにABTS法が使われています。例えば「ザクロ果実エキス」「緑茶エキス」「アスタキサンチン」「ビタミンC誘導体」などの抗酸化能評価において、ABTS法は標準的な測定手法として採用されています。
コーセーコスメトロジー研究財団の研究報告によれば、ポリフェノール系誘導体の抗酸化能評価にABTSアッセイが用いられ、TEAC値を算出することで成分ごとの抗酸化能を相対的に比較しています。この研究では、「天然を超える抗酸化活性」を持つ化合物の探索にもABTS法が活用されました。
具体的な数値の例を挙げます。スキンケアによく使われるEGCG(エピガロカテキンガレート:緑茶の主要カテキン)のTEAC値はABTS法で約3〜4μmol TE/μmol程度と報告されています。比較として、ビタミンC(L-アスコルビン酸)の同条件でのTEAC値はおよそ1.0〜1.3μmol TE/μmol程度です。つまりEGCGはビタミンCの約3倍以上の抗酸化力を持つことになります。これはスキンケア選びの参考になる数字ですね。
化粧品の研究機関では、ABTS法とORAC法などを組み合わせて多角的に評価します。1つの手法だけに頼らないことが重要な原則です。
参考:化粧品原料の生物学的な有効性評価について(化粧品科学研究会)
化粧品原料の生物学的な有効性評価(化粧品科学研究会PDF)
ABTS法の結果として得られる「TEAC値」は、美容成分の抗酸化力を比較するうえで非常に実用的な指標です。TEAC値(Trolox Equivalent Antioxidant Capacity)とは、ビタミンEの水溶性誘導体「トロロックス」の抗酸化力を「1」としたときの相対値です。
値が大きいほど抗酸化力が高いと判断します。以下に代表的な美容成分のTEAC値(ABTS法)の目安を整理します。
| 成分名 | TEAC値(目安) | 美容での用途 |
|---|---|---|
| L-アスコルビン酸(VC) | 約1.0〜1.3 | 美白・コラーゲン合成促進 |
| エピカテキン(EC) | 約2.0〜2.5 | 緑茶エキス・エイジングケア |
| EGCG(緑茶主要カテキン) | 約3.0〜4.0 | 抗酸化・抗炎症 |
| ケルセチン | 約2.0〜2.2 | ポリフェノール・抗炎症 |
| 没食子酸 | 約3.0〜3.5 | 収れん・抗酸化 |
TEAC値が高い成分ほど「少量でラジカルをより多く消去できる」ということになります。
ただし注意が必要な点があります。TEAC値は試験管内(in vitro)の測定値です。実際に皮膚に塗った場合の効果は、皮膚浸透性・製剤中での安定性・pH・他成分との相互作用などによって変わります。TEAC値はあくまで比較の「出発点」として捉えることが大切です。
TEAC値だけで選ばないのが原則です。
安定性と浸透性も合わせて確認しましょう。
スキンケアを選ぶ際に成分の抗酸化力が気になる場合は、「化粧品成分オンライン」(cosmetic-ingredients.org)のような専門サイトで各成分のエビデンスを調べてみることをおすすめします。各成分のABTS法などの評価データをまとめたページが公開されています。
参考:TCI Chemicals社によるトロロックス(抗酸化能測定の標準物質)解説
活性酸素消去能の指標となる抗酸化物質 トロロックス - TCI Chemicals
そもそも「なぜ抗酸化能を測るのか」という問いに立ち返ると、活性酸素と肌老化の深い関係が見えてきます。
活性酸素(フリーラジカル)は、紫外線・ストレス・タバコ・大気汚染などによって皮膚内で発生します。体には本来、SOD(スーパーオキシドジスムターゼ)などの抗酸化酵素が備わっており、これが活性酸素を消去しています。しかし加齢とともにこの防御能力が落ちてきます。
これは痛いですね。
活性酸素が増えすぎると、コラーゲンやエラスチンが分解されてシワやたるみが増え、メラノサイトが過剰にメラニンを産生してシミの原因にもなります。さらに、皮脂が酸化してできる「過酸化脂質」は肌の老化色素(リポフスチン)の材料にもなります。
外からの抗酸化成分の補給が大切になるのはここです。スキンケアに含まれる抗酸化成分が、この酸化ダメージを食い止める役割を果たします。ABTS法はその成分の「戦力」を測る手法、ということです。
活性酸素による肌ダメージは4段階で進みます。まず発生(紫外線などが引き金)→ コラーゲン分解(ハリ・弾力が失われる)→ メラニン過剰産生(シミ・くすみ)→ 脂質酸化(過酸化脂質によるくすみ・老化色素)という流れです。
つまり、化粧品の抗酸化成分を選ぶ目を養うことは、肌老化への対策に直結します。ABTS法はその「目」を育てる科学的な根拠を提供してくれる手法です。
ABTS法の仕組みを理解したところで、実際のスキンケア選びに活かす方法を整理します。
成分選びで最初に確認したいのは「水溶性か脂溶性か」です。水溶性抗酸化成分(ビタミンC誘導体・ポリフェノール類など)はABTS法での評価に向いており、脂溶性成分(ビタミンE・コエンザイムQ10など)はDPPH法での評価が参考になります。どちらかの法だけで「最強」と言われている成分は鵜呑みにしないことが重要です。
次に確認したいのはTEAC値の出典です。論文や研究機関が算出したTEAC値であれば信頼性が高いです。一方で、製品パッケージに記載された「〇〇倍の抗酸化力」の根拠が曖昧な場合は注意が必要です。
安定性にも注意が必要です。ビタミンCは酸化に弱く、空気・光・熱で分解されやすいです。容器が遮光タイプかどうか、開封後の使用期限が短くないかを確認することで、ABTS法で証明された「原料の抗酸化力」を実際に肌で活かしやすくなります。
スキンケア選びでは「成分の抗酸化力(TEAC値)」「製品の安定性」「肌への浸透性」の3点を確認するのが基本です。
特にエイジングケアに関心がある場合は「複数の抗酸化成分を組み合わせた処方」の製品を選ぶことで、水溶性・脂溶性それぞれのラジカルに対応できます。ビタミンC誘導体+ビタミンE誘導体+ポリフェノール系成分の組み合わせは、美容皮膚科でも推奨されるアプローチです。
参考:抗酸化成分の役割と活性酸素の関係(資生堂BeautyInfo)
肌の酸化はシミ・シワ・たるみを加速させる - 資生堂BeautyInfo
ABTS法とDPPH法の差が約1.3μmol TE/μmolというデータを前述しましたが、この数字が美容選びにおいて具体的にどんな意味を持つのかを深掘りします。
ポイントは「カテコール構造を持つ成分」です。緑茶の主成分であるカテキン類(特にEC・ECG・EGCGなど)はカテコール構造を持っています。この構造を持つ化合物は、DPPH法とABTS法でTEAC値が変わります。DPPH法のほうが約1.3μmol TE/μmol高い活性値が出やすいのです。
これが意味するのは、「DPPH法で高い評価を受けた緑茶エキスが、ABTS法では同じほど高くない場合がある」ということです。選んでいた緑茶成分がカテコール系の場合、DPPH法の数値だけで選ぶと実際の抗酸化パフォーマンスを過大評価している可能性があります。
両方の法で評価しているメーカーのほうが信頼性が高い、ということになります。
逆に言えば、「ABTS法でも高いTEAC値を持つ成分」は、カテコール化合物かどうかに関わらず本当に強い抗酸化力を持つ可能性が高いです。没食子酸やEGCGのようにABTS法での評価も高い成分は、複数の反応機構でラジカルを消去できるため、スキンケアへの応用価値も高いと言えます。
成分の抗酸化力を本気で比較するなら、ABTS法とDPPH法の両方のデータを確認するのが理想です。
片方だけで判断するのは避けましょう。
例えば「緑茶エキス配合」の化粧品を検討しているときは、製品の研究資料や成分解説サイトで両方の評価法のデータがないか確認してみてください。製品成分を調べるなら「化粧品成分オンライン(cosmetic-ingredients.org)」が日本語で詳しく解説されており参考になります。
参考:ABTS法・DPPH法の詳細と抗酸化活性測定の基礎
抗酸化活性測定の概要 - 同仁グローカル