

「ヘルシーだと思って食べていたあのパン、実は毎朝トランス脂肪酸をスプーン1杯分以上摂っていたかもしれません。」
トランス脂肪酸は、脂肪酸の一種である「不飽和脂肪酸」に分類されます。不飽和脂肪酸というと、オリーブオイルや青魚の油のように「体に良い油」というイメージを持つ方が多いですが、同じ不飽和脂肪酸でも「シス型」と「トランス型」では性質がまったく異なります。天然の食品に含まれる不飽和脂肪酸のほとんどはシス型で、健康に有益な働きをします。一方のトランス型、つまりトランス脂肪酸は「不健康な脂質」として世界中で問題視されています。
トランス脂肪酸が生まれる主な経路は2つあります。1つ目は「人工(工業)由来」で、液体の植物油に水素を添加して固形にする加工(水素添加)や、油を高温処理する精製工程で発生します。これがマーガリンやショートニングの製造時に作られるトランス脂肪酸です。2つ目は「天然由来」で、牛や羊などの反すう動物の消化管内のバクテリアによって自然に生成され、牛肉や乳製品に微量含まれています。
つまりトランス脂肪酸ということですね。
農林水産省によれば、日本では食品中のトランス脂肪酸について表示義務も濃度基準も設けられていません。一方、アメリカでは2021年1月からすべての食品への使用が原則禁止となっており、規制状況に大きな差があります。
農林水産省|すぐにわかるトランス脂肪酸(トランス脂肪酸の基礎知識・食品への含有量・規制状況をわかりやすく解説)
農林水産省や食品安全委員会の調査データをもとに、人工由来のトランス脂肪酸が多く含まれる食品をランキング形式でご紹介します。数値は食品100gあたりの含有量(g)です。
| 順位 | 食品名 | トランス脂肪酸量 (g/100g) |
|---|---|---|
| 🥇1位 | ポップコーンの素 | 4.8g |
| 🥈2位 | 乳等を主要原料とする食品(バター類似品) | 1.7g |
| 🥉3位 | ショートニング | 1.0g |
| 4位 | マーガリン | 0.99g |
| 5位 | マヨネーズ・サラダクリーミードレッシング | 0.95g |
| 6位 | 植物性油脂(固形油脂含む)・調整ラード | 0.91g |
| 7位 | ファットスプレッド | 0.69g |
| 8位 | 菓子パイ | 0.58g |
| 9位 | クロワッサン | 0.54g |
| 10位 | カレー・ハヤシ・シチューのルウ | 0.52g |
ランキング1位のポップコーンの素は100gあたり4.8gと群を抜いています。
ただし、これは「素」の状態での数値です。
実際に食べられる状態のポップコーンになると100gあたり約0.15gまで下がります。素のまま食べることはないので、過度な心配は不要です。
注目すべきは4位のマーガリンよりもバター類似品や一部ショートニングが上位に入っている点です。マーガリンは「最悪の食品」のような扱いを受けることがありますが、近年はメーカーの努力によりトランス脂肪酸含有量は大幅に低減されています。
数値だけで判断するのが基本です。
農林水産省|令和4・5年度 食品中のトランス脂肪酸調査結果(最新の公式データをもとに食品ごとの含有量を確認できます)
マーガリンやショートニングをそのまま口にする機会は少なくても、それらを使ったお菓子やパンを日常的に食べている方は多いはずです。これが見落とされがちなトランス脂肪酸の摂取経路です。
| 食品カテゴリ | 品目 | 100gあたり(中央値) |
|---|---|---|
| 菓子類 | 米菓(おせんべいなど) | 0.25g |
| 菓子類 | ビスケット・クッキー | 0.18g |
| 菓子類 | チョコレート | 0.18g |
| 菓子類 | ドーナツ | 0.16g |
| パン類 | 調理パン・総菜パン | 0.10g |
| パン類 | 即席めん | 0.10g |
| パン類 | 菓子パン | 0.08g |
| パン類 | ロールパン | 0.05g |
1個あたりのドーナツは約70〜80gが標準的なサイズです。つまり1個食べると約0.11〜0.13g程度のトランス脂肪酸を摂取することになります。1個だけでは問題ありませんが、クロワッサン・クッキー・コーヒーフレッシュといった食品を組み合わせると積み重なります。
意外に思えるのは米菓(おせんべい)です。和食ベースのおやつとして選んでいる方も多いですが、製造過程でトランス脂肪酸が発生することがあります。健康的なイメージで選んでいるなら、確認が必要です。
「人工物を避ければ大丈夫」と考えている方にとって、これは盲点かもしれません。実は天然由来のトランス脂肪酸も存在し、日常的に食べているものに含まれています。
天然由来のトランス脂肪酸が含まれる主な食品は次のとおりです。
特に注目すべきはバターです。「マーガリンは体に悪く、バターは天然だから安心」と思っている方は多いですが、バター100gあたりのトランス脂肪酸は約2.0gで、現在市販されているマーガリン(約0.99g)より多いデータが出ています。
これは意外ですね。
天然由来のトランス脂肪酸は人工由来よりも健康への悪影響が小さいという見解もありますが、大量に摂れば影響がゼロとは言い切れません。バターを積極的に使っている場合は量に注意が条件です。
ミヨシ油脂|トランス脂肪酸について(天然由来を含む食品ごとのトランス脂肪酸含有量データを参照できます)
美容に関心がある方にとって、トランス脂肪酸を避けたい最大の理由は「肌への悪影響」ではないでしょうか。これは単なる噂ではなく、複数の研究で裏付けられています。
2014年に皮膚科医の野田医師が行った臨床研究では、肌トラブルで来院した患者に食事内容を詳細にヒアリングした結果、ニキビや湿疹などの肌トラブルの主要因の1つがトランス脂肪酸であることが明らかになりました。さらに、菓子パンやドーナツなどトランス脂肪酸を多く含む食品を減らしたところ、ニキビや肌荒れが改善されることも確認されています。
トランス脂肪酸が肌に悪影響を与えるメカニズムは以下のとおりです。
炎症の悪化は痛いですね。日常的にスキンケアに力を入れていても、食べるものが原因で肌が荒れ続けているケースは少なくありません。
2011年には食品安全委員会の評価書により、トランス脂肪酸がアトピー性皮膚炎の原因の1つであることも明らかになっています。喘息や鼻炎などのアレルギー反応との関連も指摘されており、美容だけでなく体全体の炎症リスクとして認識すべき問題です。
食品安全委員会|トランス脂肪酸ファクトシート(トランス脂肪酸とアレルギー・肌への影響に関する公式解説)
2025年8月、東北大学・静岡県立大学・岩手医科大学などの共同研究チームが重要な研究成果を発表しました。代表的なトランス脂肪酸である「エライジン酸」が、DNA損傷時に起きる「細胞老化」と「炎症」を促進する分子メカニズムを世界で初めて解明したのです。この研究結果は国際科学誌「iScience」に掲載されました。
これは美容に関心がある方にとって非常に重要な知見です。つまり、トランス脂肪酸を継続的に摂取することで細胞レベルでの老化が促進され、それが肌のたるみ・シワ・くすみとして外見に現れる可能性があるということです。
炎症の状態が進むと、細胞の老化が進み、連鎖的に老化した細胞が増えるという「負のスパイラル」が生じるとも指摘されています。つまり、1つの細胞が老化すると周囲にも影響を与え、肌全体の老化が一気に加速する仕組みです。
老化の連鎖に注意すれば大丈夫です。
この研究はトランス脂肪酸が単なる心疾患リスクだけでなく、アンチエイジングの観点からも重大な問題であることを示しています。特に20〜40代で今から肌への影響を最小限に抑えたいと考えている方にとって、食べ物の選び方を見直す十分な根拠になるでしょう。
東北大学プレスリリース|トランス脂肪酸が老化・炎症を促進する分子メカニズムを発見(2025年8月公表の最新研究)
「日本では規制がないから危険なのでは?」と心配になる方もいます。
ここは冷静に数字を確認しましょう。
WHOが提示するトランス脂肪酸の安全摂取目安は、1日の総エネルギー摂取量の1%未満です。1日2,000kcalを摂取する成人なら、1日あたり約2g未満が目安となります。
これが条件です。
内閣府食品安全委員会の推定によると、日本人の平均的なトランス脂肪酸摂取量は総エネルギー比で約0.3%です。これはWHO基準の1%を大幅に下回っており、「通常の食生活では健康への影響は小さい」という公式見解が出ています。
ただし、平均値は「平均値」に過ぎません。脂質が多いお菓子や加工食品を多く食べる偏った食生活の場合、日本人でも摂取量が大幅に増えることが食品安全委員会でも指摘されています。「平均は安全でも、自分が安全かどうかは別問題」という視点が大切です。
内閣府食品安全委員会|第1回 トランス脂肪酸〜リスク評価の意味を知ってほしい(日本人の摂取量と安全評価の詳細)
トランス脂肪酸を避けるための最も実践的な方法は、食品の「原材料表示」を確認することです。日本では成分表示が義務ではないため、含有量が表示されていない製品がほとんどです。しかし原材料を見ることでリスクを絞り込めます。
以下の3つのワードが原材料名に含まれていたら、トランス脂肪酸が含まれている可能性があります。
逆に、トランス脂肪酸が少ない・含まない食品の特徴は次のとおりです。
これは使えそうです。スーパーやコンビニで食品を選ぶ際、原材料名の冒頭3〜5品目を確認する習慣をつけるだけで、知らないうちにトランス脂肪酸を摂り続けるリスクを大幅に減らせます。
美容目線での「マーガリン vs バター」問題は、多くの方が気になるテーマです。結論から言えば、「どちらが絶対に安全」とは言い切れない、が正解です。
バターとマーガリンのトランス脂肪酸含有量を比較すると次のようになります。
| 種類 | トランス脂肪酸(100g) | 由来 |
|---|---|---|
| バター | 約2.0g | 天然由来(乳脂肪) |
| マーガリン(現在の市販品) | 約0.99g | 人工由来(水素添加) |
| ファットスプレッド | 約0.69g | 人工由来(水素添加) |
数値だけで見ると、現在の市販マーガリンはバターよりもトランス脂肪酸含有量が少ない場合があります。平成18〜19年には市販マーガリン100gあたり約8gだったトランス脂肪酸が、平成26〜27年には約1gにまで低減されています(約8分の1)。
業界の改善努力が数字に表れていますね。
ただし、バターは飽和脂肪酸も豊富に含まれており、過剰摂取は動脈硬化リスクにつながります。マーガリンはトランス脂肪酸が少なくなっているとはいえ、添加物の種類や製品ごとのばらつきもあります。
どちらも「少量をたまに使う」が原則です。
すでにトランス脂肪酸を多く含む食品を食べてきた場合、体から排出する方法はあるのでしょうか。食品安全委員会のファクトシートによると、摂取したトランス脂肪酸の約80%は24時間以内に体外へ排出され、残りも7日後にはほとんど体内で検出されないとされています。
ただし、内臓脂肪への蓄積については別途注意が必要です。まず優先すべきは「トランス脂肪酸を含む食品の摂取を減らすこと」で、その上で以下の食品を積極的に取り入れることが効果的です。
皮膚科医が行った2014年の研究でも、トランス脂肪酸を多く含む食品をやめてEPA製剤を投与し、肉食から魚食に切り替えることでひどいニキビや湿疹が劇的に改善したという報告があります。
食事の変化が肌に直結するということです。
自炊ではマーガリンを使わなくても、外食やコンビニでトランス脂肪酸を知らず知らず摂取しているケースは少なくありません。特に業務用のフライ油には、コストや長期保存の観点からトランス脂肪酸含有量が高い油脂が使われることがあります。
外食やコンビニで特に注意したい食品は次のとおりです。
対策はシンプルです。「自炊の日を週に1〜2日増やす」「外食するなら揚げ物より焼き物・蒸し物を選ぶ」「コーヒーに入れるのはポーション型クリームより牛乳または無糖豆乳にする」。この3つを意識するだけで、摂取量の差は大きくなります。
商品のパッケージに「トランス脂肪酸ゼロ」と書いてあれば完全に安全、と思っている方はいませんか?これには注意が必要です。
日本の食品表示基準では、食品100gあたりのトランス脂肪酸が0.3g未満の場合、「ゼロ(0g)」と表示することが認められています。つまり、「トランス脂肪酸ゼロ」と書かれた食品でも、1食分100gなら最大0.29gのトランス脂肪酸が含まれている可能性があります。
これが「ゼロ表示の盲点」です。たとえば「ゼロ表示」のクッキーを1袋(200g)食べると、最大で0.58gのトランス脂肪酸を摂取する計算になります。毎日こういった食品を複数食べれば、積み重ねとして相当量になりえます。
表示だけではなく、原材料名を確認することが本質的な対策です。「マーガリン」「ショートニング」「植物油脂」がリストに入っていれば、たとえゼロ表示でも微量のトランス脂肪酸が含まれている可能性があると考えておきましょう。
表示を確認するのが基本です。
トランス脂肪酸に関する情報は多く、時に「絶対食べてはいけない」という過激な意見も目にします。しかし日本人の平均摂取量はWHO基準の3分の1以下であり、過度な不安を持つ必要はありません。重要なのは「知った上で適切な選択をする」ことです。
今日から実践できるシンプルな行動をまとめると次のようになります。
肌ケアはスキンケアだけでは完結しません。毎日の食事が「内側から作る肌」を決定づける土台です。「何を塗るか」だけでなく「何を食べるか」を意識することで、スキンケアの効果も格段に高まります。
トランス脂肪酸をゼロにしようとするのではなく、「なるべく少なくする」という現実的なアプローチが長続きのコツです。一覧表を参考に食品を選び直すだけで、肌の炎症・くすみ・老化のリスクを減らす第一歩になります。
厚生労働省|トランス脂肪酸に関するQ&A(日本人の摂取量・健康影響・WHO基準との比較を公式にまとめています)

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