
皮膚における色素細胞(メラノサイト)は、表皮の最下層である基底層に主に分布しています 。皮膚1平方ミリメートルあたり約1,000~2,000個のメラノサイトが存在し、基底細胞約7~36個に対して1個の割合で分布しているのが特徴です 。
この基底層に位置するメラノサイトは、隣接する細胞との接着が弱く、やや真皮側にはみ出すように存在しています 。特に興味深いのは、身体の部位によって分布密度が大きく異なることです。手掌や足底では色素細胞の密度が少なく、顔面などの日光露出部や外陰部、乳輪、肛囲などの生理学的な色素沈着部位には高密度で存在します 。
参考)https://www.derm-hokudai.jp/wp/wp-content/uploads/2021/12/1-04.pdf
紫外線刺激を受けていない時、色素細胞は紡錘状の形をしていますが、刺激を受けて活性化すると樹枝状突起を多数持つアメーバのような形に変化し、メラニン顆粒を周囲の角化細胞に供給します 。
参考)色素細胞
眼球における色素細胞の分布は、皮膚とは異なる特殊な配置を示しています 。網膜色素上皮では、感覚網膜の外側に単層で配列し、光受容細胞を支持する重要な役割を果たしています 。脈絡膜のメラニン細胞は、血管に富んだ組織の中に分布し、隣接する細胞間でgap junction様構造を形成し、色素の細胞間移動が可能であることが確認されています 。
参考)https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/JJOS_PDF/92_251.pdf
虹彩の色素細胞は、目の色を決定する主要な要因となっており、メラニンの量と質によって茶色から青色まで様々な目の色が決まります 。これらの眼球内色素細胞は、光から眼球内部の繊細な組織を保護する重要な防御機能を担っています 。
参考)皮膚科:ほくろの説明 - 東京女子医科大学附属足立医療センタ…
毛包における色素細胞の分布は、毛髪の色素決定において極めて重要な役割を果たしています 。毛母メラノサイトは、成長期の毛乳頭を囲む毛母細胞、特に毛皮質の母細胞の間に基底膜に接して分布しています 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jocd/24/3/24_3_221/_pdf
これらの毛母メラノサイトは、よく発達した樹状突起を数層の毛母細胞の間に伸ばし、メラニン顆粒を毛皮質と毛髄のケラチノサイトに供与します 。興味深いことに、毛母メラノサイトは表皮メラノサイトとは異なり、成長期にのみメラニンを産生し、退行期にはアポトーシスにより消滅するという周期的な活動パターンを示します 。
毛包の漏斗部にも不活性化メラノサイト(Dopa陰性)が存在することが確認されており、これらは毛周期において異なる役割を担っていると考えられています 。
参考)KAKEN href="https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-07770677/" target="_blank">https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-07770677/amp;mdash; 研究課題をさがす
意外にも、色素細胞は内耳の血管条にも重要な分布を示しています 。内耳血管条のメラニン色素細胞は、聴覚機能の維持に関与しており、SLC26A4遺伝子変異による難聴では、血管条内の色素沈着とマクロファージの集積が難聴の増悪因子として働くことが研究で明らかになっています 。
参考)KAKEN href="https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19K18798/" target="_blank">https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19K18798/amp;mdash; 研究課題をさがす
口腔、食道、腸管などの粘膜にも色素細胞が分布しており、これらは消化管の色素沈着や保護機能に関与しています 。特に口腔粘膜の色素細胞は、喫煙や刺激物による色素沈着の原因となることが知られています。
さらに、研究では肺、心臓、脂肪組織などにも実験動物でメラノサイトの移動が確認されており、従来考えられていたよりもはるかに広範囲に色素細胞が分布している可能性が示唆されています 。
参考)https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2010/102031/201011012A/201011012A0007.pdf
中枢神経系における色素細胞の存在は、ニューロメラニンという特殊な形態で確認されています 。ヒトや哺乳類の中脳の黒質および青斑核のカテコール作動性ニューロンには、褐色で不溶性のメラニン様色素(ニューロメラニン)が存在しています 。
参考)https://kaken.nii.ac.jp/file/KAKENHI-PROJECT-21500358/21500358seika.pdf
最近の研究では、脳内の被殻、前運動野皮質、小脳などにもニューロメラニン様色素が存在することが発見されており、パーキンソン病などの神経変性疾患との関連が注目されています 。このニューロメラニンは、ドーパミンを材料として生合成され、加齢とともに蓄積していくことが特徴です 。
神経堤細胞由来の色素細胞は、発生過程において背側から腹側へ移動しながら分化し、最終的に末梢神経系の感覚神経細胞周辺にも分布することが、最新の発生生物学研究で明らかにされています 。
参考)https://www.tsukuba.ac.jp/journal/images/pdf/180801horie-1.pdf