

血清VEGFで測定すると血小板の数値も反映される
血管内皮増殖因子(VEGF)は、血管の内側を覆っている内皮細胞に働きかけて、細胞の増殖や新しい血管を作り出す作用を持つタンパク質です。この物質は私たちの体内で自然に産生されており、傷が治る過程や胎児の血管系が形成される際に重要な役割を果たしています。
美容分野で注目される理由は、血管が新しく作られることで組織に酸素や栄養が十分に届くようになり、肌のターンオーバーや再生機能が高まる可能性があるからです。つまり血管が増えれば増えるほど良いのです。
VEGFは下垂体星状濾胞細胞やマクロファージ、平滑筋線維、線維芽細胞など多種類の細胞から産生されます。体内でのVEGFの量が適切に保たれることで、健康な血管の維持や新陳代謝の促進につながるとされています。
ただし、この因子が過剰に産生されると、がん細胞の周囲に新しい血管が形成され、腫瘍の成長や転移を助けてしまう可能性も指摘されています。乳がん、肺がん、大腸がんなどの固形腫瘍では組織中のVEGFが高値を示すことが知られており、がん治療では逆にVEGFの働きを抑える「抗VEGF療法」が用いられているのです。
美容目的でVEGFを増やす施術を検討する場合、この両面性を理解しておくことが大切ですね。血管を増やすことで美肌効果が期待できる一方で、体内のがん細胞がある場合には悪影響を及ぼす可能性もゼロではありません。
VEGF検査の基準値や測定方法について詳しく解説されている臨床検査項目の検索結果
VEGFの検査は採血によって行われ、血液中のVEGF濃度を測定します。検査には血清を使う方法と血漿を使う方法の2種類があり、それぞれ測定値が異なるため注意が必要です。
血清検査では抗凝固剤を含まない容器に採血し、血液を凝固させた後に遠心分離して上澄みを採取します。一方、血漿検査では抗凝固剤(EDTA)入りの採血管を使用し、血液が固まらない状態のまま遠心分離を行います。
ここで重要なのは、血清測定値は血漿測定値よりも高値を示す傾向があるということです。これは血清を作る過程で血小板が活性化され、血小板由来のVEGFが放出されるためです。研究によると、血清VEGFは血小板の数と強い相関関係があります。
POEMS症候群(クロウ・深瀬症候群)という指定難病の診断では、血清VEGF値が1,000pg/mL以上という基準が設けられています。健常者の血漿VEGF基準値は一般的に105pg/mL以下、血清では38.3pg/mL以下とされていますが、検査機関によって基準値は異なります。
採血後の取り扱いも測定結果に影響します。血清検査の場合、採血後2時間以内に遠心分離を実施し、速やかに凍結して検査機関に提出する必要があります。血漿検査では、採血後直ちに氷冷し、10~60分間氷冷後に冷却遠心(4℃・30分間・1000G)で血漿分離を行います。
このように検査方法によって数値が大きく変わるため、経過観察を行う場合は同じ方法で測定を続けることが基本です。
VEGF検査は2021年6月から保険適用となりましたが、対象となるのはPOEMS症候群の診断または診断後の経過観察に限定されています。保険点数は460点で、3割負担の場合は約1,380円の自己負担となります。これに診察料や検査判断料(144点)が加算されます。
POEMS症候群は、末梢神経障害、臓器腫大、内分泌異常、M蛋白血症、皮膚病変を特徴とする指定難病で、血清VEGF値の上昇が診断の大基準の一つになっています。月1回を限度として保険算定が認められており、治療効果のモニタリングにも使用されます。
美容目的やアンチエイジング目的でVEGF検査を受けたい場合は、全額自費診療となります。研究用検査としてVEGF-D測定を行っている医療機関では、検体あたり16,500円(税込)という費用設定の例があります。美容クリニックでの検査費用は施設によって異なりますが、数万円程度の負担が一般的です。
幹細胞培養上清液やPRP療法など、VEGFを含む成長因子を利用した美容治療も自費診療です。これらの治療は医療費控除の対象外となるため、確定申告を行っても税金の控除を受けることはできません。
保険診療と自費診療を混在させる「混合診療」は原則として認められていないため、美容目的でVEGF検査を受ける場合は、全ての診療が自費扱いになる点も理解しておく必要があります。美容クリニックを選ぶ際は、事前に検査費用や治療費の総額を確認することが賢明です。
美容医療の分野では、VEGFを含む幹細胞培養上清液やPRP(多血小板血漿)療法が注目を集めています。これらの治療法は、成長因子の力で肌の再生力を高め、しわやたるみ、シミなどのエイジングサインを改善することを目指しています。
幹細胞培養上清液には、VEGF以外にもEGF(上皮細胞増殖因子)、FGF(線維芽細胞増殖因子)、TGF-β(トランスフォーミング増殖因子)など、複数の成長因子が含まれています。VEGFは特に血管の新生や血流改善に関与し、頭皮に使用すれば育毛・発毛効果が期待できるとされています。
顔の肌に対しては、血管が新しく作られることで酸素と栄養の供給が増え、線維芽細胞が活性化してコラーゲンやエラスチンの産生が促進される可能性が指摘されています。線維芽細胞はVEGFを放出して血管内皮細胞に働きかけ、新しい血管を作り出すサポートを行っているのです。
ただし、VEGFには光と影の両面があります。資生堂の研究では、赤外線によってVEGF-Aが過剰に増加すると、シミや赤み、しわなどの肌悩みとの関与が示唆されています。過剰な増加は肌へ悪影響を及ぼす可能性があるということですね。
さらに重要なのは、VEGFががん細胞の増殖や転移にも関与している点です。がん細胞が1~2mmの大きさになると酸素不足に陥り、VEGFを分泌して周囲から血管を引き込みます。この新生血管を通じて栄養を得て、がんは成長を続けるのです。
美容目的でVEGFを増やす治療を受ける前に、がん検診を受けておくことは理にかなった予防策といえます。体内に潜在的ながん細胞がある状態でVEGFを増やす施術を受けると、意図せずがんの進行を助けてしまうリスクがゼロではないからです。
VEGF(血管内皮成長因子)の役割と美容効果について詳しく解説した専門記事
VEGF検査を受ける前に理解しておくべき最も重要な点は、測定値の解釈が単純ではないということです。健常者でも個人差が大きく、年齢、性別、採血時の体調、検査方法によって値が変動します。
検査当日は、採血の4時間前からの飲食を控えることが推奨されています。食事によって血糖値が変動すると、それに伴ってVEGF値も変化する可能性があるためです。また、激しい運動やストレスも測定値に影響を与える可能性があります。
血清と血漿のどちらで測定するかによって基準値が異なるため、初回の検査でどちらの方法を選んだかを記録しておく必要があります。日本血液学会のガイドラインでは、POEMS症候群のモニタリングには血漿VEGFよりも血清VEGFの方がより正確に病勢を反映すると示されています。
美容目的でVEGF検査を受ける場合、その結果をどう活用するかを事前に明確にしておくことも大切です。単に数値を知るだけでなく、その後の治療方針や生活習慣の改善にどう結びつけるかを考えておきましょう。
VEGF値が高い場合、それが必ずしも良いことを意味するわけではありません。適度な血管新生は組織の健康に必要ですが、過剰なVEGFは望ましくない状態を示唆している可能性もあります。逆に低すぎる値も、組織への栄養供給が不十分な状態を反映しているかもしれません。
検査結果を受け取ったら、必ず医師による説明を受けることが重要です。数値だけを見て自己判断せず、その値が持つ意味や、今後の対策について専門家の意見を聞きましょう。美容クリニックで検査を受ける場合でも、医学的な知識を持った医師が在籍している施設を選ぶことが安心につながります。
検査を受けるクリニックを選ぶ際には、検査後のフォローアップ体制も確認しておくと良いでしょう。検査だけで終わりではなく、結果に基づいた適切なアドバイスや治療提案が受けられる施設を選ぶことで、検査の価値が高まります。
再生医療や美容医療を提供しているクリニックの中には、幹細胞培養上清液治療やPRP療法などを行う前の評価として、VEGF検査を含む血液検査パッケージを用意している施設もあります。治療の適応を判断するために検査を受けることも選択肢の一つですね。
POEMS症候群におけるVEGF測定の臨床的意義について解説した日本血液学会のガイドライン