

コラーゲンを「飲めば増える」と思っているなら、カテプシンBを知らないと毎月数万円が無駄になるかもしれません。
カテプシンB(Cathepsin B)は、タンパク質を分解する「プロテアーゼ」と呼ばれる酵素の一種です。システインプロテアーゼ群に属し、名前は聞き慣れなくても、私たちの肌の状態に直接影響を与えています。
カテプシンBの最大の特徴は、「酸性環境でのみ活発に働く」という点です。細胞内で最も酸性度が高い環境、つまりリソソーム(pH約5前後)の中で本来の力を発揮します。一般的な消化酵素とは異なり、細胞の"内側"で静かに、しかし重要な役割を果たす酵素です。
美容の観点から見ると、カテプシンBは「コラーゲンサイクル」の起点となる酵素として注目されています。劣化した古いコラーゲンを細かく切り刻み、その断片をアミノ酸として再利用できる状態にする働きがあるためです。この分解がなければ、新しいコラーゲンを合成するための「材料」が生まれません。つまり、カテプシンBなくしては肌の若返りサイクルが回らないということです。
さらに近年の研究では、カテプシンBはシミの形成にも大きく関与していることがわかっています。表皮細胞(ケラチノサイト)の中でメラニンを含む「メラノソーム」を分解する酵素として機能しており、この働きが落ちると表皮内にメラニンが蓄積し、シミが定着しやすくなります。つまりカテプシンBは、コラーゲンサイクルとシミ対策の両方に関わる万能選手です。
では、カテプシンBはいったいどこにあるのでしょうか。
結論から言えば、カテプシンBは全身のほぼすべての細胞内に存在する「リソソーム」という細胞小器官の中に存在します。リソソームとは、細胞の中にある微小な「消化袋」のような構造です。細胞内で不要になったタンパク質や老廃物をここへ運び込み、カテプシンBをはじめとする消化酵素群が分解・リサイクルします。
大きさのイメージとしては、リソソームの直径は0.1〜1.2マイクロメートル(1マイクロメートルは1ミリの1000分の1)程度で、細胞1個の中に数百個から数千個も存在します。人間の細胞の数が約37兆個といわれていることを考えると、体内のカテプシンBの分布範囲は想像を超えた規模です。
皮膚の中では特に、次の2種類の細胞のリソソームにカテプシンBが豊富に存在します。
- ケラチノサイト(角化細胞):表皮の約95%を占める細胞。メラノソームをリソソームへ取り込み、カテプシンBなどで分解することでシミを防ぐ役割を持ちます。
- 線維芽細胞(ファイブロブラスト):真皮に存在し、コラーゲンやエラスチン、ヒアルロン酸を産生する細胞。劣化コラーゲンの分解・再合成サイクルにカテプシンBが深く関わります。
この2つが肌の美しさを支える細胞であることを考えると、カテプシンBの重要性がよくわかります。カテプシンBが正常に機能している状態が、美肌の"基盤"といえます。
皮膚は大きく「表皮」「真皮」「皮下組織」の3層構造になっています。カテプシンBの存在と役割は、各層で異なります。
表皮のカテプシンBは、主にケラチノサイトのリソソーム内に存在します。表皮はターンオーバー(細胞の生まれ変わり)が起きている層で、約28日周期(加齢とともに長くなります)で細胞が新しく入れ替わります。このサイクルを正常に進めるうえで、カテプシンBによるタンパク質分解が不可欠です。
特に重要なのが、メラノソームの分解における役割です。メラノサイトで作られたメラニンは、メラノソームとしてケラチノサイトに受け渡されます。ケラチノサイトはリソソームでこのメラノソームをカテプシンB、カテプシンD、カテプシンVなどの酵素で分解することで、メラニンを「薄める」役割を担っています。この機能が低下すると、メラニンが表皮に蓄積し、シミとして定着してしまいます。これがカテプシンBを美白にとって欠かせない酵素として位置づける理由です。
真皮のカテプシンBは、線維芽細胞内に存在し、コラーゲンサイクルの起点として機能します。真皮の約70%はコラーゲンが占めており、このコラーゲンが肌のハリと弾力の源です。コラーゲンは加齢とともに変性・劣化しますが、カテプシンBが劣化コラーゲンを適切に分解することで、新しいコラーゲンの合成が促されます。つまり、真皮のカテプシンBが低下すると「古くなった使えないコラーゲン」だけが積み重なり、肌のハリが失われていきます。
カテプシンBは加齢や紫外線の影響で確実に低下します。
これが肌老化と密接に関係しています。
研究によると、UVA(紫外線A波)を反復照射した線維芽細胞では、カテプシンBのmRNA発現量が対照群と比べて約36%低下することが確認されています(中国・中山大学附属病院、Zheng Yueら)。さらに、太陽光に長年さらされた皮膚(露光部)では、さらされていない皮膚(非露光部)と比べ、カテプシンBの発現量が統計的に有意に低かったことも報告されています。
これは見逃せないデータです。
つまり、日焼け止めを塗らずに日常的に紫外線を浴びている人は、紫外線を浴びていない人と比べて、カテプシンBの働きが大幅に低下し、コラーゲン分解・再合成のサイクルが滞りやすくなるということです。シミが消えにくくなったり、ハリ感が失われたりするのも、こうした背景があります。
加えて、糖化(AGEs蓄積)もカテプシンBの活性を低下させます。糖化とは、余分な糖分がタンパク質と結びついて起こる反応で、肌を黄ばませたり硬くしたりする原因です。成和化成の研究によれば、AGEsが蓄積した表皮細胞では、カテプシンB、カテプシンD、カテプシンVのすべての活性が有意に低下し、メラノソーム分解能も同時に低下することが確認されています。
紫外線と糖化が重なると、カテプシンBの低下が加速します。これが「日焼けをしていて甘いものが好きな人ほど老けやすい」と言われる科学的な一因です。
参考:カテプシンBと光老化の関係(J-GLOBAL)
J-Global:光劣化皮膚とその重要性におけるカテプシンB発現(中山大学皮膚科)
「コラーゲンを食べれば肌がプルプルになる」という情報は広く知られています。しかし実際には、食べたコラーゲンはそのまま肌に届くわけではありません。消化されてアミノ酸になり、体内でまた新しいコラーゲンに作り直されます。このとき、体内のコラーゲンサイクルが正常に機能しているかどうかが、肌の若さを左右します。
コラーゲンサイクルの流れは以下のとおりです。
| ステップ | 内容 | 関与する酵素 |
|----------|------|-------------|
| ①劣化コラーゲンの分解 | 古く変性したコラーゲンをリソソームで分解 | カテプシンB(主役) |
| ②アミノ酸への変換 | 分解産物をさらに細かいアミノ酸に | 各種プロテアーゼ |
| ③新コラーゲンの合成 | アミノ酸を材料に線維芽細胞が新しいコラーゲンを合成 | プロコラーゲン系酵素 |
カテプシンBはステップ①の主役です。ここが機能しなければ後のステップも進みません。新しいコラーゲンが生まれない、ということです。
株式会社成和化成は2025年11月、ゴマ油の搾りかすをアップサイクルした成分「SESAQUA® P(加水分解ゴマタンパク)」がカテプシンBの活性を高め、コラーゲンサイクルを促進することを発表しました。この成分を1.0%配合した水溶液を塗布したところ、わずか5分で目尻のシワが改善されることが確認されています。カテプシンBの活性を化粧品成分で高めるという新しいアプローチが、美容業界でも注目を集めています。
参考:カテプシンBとコラーゲンサイクルの詳細
PR TIMES:成和化成「SESAQUA P」の発表(2025年11月)
カテプシンBの存在は、ニキビのメカニズムとも深く関係しています。
正常な状態では、カテプシンBはリソソームの内側にとどまり、細胞内の廃物処理を行っています。しかし、ニキビができる際の炎症反応で問題が起きます。ニキビの原因菌(アクネ菌)が増殖すると、好中球が集まって活性酸素を大量に放出します。この活性酸素がリソソームの膜を傷つけることで、カテプシンBが細胞質内(本来いるべきリソソームの外)に漏れ出すのです。
細胞質に漏れ出たカテプシンBは、本来分解すべきでないタンパク質を攻撃し始めます。細胞死(アポトーシス)を引き起こしたり、炎症反応をさらに増幅させたりすることで、ニキビが悪化・長引く原因のひとつになります。
つまり、カテプシンBはどこにあるか(リソソームの内側か、細胞質か)が非常に重要なポイントです。正常な位置に存在しているときは美肌を支え、炎症で「脱走」してしまうと、皮膚トラブルを悪化させる二面性を持つ酵素です。
意外ですね。
この知識を得た読者が実際に活かせる行動としては、ニキビができたときに「潰す」「強く押す」行為を避けることが重要です。物理的な刺激は炎症を悪化させ、カテプシンBの漏出をさらに促進させます。炎症性のニキビに対しては、皮膚科を受診し適切な治療を受けることが、長い目で見て最もコスパが良い判断です。
参考:ニキビとカテプシンBの炎症メカニズム
くれバイオマテリアル「黄ニキビの病態と形成メカニズム」(2025年11月)
光老化した肌では、カテプシンBはどこにあっても活性が低下しています。
これがシミの「消えにくさ」に直結します。
前述の研究(光劣化皮膚とカテプシンB発現)では、日光に長年さらされた前腕部の皮膚と、日光にさらされていない臀部の皮膚を比較したところ、前腕部のカテプシンBの平均吸光度(発現量の指標)が臀部よりも有意に低い数値(0.2130対0.4520)を示しました。
この数値は非常に重要な示唆を含んでいます。「シミが出やすい部位」の細胞では、カテプシンBの発現量が「シミが出にくい部位」の半分以下になっている可能性があるということです。
また、成和化成の研究(前述のSEJACQUA P論文)では、AGEs(糖化産物)が蓄積したケラチノサイトでカテプシンB・D・Vの活性が一斉に低下し、メラノソームの分解能が下がることで「シミが定着しやすい細胞環境」が生まれることが示されています。
これは、シミ対策において「メラニンの生成を抑えるだけ」では不十分であることを示しています。メラニンが生成された後、それを表皮細胞のリソソーム内でカテプシンBが適切に分解・排出できるかどうかが、シミが定着するかどうかを左右するということです。抗シミケアの「もうひとつの視点」として覚えておく価値があります。
カテプシンBは皮膚だけに存在する酵素ではありません。
全身のほぼすべての組織に分布しています。
美容と直接関係する範囲を超えて知っておきたいのは、カテプシンBが脳・肝臓・腎臓・免疫細胞など、全身の重要臓器の細胞のリソソームにも広く存在するという事実です。
例えば。
- 🧠 脳(神経細胞):アルツハイマー病との関連が研究されており、脳脊髄液や血液中のエクソソーム(細胞から分泌される微小な粒子)に含まれるカテプシンBがアルツハイマー病の進行指標として注目されています(公益財団法人がん研究会、2023年)。
- 🫁 免疫細胞(マクロファージ等):免疫応答の調節に関与し、炎症反応のコントロールに働いています。
- 🫀 肝臓・腎臓:細胞内の老廃タンパク質の処理に広く機能しています。
美容の文脈で注目すべきは、カテプシンBが「体全体の細胞の健康」に関わる酵素であるという点です。睡眠不足・慢性的なストレス・偏った食生活などで体全体の細胞機能が低下すると、皮膚のカテプシンBの活性にも間接的な影響が出る可能性があります。
「肌は内臓の鏡」という言葉がありますが、カテプシンBの分布を見れば、その言葉が科学的にも意味を持つとわかります。体の内側からのケアが肌にも反映される、という考え方の根拠のひとつになります。
参考:アルツハイマー病とカテプシンBの関係
公益財団法人がん研究会:アルツハイマー病とカテプシンBの関連(2023年12月)
一般的な美容情報では、カテプシンBは「コラーゲンサイクルを助ける良い酵素」として紹介されることがほとんどです。しかし、実はカテプシンBには「どこにいるか」によって、美肌にも肌老化にもなる二面性があります。
正常な細胞では、カテプシンBはリソソームの内側に閉じ込められています。ところが、加齢・紫外線・活性酸素などのダメージが蓄積すると、リソソームの膜が不安定になり、カテプシンBが細胞質へと「漏れ出す」現象が起きます。これを「リソソーム膜透過性亢進(LMP:Lysosomal Membrane Permeabilization)」と呼びます。
細胞質に漏れたカテプシンBは、本来分解すべきでない正常なタンパク質を無差別に攻撃します。これが炎症を引き起こし、線維芽細胞自体のダメージにつながり、コラーゲン産生能力を落としていきます。
つまり、カテプシンBは。
- リソソームの中にいる → 肌を若く保つ
- リソソームの外(細胞質)に漏れる → 肌老化・炎症を促進する
という真逆の性質を持つのです。
この視点から、日常のケアで重要なのは「カテプシンBを活性化させる」だけでなく「リソソームを健全な状態に保つこと」でもあります。リソソームの健全性を保つためには、抗酸化対策(ビタミンC・ビタミンE・ポリフェノールなど)や過剰な紫外線を避けること、そして十分な睡眠が有効です。睡眠中にオートファジー(細胞の自浄作用)が活発になり、損傷したリソソームが修復・更新されるためです。
抗酸化ケアの面では、ビタミンCを含む美容液や食事(キウイ、ブロッコリーなど)の日常的な取り入れが有効です。「肌にいいから」だけでなく、カテプシンBをリソソームという正しい場所に保ち続けるためのケアとして、納得感が増します。
カテプシンBがどこにあって、どう働くかがわかれば、日常ケアの優先順位も変わってきます。カテプシンBを正常に機能させるために、今日からできることを整理します。
① 紫外線対策を徹底する(最優先)
研究データが示すように、紫外線はカテプシンBの発現を最大36%低下させます。日焼け止めのSPF値だけに注目している人も多いですが、UVAカット(PA値)も重要です。SPF30以上・PA+++以上の日焼け止めを毎日使うことが、カテプシンBを守る意味でも最低限の対策です。
② 糖化を防ぐ食生活
甘いものや精製炭水化物(白ごはん・パン・麺類)の過剰摂取は、AGEs(糖化産物)の蓄積を招き、カテプシンBの活性を低下させます。食後の血糖値スパイクを抑えるために、食事の最初に野菜や豆類(食物繊維)を食べる「ベジファースト」を意識することが実践しやすい第一歩です。
③ 抗酸化成分の積極的な取り入れ
ビタミンCはカテプシンBを守るうえで特に有力な成分です。前出の成和化成の研究では、ビタミンC誘導体「VC-HG(ヘキシル3-グリセリルアスコルビン酸)」がAGEs産生を抑制し、カテプシンの活性低下を改善することが確認されています。スキンケアで「安定型ビタミンC誘導体」入りの美容液を選ぶことは、カテプシンBの保護という観点からも理にかなっています。
④ 十分な睡眠でオートファジーをONにする
睡眠中は成長ホルモンが分泌されるだけでなく、細胞のオートファジー(自浄作用)が活性化します。このとき、損傷したリソソームの修復が行われ、カテプシンBが正常な環境に戻ります。睡眠の質を高めること、特に23時〜2時のゴールデンタイムを含む7時間前後の睡眠は、肌再生の観点からも最も費用対効果が高い美容習慣です。
⑤と⑥として「コラーゲンサイクルを助ける成分配合コスメの選び方」「AGEsを減らす抗糖化サプリの活用」も選択肢として存在しますが、まずは上記4点から始めるのが優先度が高いです。
参考:抗老化成分の解説
化粧品成分オンライン:抗老化成分の解説と成分一覧
カテプシンBの機能状態は直接測定できませんが、肌の状態から「カテプシンBが十分機能しているかどうか」をある程度推測することができます。
以下の項目を参考にセルフチェックしてみましょう。
🔴 カテプシンB機能が低下しているサインかもしれない肌の状態
- シミが増えた、または薄くなりにくくなった
- ハリ感が失われ、顔のフェイスラインがぼやけてきた
- 紫外線をよく浴びる生活が続いている(アウトドア趣味、通勤時の日焼け対策なし等)
- 甘いものや炭水化物を好んでよく食べる
- ニキビが繰り返しできて長引く傾向がある
- 睡眠時間が6時間以下の日が週3日以上ある
🟢 カテプシンBが正常に機能しやすい肌環境
- 毎日日焼け止め(SPF30・PA+++以上)を使っている
- ビタミンC誘導体配合の美容液を使用している
- 食事でビタミンCを含む野菜(ブロッコリー、パプリカ、キウイ等)を意識的に摂っている
- 夜の睡眠を7時間前後確保できている
- 甘いものや精製炭水化物の過剰摂取を控えられている
もし赤サインが多いようであれば、今のスキンケアに「カテプシンBの視点」を加えてみてください。UV対策と抗酸化ケアの2点だけでも、まず取り組む価値があります。
美容の選択肢が増えるということですね。
カテプシンBがどこにある(どの細胞の、どの小器官にある)かを理解すると、「肌のターンオーバー」という概念の理解もより深まります。
ターンオーバーとは、表皮の最下層(基底層)で新しい細胞が生まれ、約28日(加齢とともに40〜45日以上に延びる)かけて表面へと押し上げられ、最終的に角質として剥がれ落ちる現象です。このサイクルが正常に回ることで、くすみのない透明感のある肌が保たれます。
このターンオーバーの"燃料"のひとつが、リソソーム内のカテプシンBです。ターンオーバーが起きるとき、古い細胞内のタンパク質が分解・リサイクルされる必要があります。この分解プロセスを支えるのがカテプシンBをはじめとするリソソーム酵素群です。
研究では、高齢者由来の露光部皮膚(シワやシミが目立つ部位)と若年者由来の露光部皮膚を比較したところ、高齢者皮膚ではリソソーム活性およびカテプシン活性の有意な低下が確認されています(東京電機大学・遠藤香凜、2020年)。加齢そのものに加え、光老化がリソソームのカテプシン活性を複合的に低下させることを示す結果です。
つまり、ターンオーバーが乱れる原因は、単に「細胞の動きが遅くなる」だけでなく、「カテプシンBなどのリソソーム酵素の活性低下」という細胞レベルの問題も関与しています。
これが原因に近い場所です。
ターンオーバー促進のためにピーリング化粧品を使うことも一つの方法ですが、根本的にはカテプシンBの活性環境を整えることが重要です。
参考:皮膚の光老化とリソソーム活性
東京電機大学・遠藤香凜「皮膚の光老化進行における皮膚構成細胞の相互作用の機構」(2020年)