

塩分濃度5%超えるとゲル化しない
ジェランガムは、スフィンゴモナス・エロディアという微生物の発酵により生成される天然の多糖類です。この成分は、グルコース2個、グルクロン酸1個、ラムノース1個という4つの糖が連なった構造を繰り返し持っています。この直鎖状の分子構造が、ゲル化という独特の性質を生み出す基盤となっているのです。
基本的な構造はシンプルですね。
ジェランガムがゲル化するメカニズムは、温度の低下とカルシウムなどの金属イオンの存在という2つの要因によって引き起こされます。高温で溶解したジェランガム水溶液は、温度が下がると分子同士が規則正しく配列し始めます。このとき、ジェランガムの分子は二重らせん構造と呼ばれる特殊な形を作り出すのです。さらにカルシウムイオンやマグネシウムイオンなどの二価の金属イオンが存在すると、これらのイオンが分子間の架橋として働き、三次元的な網目構造を形成します。この網目構造が水分を抱え込むことで、液体が固体のようなゲル状態に変化するわけです。
つまり冷却とイオンが鍵です。
この二重らせん構造の形成は、DNAの二重らせんに似た原理で起こります。ジェランガムの分子鎖が冷却されると、分子内の親水基と疎水基のバランスが変化し、エネルギー的に安定な二重らせん構造を取るようになります。この構造変化は可逆的であり、温度を上げれば再び溶解し、冷却すれば再びゲル化するという性質を持っています。
ゲル化温度は約40℃です。
美容製品においてこの性質は非常に重要です。肌に塗布する際には体温付近の温度で適度な流動性を持ち、肌表面では安定したゲル状の膜を形成するという理想的な挙動を実現できるためです。この温度依存性を利用することで、塗り心地が良く、かつ肌に留まりやすい化粧品の開発が可能になります。
ジェランガムの構造と特性について詳しく解説した食品開発ラボの記事
ジェランガムには、製造工程の違いにより脱アシル型(LAジェランガム、Low Acyl)とネイティブ型(HAジェランガム、High Acyl)という2つのタイプが存在します。この2つの違いは、分子構造に含まれるアセチル基とグリセリル基の有無によって生じるもので、ゲル化の挙動や最終的なゲルの性質に大きな影響を与えます。
アシル基の有無が決定的です。
脱アシル型ジェランガムは、発酵後にアルカリ処理を行ってアセチル基とグリセリル基を除去したものです。このタイプは約90℃で加熱溶解し、カルシウムイオンなどの金属イオンの存在下で約40℃以下に冷却するとゲル化します。形成されるゲルは透明度が高く、硬くてもろい食感が特徴です。寒天に近い質感と表現されることが多く、耐熱性に優れているため200℃程度までの加熱にも耐えられます。ただし、離水(シネレシス)が起こりやすく、冷凍解凍には向きません。
LAは硬くて透明なゲルです。
一方、ネイティブ型ジェランガムは、発酵後に脱アシル化処理を行わず、アセチル基とグリセリル基が残った状態のものです。このタイプは約80℃で溶解し、70℃以下に冷却するだけでゲル化します。金属イオンは必須ではありませんが、存在するとゲル化が促進されます。形成されるゲルは弾力が強くしなやかで、もちっとした食感が特徴です。ゼラチンに近い質感で、透明度は低く不透明です。離水は少なく、冷凍解凍にも耐えられるという利点があります。
HAは柔らかく弾力があります。
美容製品への応用を考えると、この2つのタイプの使い分けが重要になります。脱アシル型は透明なジェルや美容液のベースとして、硬めのテクスチャーが求められる製品に適しています。保形性が高いため、容器から出した後も形を保ちやすく、肌への密着性も良好です。一方、ネイティブ型は柔らかくしなやかなテクスチャーが求められるクリームやジェルクリームに適しており、肌への伸びが良く、しっとりとした使用感を実現できます。
用途に応じて選択します。
また、2つのタイプを併用することで、中間的な物性を持つ製品の開発も可能です。配合比率を調整することで、硬さ、弾力性、透明度、保水性などを細かくコントロールできるため、化粧品の設計において大きな自由度が得られます。
脱アシル型ジェランガムのゲル化において、カルシウムイオンが果たす役割は極めて重要です。ジェランガムの分子構造に含まれるグルクロン酸という成分は、カルボキシル基(-COOH)という官能基を持っています。このカルボキシル基は負の電荷を帯びており、正の電荷を持つカルシウムイオン(Ca²⁺)と強く結合する性質があります。
カルボキシル基が鍵となります。
カルシウムイオンは二価の陽イオンであるため、1つのイオンが2つの異なるジェランガム分子のカルボキシル基と結合できます。この結合により、ジェランガム分子同士が架橋され、三次元的な網目構造が形成されるのです。この現象は「イオン架橋」または「カルシウム架橋」と呼ばれ、ゲルの強度と安定性を大きく向上させます。例えば、牛乳にジェランガムを加えると、牛乳中のカルシウムイオンとジェランガムが反応して、プリンのような固いゲルが形成されます。
架橋で強いゲルになります。
カルシウム濃度とゲル化温度には密接な関係があります。研究によると、カルシウム濃度が増加するとゲル化温度が上昇することが確認されています。具体的には、カルシウム濃度0.01%では約19.5℃でゲル化するのに対し、0.05%では約35.5℃でゲル化します。これは、カルシウムイオンが多いほど架橋が早期に起こり、より高い温度でも分子の運動が制限されるためです。
濃度でゲル化温度が変わります。
ただし、カルシウムだけでなく、一価の金属イオンであるナトリウムイオン(Na⁺)やカリウムイオン(K⁺)もゲル化に影響を与えます。塩化ナトリウムや塩化カリウムの濃度が1%の時にゲルを形成しますが、濃度を高くしていくとゲル強度が低下し、5%以上ではゲルを形成しなくなります。これは、高濃度の塩がジェランガム分子の周囲のイオン環境を変化させ、分子間の相互作用を阻害するためです。
高濃度の塩は逆効果です。
美容製品の設計においては、製品に含まれる他の成分、特にミネラル成分や塩分の濃度を考慮する必要があります。例えば、海洋ミネラルを配合した化粧品では、カルシウムやマグネシウムの含有量によってジェランガムのゲル化挙動が変化する可能性があります。適切な配合設計を行うことで、望ましいテクスチャーと安定性を両立させることができます。
配合バランスの調整が必須です。
また、酸性の成分を含む製品では、pHがゲル化に影響を与えることにも注意が必要です。ジェランガムは耐酸性に優れていますが、極端に低いpHではカルボキシル基がプロトン化され、カルシウムイオンとの結合が弱まる可能性があります。ビタミンC誘導体などの酸性成分を配合する場合は、pHの調整とともにジェランガムの配合量を最適化する必要があります。
ジェランガムのゲル化条件とイオンの影響について詳しい技術情報
ジェランガムのゲル化は温度に大きく依存しており、そのプロセスは加熱溶解、冷却、ゲル化という段階を経て進行します。この温度依存性を理解することは、美容製品の製造工程を設計する上で不可欠です。
温度管理が成功の鍵です。
脱アシル型ジェランガムの場合、まず約90℃以上の温度で加熱して完全に溶解させる必要があります。この加熱により、ジェランガムの分子鎖が十分に広がり、水と均一に混ざり合った状態になります。加熱が不十分だとダマが残り、均一なゲルが形成されません。溶解後、溶液を約40℃以下に冷却すると、ジェランガム分子は二重らせん構造を形成し始めます。カルシウムイオンなどの金属イオンが存在すると、この二重らせん同士が架橋され、立体的な網目構造が完成します。
溶解温度は90℃以上です。
ネイティブ型ジェランガムの場合は、約80℃で溶解し、70℃以下に冷却するとゲル化します。このタイプは脱アシル型よりも高い温度でゲル化するため、容器に充填した直後から、容器の壁に接している部分から徐々にゲル化が進行します。この特性は、熱い状態で容器に充填する製品の製造において有利で、充填後の冷却時間を短縮できます。
HAは高温でゲル化します。
冷却速度もゲルの性質に影響を与える重要な要因です。急速に冷却すると、ジェランガム分子が規則正しく配列する時間が不足し、不均一なゲル構造が形成されます。これにより、ゲルの強度が低下したり、透明度が悪化したりする可能性があります。一方、ゆっくりと冷却すると、分子が十分に配列する時間が得られ、均一で強固なゲル構造が形成されます。最適な冷却速度は、製品の種類やジェランガムの濃度によって異なりますが、一般的には1分間に1〜2℃程度の緩やかな冷却が推奨されます。
ゆっくり冷却が基本です。
美容製品の製造現場では、この温度管理を正確に行うことが品質の安定性につながります。例えば、ジェルタイプの美容液を製造する場合、溶解温度、冷却開始温度、冷却速度、充填温度などを厳密に管理することで、毎回同じテクスチャーと安定性を持つ製品を作ることができます。特に大量生産では、温度のばらつきが製品品質に直結するため、自動温度制御システムの導入が望ましいでしょう。
品質管理には温度記録が重要です。
また、ジェランガムゲルの熱可逆性についても理解しておく必要があります。脱アシル型ジェランガムで形成されたゲルは熱不可逆性であり、一度ゲル化すると100℃以上に加熱しても溶解しません。この性質により、加熱殺菌が必要な製品や、使用時に温度変化がある製品にも適用できます。一方、ネイティブ型ジェランガムのゲルは熱可逆性を持ち、加熱すると再び溶解します。この違いを理解して適切なタイプを選択することが大切です。
ジェランガムは、その独特なゲル化メカニズムを活かして、さまざまな美容製品に応用されています。化粧品業界では、主にテクスチャー改良剤、増粘剤、皮膜形成剤として使用され、製品の使用感や機能性を向上させる重要な役割を果たしています。
多機能な美容成分です。
ジェルタイプの美容液やオールインワンジェルでは、ジェランガムの透明性の高いゲル形成能力が活用されています。脱アシル型ジェランガムを使用すると、水のように透明でありながら、適度な粘度と保形性を持つジェルが作れます。この透明性は、製品の見た目の美しさを演出するだけでなく、配合された美容成分の色を正確に表現できるという利点もあります。例えば、ビタミンC誘導体の淡い黄色やナイアシンアミドの白色を、そのまま製品の色として活かすことができます。
透明ジェルに最適です。
保湿クリームやジェルクリームでは、ネイティブ型ジェランガムのしなやかなゲル形成能力が重宝されます。このタイプは肌への伸びが良く、べたつきを抑えながらもしっとりとした使用感を実現できます。ジェランガム自体に保湿効果があることも確認されており、皮膚表面に薄い保護膜を形成することで水分の蒸発を防ぎます。この保護膜は通気性があるため、肌の呼吸を妨げることなく、長時間の保湿効果を維持できます。
保湿と通気性を両立します。
化粧下地やプライマーにおいては、ジェランガムの皮膜形成能力が化粧崩れ防止に貢献します。肌に塗布すると均一な薄膜を形成し、その上に塗るファンデーションの密着性を高めます。また、皮脂や汗による化粧崩れを抑制する効果もあり、特に夏場や湿度の高い環境での使用に適しています。ジェランガムの膜は柔軟性があるため、表情の動きに追従し、ひび割れや剥がれが起こりにくいという特徴もあります。
化粧持ちが格段に良くなります。
最近注目されているのが、ジェランガムを配合した点眼剤の技術を化粧品に応用する試みです。2025年2月に発表された研究では、ジェランガムとポリビニルピロリドン(PVP)を組み合わせることで、涙で流されにくく、かつべたつきを抑えた製剤技術が開発されました。この技術を美容液に応用すれば、汗や水で流れにくく、長時間肌に留まる製品の開発が期待できます。特に、ウォータープルーフ機能が求められる日焼け止めや、運動時に使用する化粧品への応用が有望です。
ジェランガムを用いた新しい製剤技術についての大正製薬の研究発表
また、ジェランガムは極めて少量の添加で効果を発揮するという経済的な利点もあります。一般的には0.05〜0.5%の濃度で十分なゲル化効果が得られるため、製品のコストを抑えながら高い機能性を実現できます。この特性は、価格競争の激しい化粧品市場において大きなアドバンテージとなります。さらに、ジェランガムは国際的な安全性評価機関であるJECFAで1日摂取許容量の設定がないほど安全性が高いと評価されており、敏感肌用の化粧品にも安心して使用できます。
安全性と経済性を兼ね備えています。
ジェランガムを配合する際の注意点としては、他の成分との相互作用を考慮する必要があります。特に、カチオン系(陽イオン系)の成分を配合する場合は、ジェランガムのアニオン性(陰イオン性)との反応により予期しないゲル化や沈殿が起こる可能性があります。製品開発の初期段階で十分な安定性試験を行い、相性の良い成分の組み合わせを見つけることが重要です。また、高濃度の塩類や糖類を配合する場合も、ゲル化挙動が変化する可能性があるため、配合比率の最適化が必要になります。