

資生堂のスキンケア製品の成分表示でアセチル化ヒアルロン酸を見逃すと、通常品の2倍の保水力を得る機会を失います。
アセチル化ヒアルロン酸は、通常のヒアルロン酸の分子構造を化学的に変化させることで、保湿力を飛躍的に向上させた高機能成分です。資生堂は1990年代からこの成分の研究開発に取り組み、「Sヒアルロン酸」という独自の呼称で商品化してきました。通常のヒアルロン酸は水溶性で優れた保湿力を持つものの、時間の経過とともに効果が低下するという課題がありました。
資生堂の基盤研究センターでは、ヒアルロン酸の分子に含まれる4個の水酸基(ヒドロキシ基)のうち、約2.6〜3.8個をアセチル基という疎水性の構造に置き換える技術を開発しました。この化学修飾により、水にも油にもなじみやすい両親媒性という特性が生まれ、皮膚表面への吸着力が格段に向上したのです。吸着力が高まることで、肌内部から蒸発しようとする水分をより多く捕捉できるようになります。
つまり保水力が向上したということですね。
研究データによると、アセチルヒアルロン酸は通常のヒアルロン酸と比較して約2倍の水分保持能力を示すことが確認されています。この数値は、乾燥した粉末状態で相対湿度93.6%の環境下に120時間置いた後の吸湿量を測定した結果に基づいています。実際の化粧品使用場面では、0.2%濃度のアセチルヒアルロン酸配合化粧水を7日間連続使用した試験で、皮膚表面のコンダクタンス値(水分量の指標)が通常のヒアルロン酸と同等以上に上昇しました。
また資生堂は、この成分を配合した化粧水やヘアカラー剤に「Sヒアルロン酸」という表記を使用しています。「S」は「Super」を意味し、通常のヒアルロン酸を超えた性能を持つことを示しています。実際、資生堂プロフェッショナル向けの資料では、この成分を「資生堂独自開発の高機能保湿成分」と位置づけています。
化粧品成分オンライン - アセチルヒアルロン酸Naの詳細情報
こちらのサイトでは、アセチルヒアルロン酸の化学構造や安全性に関する科学的データが詳しく解説されています。
アセチル基の導入によって保水力が向上するメカニズムは、分子の「アンカー効果」にあります。通常のヒアルロン酸は水溶性のため、塗布しても時間とともに蒸発してしまいますが、アセチル化により疎水性(油に溶けやすい性質)が加わったことで、皮脂膜や角質層の脂質成分となじみやすくなりました。この結果、肌表面にしっかりと吸着し、まるで錨を下ろした船のように肌に留まり続けるのです。
具体的な実験データを見ると、その効果の持続性が明確に示されています。角質層シートにアセチルヒアルロン酸溶液を塗布し、弾性率(柔らかさの指標)を2時間測定した試験では、水だけを塗布した場合は30分程度で角質層が元の硬さに戻ったのに対し、アセチルヒアルロン酸では2時間後でも角質層の柔軟性が維持されていました。弾性率が低い状態が続くということは、角質層が水分を含んで柔らかい状態を保っているということです。
これは使えそうです。
さらに人工的に肌荒れを起こした皮膚での試験では、経表皮水分蒸散量(TEWL)の測定結果が興味深い傾向を示しました。通常のヒアルロン酸Naと比較して、アセチルヒアルロン酸Naを配合した化粧水のほうが水分の蒸散をより効果的に抑制したのです。バリア機能が低下した肌では、アセチルヒアルロン酸が角質層内に浸透しやすくなり、角層中の結合水量を増加させることが報告されています。
結合水とは、角質層を構成するタンパク質や天然保湿因子(NMF)の分子に強固に結合している水分のことです。この結合水が増えることで、角質層全体の柔軟性が向上し、外部刺激に対する抵抗力も高まります。例えて言うなら、乾燥してカサカサになったスポンジに水分を含ませて柔らかさを取り戻すようなイメージです。スポンジ1つ分の厚みが約2〜3cmだとすると、角質層の厚さは約0.02mm(20マイクロメートル)と非常に薄い層ですが、この薄い層での水分保持が肌全体の見た目と触感を大きく左右します。
乾燥肌やバリア機能の低下が気になる場面では、角質層への浸透性を重視した保湿ケアが効果的です。アセチルヒアルロン酸配合の化粧水は、洗顔直後の肌が軽く湿っている状態で使用すると、より効率的に角質層へ浸透します。
資生堂グループの製品ラインでは、アセチルヒアルロン酸(Sヒアルロン酸)が多様なブランドで採用されています。最も代表的なのは敏感肌向けブランド「dプログラム」で、角層バリアに着目した高機能土台化粧水に配合されています。dプログラムの化粧水は、スーパーヒアルロン酸という表記でアセチル化ヒアルロン酸Naを保湿成分として全面的に打ち出しており、深いうるおいが長時間続く点を訴求しています。
「アクアレーベル」シリーズでも、Wヒアルロン酸(アセチル化ヒアルロン酸Naとヒアルロン酸Naの組み合わせ)として配合されています。2024年にリニューアルされたアクアレーベルの化粧水・乳液では、資生堂の分析技術から発見されたD-アミノ酸と組み合わせることで、ハリと透明感のある肌へ導く設計になっています。価格帯としては1,000〜2,000円程度と手に取りやすく、30〜40代の忙しい層をターゲットにしています。
美白ブランド「HAKU」では、美白美容液ファンデーションに保湿成分Sヒアルロン酸として配合されています。HAKUの製品説明では、アセチル化ヒアルロン酸と明記されており、美白有効成分4MSKとの相乗効果でシミ部位の凹凸に密着しながら保湿する役割を担っています。ファンデーションにこうした高機能保湿成分を配合することで、メイク中も肌の乾燥を防ぐことができます。
日焼け止めブランド「アネッサ」のデイセラムにも、ヒアルロン酸&コラーゲンGLという組み合わせで水溶性コラーゲンとアセチル化ヒアルロン酸が配合されています。紫外線防御をしながらハリとうるおいのある肌を保つという、二つの機能を両立させた製品設計です。日中の紫外線ダメージと乾燥を同時にケアしたい場面に適しています。
資生堂プロフェッショナル向けのヘアカラー剤「プリミエンス」でも、Sヒアルロン酸をベースにした配合がなされています。ヘアカラーの発色において必要不可欠な水の力を最大限に活かすという独自のコンセプトで、頭皮の保湿と軟化・正常化を目的としています。通常のヒアルロン酸の2倍の保水力と耐アルコール性の高さから、ヘアトニックにも容易に配合可能です。
dプログラムの化粧水における角層バリアへのアプローチと、アセチル化ヒアルロン酸の配合意図について詳しく説明されています。
アセチルヒアルロン酸の効果を最大限に引き出すには、使用タイミングと肌状態に合わせた製品選択が重要です。洗顔後すぐの、肌が軽く湿っている状態で化粧水を塗布すると、角質層への浸透性が高まります。肌表面に残った水分とアセチルヒアルロン酸が結合することで、より効率的に保湿効果が発揮されるためです。500円硬貨大の量を手のひらに取り、顔全体にやさしくなじませる使用法が推奨されています。
製品選びでは、配合濃度よりも配合目的と他成分との組み合わせに注目すべきです。化粧品の全成分表示では、配合量の多い順に記載されるルールがあるため、アセチルヒアルロン酸Na(またはアセチル化ヒアルロン酸ナトリウム)が成分表示の前半に記載されていれば、一定量以上配合されていると判断できます。ただし保湿成分は0.2%程度の濃度でも十分な効果を発揮するため、後半に記載されていても問題ありません。
組み合わせ成分としては、通常のヒアルロン酸Naや加水分解ヒアルロン酸との併用が効果的です。資生堂のアクアレーベルで採用されている「Wヒアルロン酸」のように、分子量の異なる複数のヒアルロン酸を組み合わせることで、肌表面から角質層深部までの多層的な保湿が可能になります。アセチルヒアルロン酸は主に肌表面に吸着して水分蒸発を防ぎ、加水分解ヒアルロン酸は分子量が小さいため角質層内部に浸透しやすいという特性があります。
乾燥が特に気になる場合は、化粧水の後にクリームやジェルで蓋をする「サンドイッチケア」が推奨されます。アセチルヒアルロン酸で角質層を柔軟化した後、油分を含むクリームで覆うことで、水分の蒸発をさらに抑制できます。アクアレーベルのスペシャルジェルクリームEXのようなオールインワンタイプなら、1品で多層的な保湿が完了するため、時短ケアを重視する人に適しています。
敏感肌の場合は、アセチルヒアルロン酸に加えて抗炎症成分が配合された製品を選ぶと安心です。dプログラムのように、グリチルリチン酸ジカリウムなどの有効成分と組み合わせた医薬部外品なら、保湿と肌荒れ予防を同時に行えます。アセチルヒアルロン酸自体はアレルギー性が低い成分ですが、製品全体の配合成分を確認することをおすすめします。
アセチルヒアルロン酸と通常のヒアルロン酸Naとの最大の違いは、親和性と持続性にあります。通常のヒアルロン酸Naは完全な水溶性で1gあたり約6リットル(2リットルのペットボトル3本分)の水を保持できる優れた保水力を持ちますが、塗布後は時間とともに乾燥して保水力が低下します。一方アセチルヒアルロン酸は、疎水基の導入により皮膚表面への吸着性が高まり、長時間にわたって角質層の柔軟性を維持できます。
使用感の面でも明確な差があります。通常のヒアルロン酸Naは高い粘性と曳糸性(糸を引く性質)を持つため、塗布時にややべたつきを感じることがあります。これに対してアセチルヒアルロン酸は曳糸性が低下しており、さっぱりとした使用感が特徴です。またエタノールにも溶けるため、化粧水やヘアトニックなどアルコール含有製品にも配合しやすいというメリットがあります。
他の進化型ヒアルロン酸と比較すると、それぞれに特徴があります。加水分解ヒアルロン酸は、ヒアルロン酸を低分子化したもので、分子量が通常の約100分の1と非常に小さいため角質層内部への浸透性に優れています。ただし保水力そのものはアセチルヒアルロン酸より低い傾向にあります。カルボキシメチルヒアルロン酸Naは、アセチルヒアルロン酸の2倍の保水力を持つとされ、約3倍の水分保持能力がありますが、配合製品はまだ限られています。
ヒアルロン酸クロスポリマーNaは、ヒアルロン酸を架橋(クロスリンク)させた構造で、ゲル状の形態を保ちながら高い保水力を維持します。美容医療で使用される注入用ヒアルロン酸にも架橋技術が応用されており、持続期間が1〜2年と長いのが特徴です。ただし化粧品に配合される場合は浸透性よりも皮膜形成による保湿が主な作用機序です。
実際の製品選択では、単一の成分で選ぶよりも、複数のヒアルロン酸を組み合わせた処方を選ぶほうが効果的です。肌表面でのバリア機能(アセチルヒアルロン酸)、角質層内部への浸透(加水分解ヒアルロン酸)、基底膜付近での保湿(通常のヒアルロン酸Na)というように、各成分が異なる層で働くことで、立体的な保湿ネットワークが形成されます。ロート製薬の肌ラボ極潤プレミアムのように、5種類のヒアルロン酸を配合した製品も市場に存在します。
アセチルヒアルロン酸の活用範囲は、顔のスキンケアだけにとどまりません。資生堂プロフェッショナルのヘアケアラインでは、頭皮改善効果に着目した配合がなされています。頭皮の角質層を柔軟化することで頭皮の硬化を防ぎ、健やかな毛髪の成長環境を整えるという発想です。通常のヒアルロン酸では達成できなかった耐アルコール性の高さが、スカルプトニックのような製品への応用を可能にしました。
最近の研究では、アセチルヒアルロン酸が単なる保湿以上の機能を持つ可能性が示唆されています。角質層の柔軟性が向上することで、他の有効成分の浸透性も高まることが期待されています。資生堂のHAKUシリーズでは、美白有効成分4MSKとの組み合わせで、メラニン色素の過剰生成を抑制しながら保湿するという複合的なアプローチを実現しています。保湿成分が角質層を整えることで、美白成分がより効率的に作用するという相乗効果です。
バリア機能の科学的解明が進む中で、アセチルヒアルロン酸の役割も再評価されています。2025年にリニューアルされたdプログラムでは、美肌菌(表皮常在菌)に着目したブランドコンセプトの中で、角層バリアを整える基礎成分としてアセチルヒアルロン酸が位置づけられました。適切な保湿環境を維持することが、皮膚常在菌のバランスを保ち、結果として肌トラブルの予防につながるという考え方です。
今後の展開としては、ナノカプセル化やマイクロカプセル化などのドラッグデリバリー技術との組み合わせが注目されています。アセチルヒアルロン酸をカプセル内に封入することで、より長時間の徐放効果や、特定の層への選択的な送達が可能になると期待されています。資生堂のビオパフォーマンスシリーズでは、「モレキュシフトテクノロジー」という独自技術でヒアルロン酸分子の大きさを調整する試みが行われており、こうした技術革新の流れは今後も加速すると予想されます。
環境変化に対応したスキンケアの観点からも、アセチルヒアルロン酸の重要性は増しています。エアコンの普及による室内の乾燥、マスク着用による肌荒れ、大気汚染による酸化ストレスなど、現代の肌を取り巻く環境は厳しさを増しています。こうした状況で角質層のバリア機能を維持するには、単に水分を与えるだけでなく、その水分を長時間保持できる保湿成分が不可欠です。アセチルヒアルロン酸は、まさにこのニーズに応える成分として、今後もスキンケア製品の中核を担っていくでしょう。