

あなたが毎日塗っている日焼け止めの40%以上に、「tert」の構造を持つ成分が入っていて、それがホルモンバランスを乱す可能性を指摘されています。
「tert」という文字を化粧品の成分表示で見かけたことはあるでしょうか。スキンケアや日焼け止めを手に取ったとき、成分リストに「t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン」などと書かれていることがあります。
この「t-」こそが「tert-」の略です。
「tert」は英語の「tertiary(ターシャリー)」から来ており、「第三の」「第三級の」という意味を持つ形容詞です。化学の世界では、この言葉は有機化合物の構造を説明するときに使われる接頭辞として定着しています。
つまり「tert=第三級」ということです。
有機化学における「第一級・第二級・第三級」という分類は、ある炭素原子にいくつの別の炭素原子が結合しているか、によって決まります。
| 記号 | 英語名 | 意味 | 接続炭素数 |
|---|---|---|---|
| n-(primary) | プライマリー | 第一級 | 1個 |
| sec-(secondary) | セカンダリー | 第二級 | 2個 |
| tert-(tertiary) | ターシャリー | 第三級 | 3個 |
第三級炭素(tert炭素)は、他の3つの炭素原子と結合した炭素のことです。この構造は立体的にかさばりが大きく、化学反応においてもユニークな性質を示します。
これが重要です。
読み方は「ターシャリー」。英語の三番目を意味する「tertiary」をそのまま読んだものです。化学の授業や参考書では「t-ブチル」「tert-ブチル」どちらの表記も使われています。
参考:有機化合物の命名法(丸善出版)
有機化合物命名法の詳細(丸善出版PDF)
「tert」を理解するには、一緒によく登場する「iso(イソ)」「sec(セク)」との違いも知っておくと便利です。これらはすべて、有機化合物の炭素骨格の種類を示す接頭辞です。
🔑 3つの接頭辞の覚え方ポイント。
- iso(イソ):直鎖の先端が「Y字型」に枝分かれしている構造。イソプロピル基(CH₃CHCH₃-)などが代表例
- sec(セカンダリー・第二級):置換基が第二級炭素に結合している構造。他の2つの炭素と結合した炭素が中心
- tert(ターシャリー・第三級):置換基が第三級炭素に結合している構造。他の3つの炭素と結合した炭素が中心
意外ですね。
特に「tert-ブチル基(t-Bu)」は有機化学で非常に有名な構造です。中心の炭素に3つのメチル基(CH₃)が結合した「−C(CH₃)₃」という形をしており、見た目は球状にふくらんだようなかたちになります。この「かさ高さ」が、化学反応を立体的にブロックする「立体障害(steric hindrance)」として働くことでも知られています。
立体障害が条件です。
美容成分の世界では、このtert構造の「かさ高さ」が分子を安定させたり、特定の反応をコントロールするのに役立っています。化粧品成分の性能や安定性に、炭素の構造レベルの話が関係しているとは驚きではないでしょうか。
参考:有機化学命名法ガイド(薬学系ブログ)
命名法完全ガイド(iso・sec・tertの使い分けも解説)
「tert(t-)」が美容に直結する最も身近な例が、「t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン」という成分です。日焼け止めの成分表示で見かけることが多い名前です。
これが主役です。
正式な化学名は「4-tert-ブチル-4′-メトキシジベンゾイルメタン」。INCI名(国際化粧品原料命名法)では「Butyl Methoxydibenzoylmethane」、慣用名は「アボベンゾン(Avobenzone)」と呼ばれています。
名前の構造を見ると、まさに「tert-ブチル」=第三級ブチル基が分子内に組み込まれていることが分かります。この第三級ブチル基の存在が、分子の化学的な安定性や吸収特性に影響を与えています。
どういうことでしょうか?
t-ブチルメトキシジベンゾイルメタンは、UVA(長波長紫外線・波長320〜400nm)を吸収することに特化した紫外線吸収剤です。日光によってシミや老化の原因になる「UVA」を防ぐ役割を担っており、1980年代から世界中の日焼け止め製品に配合されてきました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 化粧品表示名 | t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン |
| 慣用名 | アボベンゾン(Avobenzone) |
| 主な機能 | UVA吸収による紫外線防御 |
| 最大吸収波長 | 357nm(UVA領域) |
| 状態 | 粉末、水に不溶 |
| 配合可能上限 | 化粧品・医薬部外品ともに最大10% |
参考:化粧品成分オンライン(t-ブチルメトキシジベンゾイルメタンの詳細情報)
t-ブチルメトキシジベンゾイルメタンの基本情報・配合目的・安全性(化粧品成分オンライン)
tert-ブチル基の最大の特徴は、その「かさ高さ(立体的な大きさ)」にあります。中心の炭素に3つのメチル基が結合するため、分子が球状にふくらんだような構造になります。
この「かさ高さ」が立体障害として働きます。
立体障害とは、分子が他の分子と反応しようとするときに、大きな構造が邪魔をして反応しにくくする効果のことです。
いわば、分子の「バリア」のようなものです。
有機化学では、このtert-ブチル基の立体障害を活用した「保護基」という概念があります。化学合成において守りたい部分に「tert-ブチル基(Boc基、t-Bu基)」をかぶせることで、反応させたくない場所を守ります。これは合成医薬品や機能性化粧品の開発でも使われる技術です。
これは使えそうです。
化粧品成分における「t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン(アボベンゾン)」についても、このtert構造ゆえの分子の形が、UVA波長(357nm付近)を特異的に吸収する能力につながっています。ただし逆に、tert-ブチル基があっても光安定性の問題(紫外線を受け続けると分解してしまう)が指摘されており、この点は後述します。
参考:tert-ブチル基によるカルボン酸の保護(ネットdeカガク)
Boc基・t-Bu基の保護・脱保護条件と反応機構の詳細解説
あまり知られていない事実があります。
世界のサンケア(日焼け止め)製品の市場調査によると、グローバルの日焼け止め製品のうち、40%以上の製品に「4-tert-ブチル-4′-メトキシジベンゾイルメタン(アボベンゾン)」が配合されているとされています(Cosmetic Science 2024年レポート)。
40%というのは、日焼け止めを10本並べたとき4本以上に入っている計算です。
あなたが今使っている日焼け止めにも、高い確率でこのtert成分が含まれていると考えられます。
アボベンゾン(t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン)がここまで広く使われている理由は、その優れたUVA吸収力にあります。シミや光老化の大きな原因となるUVA(長波長紫外線)は、雲や窓ガラスを通り抜けて真皮層(肌の深い部分)にまで届きます。このUVAを広範囲に吸収できる成分は限られており、アボベンゾンはその筆頭格です。
また、EUではすでに1978年から使用が認可されており、30年以上の使用実績があります。アメリカでは最大3%、EUでは最大5%の濃度で配合が可能です。日本では医薬部外品・化粧品ともに最大10%まで配合できる成分として、ポジティブリスト(配合可能成分リスト)に収載されています。
配合実績は長い。
これが基本です。
参考:サンケアのグローバルトレンド2024(Cosmetic Science)
サンケアのグローバルトレンド2024(PDF)
tert構造を持つアボベンゾンには、安全性に関するいくつかの指摘があります。美容に関心が高い方ほど知っておきたい話です。
厳しいところですね。
米国EWG(環境ワーキンググループ:Environmental Working Group)は、化粧品成分の安全性を評価・公開している世界最大規模の消費者向け団体です。EWGのレポートでは、アボベンゾン(t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン)について以下のリスクが指摘されています。
🔴 EWGが指摘するリスク(3点)。
- 皮膚アレルギーの可能性:アレルギー反応を引き起こす可能性があると報告されています。ただし、同時に配合される別の成分(オクトクリレンなど)との交差反応である場合も多く、どの物質が原因かの特定が難しいとされています。
- 内分泌かく乱物質の疑い:ホルモンの働きを邪魔する「内分泌かく乱作用」が懸念されています。特に、テストステロン(男性ホルモン)の作用を阻害する可能性がEWGのレポートで言及されています。テストステロンは女性の体内でも分泌され、骨格・筋肉の維持やPMS(月経前症候群)・更年期症状と関連があるとされています。
- 光安定性の低さ:tert-ブチル構造はUVA吸収に優れる一方、日光(特に紫外線)に当たり続けると分解しやすい性質があります。これが「光安定性が悪い」といわれる原因で、一部の研究では紫外線に当たると有害な物質に変化する可能性も指摘されています。
痛いですね。
一方で、日本の厚生労働省はt-ブチルメトキシジベンゾイルメタンを安全性データに基づき認可しており、化粧品成分のポジティブリストにも収載されています。化粧品配合量・通常使用の範囲においては「一般に安全性に問題のない成分」と評価されています。
皮膚科学の観点では、EUや日本での30年以上の使用実績がある中で重大な事故報告は少なく、一概に「危険」と断定するものではありません。ただし、敏感肌や皮膚アレルギーが心配な方は選択肢として、紫外線散乱剤(酸化チタン・酸化亜鉛)のみを使用した「ノンケミカル日焼け止め」も視野に入れてみるとよいでしょう。
参考:t-ブチルメトキシジベンゾイルメタンの安全性情報(CONCIO)
t-ブチルメトキシジベンゾイルメタンは安全?毎日塗る人へ(CONCIO)
アボベンゾン(t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン)の弱点は、「光安定性の低さ」です。
どういうことでしょうか?
紫外線を受けると化学構造が変化し、分解されてしまうという性質があります。イメージとしては、外に出るたびに成分が少しずつ消耗してしまう感じです。500円玉サイズの水が蒸発するように、塗り直しのたびに成分が補充されなければ、UV防御効果が低下していくのです。
この問題を解決するために、化粧品メーカーは「安定化技術」を活用しています。
代表的な方法が次の2つです。
- オクトクリレン(Octocrylene)との組み合わせ:アボベンゾンの光安定性を補う成分として一般的に使われます。2成分を組み合わせることで非常に高いUVA防御効果が得られるとされています。
- マイクロカプセル化技術:最新のサンケア原料では、アボベンゾンをマイクロカプセルで包み、光劣化を抑える技術(AvoCap、Silasoma MEAなど)が開発されています。カプセル内に閉じ込めることで、皮膚への浸透も抑えられ、安全性も向上するとされています。
これは使えそうです。
日焼け止めを選ぶ際は、成分表示で「t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン」の有無を確認し、一緒に「オクトクリレン」が入っているかを確認してみてください。
組み合わせが条件です。
また、どのタイプの日焼け止めを選ぶかは、個人の肌質や用途で判断するのがおすすめです。化学系吸収剤が心配な方は成分表示サイト(例:化粧品成分オンライン)で確認する方法もあります。
参考:ポーラチョイス(アボベンゾンの成分解説)
t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン(アボベンゾン)の成分解説(Paula's Choice)
「tert」が登場するのは、アボベンゾン(日焼け止め成分)だけではありません。有機化学全体で「第三級」の概念は幅広く使われており、美容成分の世界でもさまざまな場面で出てきます。
これが原則です。
🔬 美容・化粧品分野で「tert構造」が関係する主な場面。
- 第三級アルコール(tert-アルコール):例えば「tert-ブタノール(t-ブチルアルコール)」は、第三級炭素にOH基が結合した構造。化粧品の溶剤・香料原料として使われることがある成分です。
- 第三級アミン:窒素(N)に3つの炭素が結合した構造を第三級アミンといいます。界面活性剤やコンディショニング剤の合成に関係します。
- Boc基(tert-ブトキシカルボニル基):合成ペプチドや美容成分の製造工程で使われる「保護基」です。「tert-ブトキシカルボニル(Boc)」の名前からもtert構造が組み込まれていることがわかります。
第一級・第二級・第三級の違いによって、分子の反応性や安定性が変わるというのが有機化学の面白いところです。美容成分の開発においても、この「級の違い」が成分設計の重要な基準のひとつになっています。
参考:ターシャリー(Wikipedia)
ターシャリー(tertiary)の定義と化学分野での使われ方(Wikipedia)
「tert」「sec」「iso」などの接頭辞は、有機化学の教科書で初めて出会うとやや難しく感じるかもしれません。でも、美容の視点から学ぶと一気に身近になります。
具体的には、こんな手順で読み方を覚えるのがおすすめです。
成分表示を読む練習ができます。
化粧品の成分表示は日本語か英語のIUPAC(国際純正応用化学連合)の規則に基づいて記載されています。「t-ブチル〜」という名前を見たとき、「これは第三級ブチル基が入っているんだな」と分かるだけでも、成分表示の理解が大きく変わります。
実は、化粧品成分の名前には、化学構造の情報がぎっしり詰まっています。「〇〇ジベンゾイルメタン」といった成分名も、ジベンゾイルメタンというスケルトン(骨格構造)に、第三級ブチル(tert)やメトキシ(OCH₃)という部品が付け加えられた形です。
パズルのように読み解けば問題ありません。
美容に興味がある方にとって、化学式や有機化学の専門知識は不要でも、「この記号には意味がある」という感覚を持つだけで、成分選びの幅が広がります。化粧品の成分表示は長くて難しそうに見えますが、「tert=第三級=3つの炭素結合」という基本ルールを知っているだけで、ぐっと読みやすくなります。
参考:英辞郎 on the WEB(tertの定義と使い方)
「tert」の意味・使い方・表現(英辞郎 on the WEB)
「tert」の意味を知っているかどうかで、日焼け止め選びの判断精度が変わります。
美容好きの方の多くは、成分表示の長い名前を見ても「よくわからないので信頼できるブランドだから大丈夫」と判断しがちです。でも実際には、日焼け止めの40%以上に入っているアボベンゾン(t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン)が、肌アレルギーやホルモンへの影響を懸念される場合があることはほとんど話題になりません。
知らないと損する情報です。
一方で、「tert(第三級)=かさ高い安定した構造」という化学的な意味を知っていると、成分表示を見たときに「あ、これは第三級ブチル基が入ったUVA吸収剤だ」と判断できます。そこから安全性情報を調べたり、オルタナティブな成分(酸化亜鉛・酸化チタンのノンケミカル系)を選ぶ判断もできます。
具体的にやることは1つ。成分表示で「t-」「tert-」から始まる成分があったら、化粧品成分オンライン(cosmetic-ingredients.org)で検索して、配合目的と安全性の評価を確認することです。
5分もかかりません。
知識があれば選択肢が広がります。
特に敏感肌の方、妊娠中や授乳中でホルモンへの影響を気にしている方、肌アレルギーが出やすい方は、tert構造を持つ紫外線吸収剤の有無を成分表示でチェックする習慣をつけると安心です。もちろん、tert成分がすべて有害というわけではありません。
これが条件です。
「成分を知って、自分で選ぶ」というアプローチが、美容の本質的なスキルアップにつながります。
参考:化粧品成分オンライン(紫外線防御成分の解説)
紫外線防御成分の一覧と解説(化粧品成分オンライン)
ここからは少し独自の視点でお話します。
日本では美容成分への関心が年々高まっています。化粧品のラベルを読む消費者が増え、「成分マニア」と呼ばれる層も生まれました。しかし、多くの場合その読み方は「〇〇酸が入っているから良い」「△△フリーだから安心」という、個別成分名の暗記に止まっています。
これだけでは不十分だということですね。
「tert-(第三級)」「sec-(第二級)」「iso-(イソ)」のような接頭辞の意味を理解することは、暗記ではなく「化学的なルールを理解する」ことです。ルールさえ分かれば、初めて見る成分名でも構造の特徴を推測できるようになります。
美容の世界と化学の世界は、見た目ほど遠くありません。
例えば「〇〇-tert-ブチル〜」という名前が出てきたとき、「第三級ブチル基が付いているということは、立体的にかさばった構造で、安定性や浸透性に何らかの特徴がある可能性がある」という推測ができます。これは、数百ある化粧品成分を全部覚えるよりも、はるかに応用が利く知識です。
💡 「名前を読む力」を育てる3ステップ。
- ステップ1:接頭辞を覚える(tert-, sec-, iso-, n- など)
- ステップ2:よく出る語根を覚える(〇〇ベンゾイル、〇〇ジメチル、など)
- ステップ3:成分の役割(紫外線吸収・保湿・酸化防止など)と結びつける
このアプローチは、美容成分の勉強を「暗記科目」から「理解科目」に変える方法です。特にこれからAIが普及し、成分情報をすぐに調べられる時代において、「何を調べるべきか」「どの情報が信頼できるか」を判断する力が、スキンケア選びの核心になってきます。
知識が条件です。
「tert」という小さな4文字の意味を知ることが、化粧品成分リテラシーの第一歩になります。化学が得意でない方でも、「第三級=3つの炭素結合=かさ高い安定構造」というイメージを持つだけで、成分表示の読み方がぐっと変わります。
参考:ターシャリー(Weblio辞書)
ターシャリー(tertiary)とは何か?わかりやすい解説(Weblio)