

ノンオイルサラダを毎日食べているのに、骨密度が年々下がってしまっている。
フィロキノンとは、植物の葉緑体で光合成の過程に関与しながら生成される、天然ビタミンKの一形態です。化学的には「ビタミンK1」と呼ばれ、側鎖にフィチル基(炭素20個の長い鎖)を持つのが構造上の特徴です。この構造が、動植物の体内での代謝のしやすさや、骨・肝臓への到達量に大きく影響してきます。
緑黄色野菜に特に豊富で、代表的な食品としては、ほうれん草(100gあたり約270μg)、モロヘイヤ(同640μg)、しそ(同690μg)があります。しそ10枚(約7g)でも約48μgが摂れる計算で、成人の1日の目安量150μgの3分の1にあたります。
ただし重要なのは、フィロキノンは脂溶性ビタミンであるという点です。油と一緒に摂取しないと、吸収率は10〜20%程度にとどまります。つまり同じ食品を食べても、ドレッシングなし・素ゆでのままでは体に取り込まれる量が大きく変わります。
健康な成人でも、油と一緒に摂ったときと摂らなかったときでは、吸収量に最大7〜8倍の差が出るとされています。これは「野菜を食べているから大丈夫」と思っている人には、意外と知られていない事実です。
メナキノンは、微生物(腸内細菌を含む)や発酵食品の菌が産生するビタミンKの総称で、「ビタミンK2」とも呼ばれます。側鎖のイソプレン単位の数によって、メナキノン-4(MK-4)からメナキノン-13(MK-13)まで複数の同族体が存在します。食品や栄養学の文脈で重要とされるのは、主にMK-4とMK-7の2種類です。
MK-4は動物性食品(鶏肉・卵黄・チーズなど)に広く分布しており、体内ではフィロキノンから酵素の働きによって一部が変換される形でも生成されます。一方、MK-7は発酵食品—特に納豆—に特有の成分で、納豆菌(Bacillus subtilis var. natto)が産生します。納豆1パック(約40g)には、約240μgものMK-7が含まれており、成人の1日目安量150μgを大幅に上回ります。
つまり「フィロキノンもメナキノンもビタミンK」という一括りの理解では不十分です。骨や美容への働きを最大化したいなら、K1とK2のどちらに着目するかで、選ぶ食材やサプリメントの中身が全く変わってきます。
国立健康・栄養研究所「健康食品」の安全性・有効性情報:ビタミンK(フィロキノン・メナキノン-4・MK-7の種類と機能について科学的根拠をまとめた信頼性の高い情報源)
フィロキノンとメナキノンは、どちらも「2-メチル-1,4-ナフトキノン」を基本骨格とするビタミンKの一員ですが、側鎖の構造が根本的に異なります。フィロキノンの側鎖はフィチル基(飽和した炭素20個の直鎖)で、1種類しか存在しません。
一方、メナキノン類の側鎖はプレニル基(不飽和の繰り返し構造)で構成されており、繰り返し単位であるイソプレンの数が4〜13個と幅広く変化します。この数がメナキノン-4(MK-4)、メナキノン-7(MK-7)といった名前の「数字」になっています。
側鎖の長さが長いほど、脂溶性が高く、体内での移動速度が遅くなります。MK-7はMK-4よりも側鎖が長い分、体内での滞留時間(血中半減期)が大きく異なります。MK-4の血中半減期は数時間程度とされているのに対し、MK-7は約72時間(3日間)と非常に長い。
これが大きなポイントです。毎日摂取せずとも、体内に一定量を維持しやすいのはMK-7の構造的な特性から来ています。美容目的でサプリメントを選ぶ際、「どのビタミンK」が入っているかを確認する理由がここにあります。
日常の食事から摂れるビタミンKの量は、食材によって大きな差があります。
以下に代表的な食品をまとめます。
| 食品 | 種類 | 目安量 | 含有量(μg) |
|---|---|---|---|
| 挽きわり納豆 | MK-7(K2) | 1パック(50g) | 約465 |
| 糸引き納豆 | MK-7(K2) | 1パック(50g) | 約435 |
| モロヘイヤ(生) | フィロキノン(K1) | 1束(100g) | 640 |
| しそ(生) | フィロキノン(K1) | 10枚(7g) | 約48 |
| ほうれん草(生) | フィロキノン(K1) | 1株(20g) | 約54 |
| 鶏もも肉・皮つき(ゆで) | MK-4(K2) | 100g | 47 |
| 鶏卵・卵黄(生) | MK-4(K2) | 1個(16g) | 約6 |
| パルメザンチーズ | MK-4(K2) | 大さじ1(6g) | 約1 |
この数字が示すのは、「野菜でK1は摂れるが、K2は納豆・動物性食品に頼る必要がある」という現実です。
美容や骨の健康を重視する場合、フィロキノン(K1)だけを意識しても足りません。特に納豆が苦手な人や、チーズ・鶏肉をあまり食べない人は、メナキノン(K2)が不足しがちになります。
食事全体を見直すことが基本ですね。
フィロキノン(ビタミンK1)の最も重要な生理的役割は、血液凝固の維持です。血液を固めるために必要なプロトロンビン(血液凝固第Ⅱ因子)をはじめ、第Ⅶ・Ⅸ・Ⅹ因子の生成において、フィロキノンは補酵素として不可欠なはたらきをします。
これらのタンパク質を正常に機能させるには、グルタミン酸残基をγ-カルボキシグルタミン酸に変換する化学反応が必要で、ビタミンKがその反応の触媒役を担います。
フィロキノンが不足すると、血液凝固に時間がかかるようになり、小さなケガでも出血が止まりにくくなります。鼻血・歯肉出血・月経過多なども欠乏のサインとして知られています。
血液凝固が原則です。
ただし、現代の日本では通常の食事をしていればフィロキノンが深刻に不足することは稀で、2019年の国民健康・栄養調査では、成人の平均摂取量は男性で1日約246μg、女性で約235μgと、目安量150μgを上回っています。
メナキノン(ビタミンK2)の美容・健康的な価値の核心は、骨代謝とカルシウム制御にあります。特に重要なのは、「オステオカルシン」と「マトリックスGlaタンパク質(MGP)」という2種類のビタミンK依存性タンパク質への作用です。
オステオカルシンは骨芽細胞が分泌するタンパク質で、ビタミンK2によって活性化(カルボキシル化)されると、カルシウムと強く結合し、骨のマトリックスに定着させます。カルシウムを摂るだけでは骨にきちんと定着しません。メナキノンがなければ、いくらカルシウムを補っても骨密度の向上には限界があります。
MGPは血管や軟部組織へのカルシウム沈着を防ぐタンパク質です。ビタミンK2が十分にあれば、MGPが活性化され、カルシウムが「骨に行くべきもの」として適切に誘導されます。つまり動脈硬化のリスク低減にも関与するということです。
これは使えそうです。
日本では、メナキノン-4(メナテトレノン)がすでに骨粗鬆症の治療薬として承認されており、1日45mgを食後3回に分けて服用する処方薬として使われています。この事実が、メナキノンの骨への作用の強さを示しています。
健康長寿ネット(公益財団法人長寿科学振興財団)「ビタミンKの働きと1日の摂取量」:フィロキノン・メナキノンの骨・血液凝固への作用と食事摂取基準2025年版の詳細情報)
近年の研究が示すMK-7の美容的価値は、骨だけにとどまりません。以下の3つのルートを通じて、身体の外見に影響します。
まず骨の維持です。骨が内側からしっかりしていると、姿勢や顔立ちの骨格にも影響します。骨粗鬆症が進むと脊椎が圧迫骨折し、身長が縮んだり猫背になったりと、外見上の変化につながることは見落とされがちです。
骨密度は見た目の土台です。
次に血管の健康です。MGPの活性化により、血管壁へのカルシウム沈着が抑制されます。血行が維持されると、顔色の改善・くまの軽減・肌の栄養供給がスムーズになります。ビタミンKは毛細血管の機能維持にも関与することが知られており、目の下のくまにもアプローチできる可能性が指摘されています。
そして3つ目がコラーゲン産生との関わりです。2024年の「ビタミンK2シンポジウム」(東京ビッグサイト)でも、コラーゲン産生促進との関連性が報告されました。特に、メナキノン-4がSXRリセプターを介した骨芽細胞のコラーゲン増加効果を持つことが特許文献でも記載されています。
つまりMK-7は「骨・血管・肌」すべてに影響しうる成分ということですね。
フィロキノンもメナキノンも脂溶性ビタミンなので、油と一緒でないと体への吸収が著しく下がります。健康な成人でも、油なしで摂取した場合の吸収率はわずか10〜20%程度で、油と一緒に摂った場合の70〜80%と比べると大きな差です。
これはほうれん草などの野菜を食べるとき、ノンオイルドレッシングや素ゆでのまま食べ続けていると、含まれているフィロキノンの大半を無駄にしていることを意味します。
吸収効率を上げるポイントは以下の通りです。
また、ビタミンKの吸収には胆汁と膵液が必要です。加齢によってこれらの分泌量が低下するため、高齢になるほど吸収効率が下がります。
50代以降は特に注意すれば大丈夫です。
日本人の食事摂取基準(2025年版)では、成人のビタミンKの1日の目安量を男女ともに150μgと設定しています。これは、骨粗鬆症でも動脈硬化でもない「健常者が欠乏しないための量」です。
美容・骨強化を意識した場合はやや異なります。骨粗鬆症の予防・治療を目的とする場合、250〜300μg/日の摂取が推奨されるという見解もあります。また、骨粗鬆症の治療薬として承認されているメナキノン-4(メナテトレノン)は、1日45mgという、食事目安量の数百倍の用量が処方されており、通常の食事やサプリでは到達しない量域での効果が確認されています。
ただし、通常の食品やサプリメントから摂取する天然のフィロキノン・メナキノンには、現在のところ過剰摂取による毒性は報告されていません。上限量も設定されておらず、摂りすぎによるリスクは低いとされています。
ただし重要な例外があります。
ワルファリン(血液をサラサラにする抗凝血薬)を服用している人はビタミンKが薬の効果を弱めるため、納豆・青汁・ほうれん草などの摂取量を主治医に相談する必要があります。特に納豆は「絶対禁止」とされることが多く、ワルファリン服用中に気づかずに食べ続けると、脳梗塞・肺塞栓などの重篤な血栓症につながる可能性があります。
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」:ビタミンKの摂取目安量・設定根拠の公式情報源
メナキノン-7(MK-7)と骨密度の関係は、単独でも有望ですが、ビタミンD3と組み合わせると効果がより高まります。
骨粗鬆症を患う女性を対象とした研究(Iwamoto J. ら, 2000年)では、ビタミンK2とビタミンD3を2年以上同時摂取したグループで、腰椎の骨密度が有意に増加したことが確認されました。仕組みはシンプルで、ビタミンDが腸からのカルシウム吸収を促進し、ビタミンK2がそのカルシウムを骨に定着させる—この2段階がセットで働くからです。
ビタミンDだけ摂っていると、血中カルシウムが増えても骨に定着しきれず、場合によっては血管や軟部組織への異所性石灰化につながるリスクがあるという指摘もあります。
ビタミンK2との組み合わせが条件です。
市場に流通するビタミンK2サプリメントには、MK-4を含む製品とMK-7を含む製品があります。骨密度の維持・向上を目的とするなら、血中半減期が長く少量でも体内に長く留まるMK-7が注目されています。
購入前に「MK-4か、MK-7か」を必ず確認すること。
これが1つの判断基準になります。
オーソモレキュラー栄養医学研究所「ビタミンK」:MK-4・MK-7の違い・ビタミンKとD3の相乗効果・骨密度研究の詳細が確認できる栄養医学の情報源
あまり知られていませんが、ヒトの大腸内の腸内細菌もメナキノンを生産しています。Bacteroides fragilis、Bacteroides vulgatus、Enterobacter agglomeransなどの細菌が、腸内でビタミンK2(主にMK-10〜MK-13など長鎖型)を合成していることが知られています。
ただし、大腸で産生されたビタミンKは「吸収されにくい」という問題があります。ビタミンKの小腸での吸収には胆汁・膵液が必要ですが、大腸にはそれらが届きにくいためです。腸内細菌からの供給は「補助的」にとどまります。
それでも重要なのは、腸内環境の乱れがビタミンK2の体内産生量に影響することです。長期間の抗生物質服用は腸内細菌叢を大きく崩し、ビタミンK2の体内供給を激減させます。美容や骨密度のためにサプリを飲んでいても、腸内環境が荒れていては意味が半減します。
腸内環境を整えることがビタミンK活用の土台です。発酵食品(納豆・ヨーグルト・ぬか漬けなど)を日常的に取り入れることで、ビタミンK2の供給源を腸内からも確保できます。
美容目的でビタミンKを意識する場合、「どちらか一方だけ」ではなく用途によって使い分けるのが現実的です。
血行促進・くまの改善・毛細血管のサポートを目的とするなら、フィロキノン(K1)もメナキノン(K2)も両方が関わります。食事から緑黄色野菜(K1)をしっかり油と一緒に摂ることが基本です。
骨の健康・骨密度の維持・動脈硬化の予防を重視するなら、メナキノン(K2)—特にMK-7を意識します。納豆を週4〜5回食べることで、食事のみでも1日の目安量を十分カバーできます。
コスパよく補いたい人は、納豆に大豆油やごま油を少量加えるだけで、MK-7を効率よく摂取できます。
これで済む場合が多いです。
食事だけで不安な方には、ビタミンK2(MK-7)+ビタミンD3を組み合わせたサプリメントも市販されています。選ぶ際は「MK-7含有」と「ビタミンD3配合」の両方が入っているかを確認するのが1つの判断基準です。iHerbや国内メーカーの製品ではMenaQ7®(ノルウェー発の天然MK-7原料)が使われているものも多く、信頼性の目安になります。
最後に、美容目的でビタミンKを調べる過程でよく見られる誤解を整理します。
まず「ビタミンKは危険」という誤解です。フィロキノン・メナキノンの天然型は大量に摂っても毒性が報告されていません。危険性があるのは、合成品のビタミンK3(メナジオン)であり、食品やサプリには使用されていません。
安全性は問題ありません。
次に「緑黄色野菜を食べていれば十分」という誤解です。緑黄色野菜で摂れるのは主にフィロキノン(K1)であり、美容・骨で注目されるメナキノン(K2)は、納豆・動物性食品・発酵食品からしか摂れません。
K1とK2は役割が違います。
「ノンオイルで食べても同じ」という誤解も要注意です。フィロキノンは脂溶性なので、油なしだと吸収率が10〜20%程度に落ちます。油と一緒に摂ることで70〜80%まで上がります。
7割の差は大きいですね。
「ワルファリン服用中でも納豆は食べていい」という誤解は特に危険です。納豆は1パックで成人目安量の3倍以上のMK-7を含んでおり、ワルファリンの効果を著しく弱めます。
服用中の方は必ず主治医に確認してください。
これらを押さえておけば、フィロキノンとメナキノンを正しく活用できます。
日本薬学会 環境・衛生部会「ビタミンKの体内動態」:フィロキノンがどのように体内で代謝されるか、メナキノンへの変換プロセスなど専門的な解説ページ