

毎日丁寧にスキンケアをしているのに、30代から肌のくすみやシワが急に気になり始めるのはあなただけではありません。実は、肌老化の根本原因のひとつが「細胞の中」にあります。その鍵を握るのが「DRP1」というタンパク質と、細胞内のエネルギー工場「ミトコンドリア」の関係です。
「DRP1」という名前を聞いたことがない方がほとんどでしょう。DRP1とはDynamin-Related Protein 1の略称で、ミトコンドリアを「分裂」させる役割を持つタンパク質です。
ミトコンドリアは、私たちの肌細胞1個に対して約数百〜数千個が存在し、細胞が活動するためのエネルギー(ATP)を産生しています。このエネルギーが正常に供給されることで、肌のターンオーバーやコラーゲン合成など、肌を若々しく保つ機能が維持されます。
ミトコンドリアは静的な存在ではありません。絶えず「融合(くっつく)」と「分裂(分かれる)」を繰り返し、形態を変えながら品質を保っています。これを「ミトコンドリアダイナミクス」と呼びます。DRP1はこのうち「分裂」を担う中心的な因子です。通常、DRP1は細胞質に存在していますが、ミトコンドリアが分裂するタイミングで外膜に呼び寄せられ、膜をくびり切ることで分裂を実行します。
つまり、DRP1が基本です。
健康な状態では、分裂と融合のバランスが保たれています。傷んだミトコンドリアを分離して除去(マイトファジー)したり、情報を共有し合ったりするために、ダイナミクスは欠かせない仕組みです。問題は、加齢や酸化ストレスによってこのバランスが崩れたときに起こります。
| 役割 | 関連因子 | 機能 |
|---|---|---|
| 🔴 分裂 | DRP1・Fis1・Mff | ミトコンドリアを小さく分割する |
| 🔵 融合 | Mfn1・Mfn2・OPA1 | ミトコンドリアをつなぎ合わせる |
| 🟢 品質管理 | MITOL(マイトリガーゼ) | DRP1を分解して分裂を抑制する |
大阪大学・石原研究室の研究紹介では、DRP1は細胞質と外膜に局在し分裂に機能することが詳しく解説されています。
大阪大学 石原研究室|ミトコンドリア研究 専門家向け紹介(DRP1の機能)
加齢や慢性的な酸化ストレスが続くと、ミトコンドリアのダイナミクスは崩れていきます。問題の核心は「DRP1が過剰に蓄積する」ことです。
通常、DRP1の過剰蓄積を抑えているのがMITOL(マイトリガーゼ)という酵素です。MITOLはDRP1をユビキチン化(分解の目印をつけること)して処理し、分裂のやりすぎを防いでいます。しかし、加齢によってMITOLの発現量が減少すると、DRP1が蓄積し始めます。
これが連鎖的な問題を引き起こします。
DRP1が過剰に蓄積すると、ミトコンドリアが次々と断片化(バラバラに分かれた状態)します。断片化したミトコンドリアはエネルギー産生効率が大幅に低下するうえ、活性酸素(ROS)を大量に放出します。活性酸素は一種の「細胞への攻撃物質」で、コラーゲンやエラスチンを分解するMMP(マトリックスメタロプロテアーゼ)という酵素の発現を増やし、肌の構造をじわじわと壊していきます。
つまりコラーゲン減少が原則です。
東京薬科大学の柳茂教授による研究では、MITOL欠損マウスにおいて出生後7ヶ月の時点でオスでは白髪・脱毛・皮膚異常が観察され、12ヶ月ではメスにも同様の老化兆候が現れたことが報告されています。さらに、少量の紫外線刺激でも大きなシワ進行が確認されており、ミトコンドリアの機能異常がいかに皮膚老化と直結しているかを示す重要な実験結果です。
東京薬科大学・コスメトロジー研究報告による、MITOLとDRP1の皮膚老化との関係についての詳細な研究論文です。
コーセーコスメトロジー研究財団|ミトコンドリア活性化による皮膚老化の抑制に関する研究(柳茂教授, 2016年)
「活性酸素が悪い」という話はよく聞きますが、なぜDRP1の過剰蓄積が活性酸素の増加につながるのか、その仕組みを整理します。
ミトコンドリアはエネルギーを作る過程で消費した酸素の約数%を「活性酸素(ROS)」として漏出させます。これは正常な細胞機能でも起きる避けられない副産物です。重要なのは、ミトコンドリアが正常な形態(ネットワーク状に融合している状態)を保っているほど、このROSの漏出割合が少なくなるという点です。
ところが、DRP1の過剰蓄積によってミトコンドリアが断片化すると、エネルギー産生の効率が落ちるだけでなく、ROS漏出の割合が増加します。断片化したミトコンドリアはいわば「壊れかけたエンジン」のようなもので、正常に燃焼できないまま有害な排気ガス(ROS)をまき散らし続けます。
これは深刻ですね。
ROSが増えると、肌ではコラーゲンを分解する酵素「MMP1」の遺伝子発現量が増加し、逆にコラーゲン自体の遺伝子発現量が減少することが大正製薬と学習院大学との共同研究(2024年)で確認されています。さらに、細胞老化マーカーである「p16遺伝子」の発現が増加し、肌細胞自体が老化した状態に陥ることも明らかになりました。細胞が傷ついたとき、本来は周辺の細胞が移動して修復を行いますが、MITOLが減少した細胞では移動速度も低下し、傷の修復が遅れることまで判明しています。
大正製薬と学習院大学の共同研究による、マイトリガーゼの減少とコラーゲン減少・老化マーカー増加・細胞移動速度低下の関係が詳しくまとめられています。
大正製薬|若返りの鍵「マイトリガーゼ」と肌老化の関係を多角的に解明(2024年4月)
肌老化の約8割は紫外線による「光老化」が原因とされています。日焼け止めを丁寧に塗ることは当然大切ですが、それだけでは不十分な理由があります。DRP1とミトコンドリアが関係しているからです。
紫外線(特にUVB)は表皮細胞に届き、細胞内のROSレベルを急上昇させます。このROSがミトコンドリア自体にダメージを与えると、ミトコンドリアが傷つき、さらにROSを発生させるという「悪循環」が始まります。同時に、紫外線刺激によってDRP1の活性化も促進されます。北海道大学・柳輝希准教授の研究では、皮膚の有棘細胞癌(SCC)ではDRP1の発現が正常な表皮に比べて亢進していることが免疫染色によって確認されており、DRP1が皮膚の病理的状態とも深く関わることが示されています。
意外ですね。
紫外線によってミトコンドリアが断片化すると、肌細胞のエネルギーが不足し、ターンオーバーに必要な細胞分裂スピードが低下します。新しい細胞が表面に上がってくるまでの周期が長くなるため、古い角質が滞留し、くすみや肌荒れが起きやすくなります。つまり、「紫外線ダメージ → DRP1蓄積 → ミトコンドリア断片化 → ROS増加 → 老化加速」という連鎖が起きているのです。
外からのUVケアと並行して、細胞内のミトコンドリア機能を守るアプローチが美容の新しい常識になりつつあります。
北海道大学大学院・柳輝希准教授による、紫外線とDRP1・ミトコンドリアの関係に関する学術研究です。
コーセーコスメトロジー研究財団|紫外線曝露による皮膚老化・発癌においてミトコンドリア関連分子が果たす役割(2019年)
ここで重要な存在として登場するのが「MITOL(マイトリガーゼ)」です。正式名称はMitochondrial Ubiquitin Ligaseといい、2006年に学習院大学の柳茂教授によって発見されました。
MITOLはミトコンドリア外膜に存在し、過剰になったDRP1にユビキチンという「分解の目印」をつけることで、DRP1を処理します。いわばDRP1の暴走を止めるブレーキのような役割です。MITOLが十分あれば、ミトコンドリアの分裂は適切にコントロールされ、形態と機能が正常に保たれます。
問題は加齢によってMITOLが確実に減少することです。
大正製薬の研究(2024年)では、30代と60代の女性から採取した肌組織を比較した結果、60代の肌ではMITOLの量が有意に少なく、同時にコラーゲン構造の乱れが多く観察されることが確認されています。加齢とMITOL減少には明確な相関関係があるということですね。
また、東京薬科大学の柳茂教授の実験では、エストロゲンが活性酸素の除去に関わるため、MITOL欠損の影響がメスのマウスではオスより遅れて現れることも観察されています。これは、女性ホルモンが一定程度ミトコンドリアのダメージを緩和する可能性を示唆する、非常に興味深い発見です。閉経後の女性で急激に肌の老化を感じやすいのはこのことも関係しているかもしれません。
大正製薬と学習院大学が共同研究してきたマイトリガーゼの全体像と美容研究者・井野口友紀研究員のインタビューが確認できます。
大正製薬 研究ラボ|細胞レベルの研究がたどり着いた肌の若返りの鍵(マイトリガーゼ研究インタビュー)
DRP1の過剰蓄積を間接的に抑えるには、MITOLを増やすことが重要です。では、MITOLを増やすためにどうすればよいのでしょうか?これは使えそうです。
大正製薬と学習院大学の柳茂教授は、400〜500種類もの成分をスクリーニングした結果、MITOLを増やす可能性がある成分として以下を特定しました。
これらの成分はスキンケアコスメやサプリメントへの応用が進んでおり、美容業界で「ミトコンドリアケア」として注目されています。ただし、含有量や処方によって効果は異なるため、ミトコンドリア関連成分を「配合している」「研究に基づいている」と明記した製品を選ぶ基準として持っておくと有用です。
MITOLとDRP1に着目した創薬・サプリ開発へのアプローチについて、学術的な背景が詳しくまとめられています。
オープンイノベーションポータル|ミトコンドリアを標的にした創薬開発(美容・健康)
スキンケアアイテムを変えるだけでなく、生活習慣そのものがDRP1・ミトコンドリアのバランスに直接影響します。
ここが実は見落とされやすいポイントです。
まず、慢性的な酸化ストレスを減らすことが最優先です。酸化ストレスはDRP1の蓄積を促進し、MITOLを消耗させます。酸化ストレスを高める要因としては、過剰な紫外線曝露、喫煙、睡眠不足、過剰な糖質摂取(糖化ストレス)、過度の運動(ただし適度な有酸素運動は逆効果ではありません)が挙げられます。
次に、適度な有酸素運動についてです。ウォーキングやジョギングなどの継続的な有酸素運動はミトコンドリアの数を増やし、機能を高めることが複数の研究で示されています。細胞がエネルギーを必要とする状態になると、ミトコンドリアの生合成が促進されるためです。ただし、長時間の過激な運動は逆に大量の活性酸素を生み出すことがあるため、週3〜4回・30〜40分程度の有酸素運動が目安になります。
ミトコンドリアとDRP1の研究は、美容医療の分野でも急速に注目を集めています。
これは独自視点での注目トピックです。
2018年にロート製薬が発表した「ミトコンドリアトランスファー(移植)」の研究は、老化したミトコンドリアを若いミトコンドリアに入れ替えることで肌細胞の機能を回復させるという、SFのような試みです。テキサスA&M大学の2025年の研究では、細胞内のミトコンドリアを入れ替える革新的な手法によって老化関連疾患に新しい道筋を示せる可能性が報告されており、今後の展開が期待されています。
また、資生堂は2023年にミトコンドリアのATP産生を調節するMPC1を抑制することで表皮幹細胞が活性化するという、従来の常識とは逆の発見を発表しています。「ミトコンドリア機能を上げるだけでなく、あえて一部を抑えることで幹細胞を若く保つ」という発想は美容医療に新しいアプローチをもたらしています。
現在、ミトコンドリアに着目した美容クリニックでも、エイジングケアの観点からMITOLとDRP1のバランスを整える成分の配合を積極的に検討する動きが出ています。科学で老化に立ち向かう美容医学は、DRP1研究を足がかりにして確実に進化しています。
DRP1の過剰蓄積によるミトコンドリア断片化が実際の肌でどう現れるかを、ターンオーバーとバリア機能の観点からまとめます。
肌のターンオーバー(新陳代謝)は、基底層で生まれた細胞が表面まで上がっていく周期のことです。健康な20代では約28日、40代以降は45〜60日以上かかると言われています。このサイクルを動かすのは細胞分裂であり、細胞分裂にはミトコンドリアが産生するATPエネルギーが不可欠です。
DRP1の蓄積 → ミトコンドリア断片化 → ATP産生低下 → 細胞分裂スピードの低下というこの連鎖は、直接的にターンオーバーを遅らせます。ターンオーバーが遅れると古い角質が肌表面に残り、くすみや乾燥の原因になります。さらに、表皮ケラチノサイト(肌の主要な細胞)のインボルクリンという分化マーカーが低下することも実験で確認されており、バリア機能を担う角質層の形成が正常に行われなくなります。
バリア機能の低下は深刻です。
バリア機能が崩れると外部の刺激(紫外線、乾燥、花粉など)が細胞に直接届きやすくなり、炎症反応が起きやすくなります。炎症は慢性化するとSASP(細胞老化関連分泌形質)と呼ばれる状態を引き起こし、周囲の正常な細胞にも老化を伝播させてしまいます。肌老化がドミノ倒し式に広がるのはこのためです。
細胞の若さを保つ仕組みとして近年注目されているのが「マイトファジー(ミトコンドリアのオートファジー)」です。
これはDRP1とも深く関係しています。
マイトファジーとは、傷ついたり老化したりしたミトコンドリアを選択的に分解・除去するシステムのことです。PINK1というセンサータンパク質が損傷ミトコンドリアを検知し、Parkinというタンパク質が分解の目印(ユビキチン)をつけることで、マイトファジーが発動します。重要なのは、このマイトファジーが機能するためにはDRP1による「分裂(切り離し)」が先行する必要があるという点です。損傷したミトコンドリアを健全なネットワークから切り離す際に、DRP1が関与します。
ここがポイントですね。
つまり、DRP1が「適度に」機能することはマイトファジーの前提条件でもあります。しかし加齢によってMITOLが減少しDRP1が制御不能になると、分裂は乱れ、マイトファジーによる品質管理もうまく働かなくなります。傷ついたミトコンドリアが処理されずに細胞内に蓄積し、ROSをまき続ける状態が続くのです。30代以降からミトコンドリアの品質管理への意識を持つことが、長期的な肌の若さを保つうえで非常に重要です。
ここまでの内容を整理します。肌老化は単に「肌の表面の問題」ではなく、細胞内のミトコンドリアという「エネルギー工場」が正常に機能しているかどうか、そしてそれを左右するDRP1とMITOLのバランスが根本にあります。
加齢によってMITOLが減少すると、DRP1が蓄積してミトコンドリアが断片化します。断片化したミトコンドリアはATP産生を落とし、活性酸素を大量発生させ、コラーゲン分解・ターンオーバー遅延・バリア機能低下・細胞老化という一連の肌老化を加速します。さらに紫外線がこの悪循環をより強く後押しします。
今からできることは次の通りです。
美容の最前線は今、「細胞の外側」から「細胞の内側」へ移りつつあります。DRP1とミトコンドリアのバランスを意識した美容ケアは、これからのスタンダードになっていくはずです。
大正製薬の研究チームによるマイトリガーゼの総合的な研究解説(コラーゲン・老化マーカー・肌細胞修復力との関係)が確認できます。
大正製薬 研究ラボ|若返りの鍵「マイトリガーゼ」と老化の関係

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