

週2回・4カ月の筋トレを続けた40〜50代女性の真皮が、化粧品を一切使わずに厚みが増して若返ったと、立命館大学・ポーラ化成工業の共同研究で証明されています。
ビグリカン(Biglycan/遺伝子名:BGN)は、真皮の細胞外基質(ECM)に存在するプロテオグリカンの一種です。分子量は200〜350 kDaと比較的大きく、45 kDaのコアタンパク質に2本のコンドロイチン硫酸・デルマタン硫酸という糖鎖が結合した構造を持ちます。
プロテオグリカンとは、タンパク質と糖鎖が組み合わさった糖タンパク質の総称です。ヒアルロン酸やコラーゲンと並んで、真皮の「細胞外基質」を構成する重要な成分のひとつです。ビグリカンはコラーゲン線維と結合し、線維の配列を整える「オーガナイザー」のような役割を果たします。
つまり、ビグリカンが減るとコラーゲンの構造が乱れてしまうということです。
美容成分として知られるヒアルロン酸やコラーゲンと連携しながら、肌の骨格を形成するのがビグリカンの本来の仕事です。ビグリカンはTGF-β(トランスフォーミング増殖因子β)とも結合することが確認されており、組織の修復や再生にも深く関わっています。これが「創傷治癒」にも重要な成分と言われる理由です。
一言でまとめると「コラーゲン・エラスチンを支える縁の下の力持ち」が基本です。
ビグリカンの働きを理解するには、まず皮膚の構造を把握する必要があります。皮膚は表から順に「表皮」「真皮」「皮下組織」の3層に分かれています。美容の文脈でよく話題になるコラーゲン・ヒアルロン酸・エラスチンはすべて「真皮」の中に存在しており、ビグリカンもこの真皮に属します。
真皮はいわば肌の「骨格」とも言える層で、その厚みが肌の若々しさに直結します。獨協医科大学の研究によると、真皮の厚みは20歳をピークに年々減少し、80歳時点ではピーク時の約80%まで薄くなることがわかっています。真皮が薄くなるほど、肌はたるみやすくなります。
これは重要な事実ですね。
表皮をいくら化粧水で潤しても、真皮が薄くなっていけば土台から崩れていきます。ビグリカンが注目される理由は、この「真皮の厚み」に直接関与できるという点にあります。資生堂のIFSCC大会受賞研究でも、加齢によってたるんだ肌の真皮が大きく失われることが実証されており、真皮を守ることが抜本的なアンチエイジングの鍵と位置づけられています。
資生堂IFSCC受賞研究「たるんだ肌の内部では真皮が大きく失われる」の詳細はこちら
真皮の細胞外基質(ECM)は、コラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸、プロテオグリカンなどの成分で構成されています。ビグリカンはこの中でも「プロテオグリカン」カテゴリーに属し、コラーゲン線維の間に入り込んで網目構造を安定させます。
コラーゲンは肌全体のタンパク質の約30%を占める主成分ですが、ビグリカンなしでは整った線維構造を維持できません。ビグリカンを持たないマウスでは真皮が著しく薄くなるという研究報告が存在しており、ビグリカンの存在がいかに真皮の厚みに不可欠かがわかります。
コラーゲンとビグリカンはセットで機能するということですね。
エラスチンは真皮のバネのような弾力素材で、伸びた後に元に戻る力を担います。ビグリカンはエラスチン線維とも相互作用し、線維全体の立体的なネットワークを保ちます。この仕組みが崩れると、肌はコシを失い、押しても跳ね返らないような「くたびれた」状態になっていきます。
| 成分名 | 主な役割 | 加齢での変化 |
|---|---|---|
| コラーゲン | 肌の強度・ハリ | 20歳から毎年約1%減少 |
| エラスチン | 弾力・伸縮性 | 加齢とともに変性・減少 |
| ヒアルロン酸 | 保水・クッション | 加齢で産生量が低下 |
| ビグリカン | コラーゲン線維の整列・ECMの安定 | 加齢・運動不足で減少 |
ビグリカンが真皮内で不足すると、コラーゲン線維の整列が乱れ始めます。整列が乱れたコラーゲン繊維は引っ張りに弱く、肌の表面に凹凸やシワとして現れてきます。これが「加齢性のシワ」のメカニズムのひとつです。
肌が薄くなることを「菲薄化(ひはくか)」と呼びます。菲薄化が進むと肌の支えが失われ、重力に負けてたるみが生じます。目の下のたるみや頬の下垂、ほうれい線の深化も、こうした真皮の構造的劣化が根本原因のひとつです。
たるみは「真皮の厚みの問題」が条件です。
美容成分として話題になるヒアルロン酸や化粧品によるアプローチは、表皮の保湿には有効ですが、真皮の厚みを根本から回復させる力は限定的です。ここに「ビグリカンを増やすこと=筋トレ」という選択肢が大きな意味を持ちます。皮膚の菲薄化は毎日少しずつ進行するため、早い段階から真皮へのアプローチを意識することがとても重要です。
2023年6月、立命館大学スポーツ健康科学部の藤田聡教授らとポーラ化成工業の共同研究チームが、世界で初めて「筋力トレーニングが美肌に貢献する」ことを科学誌『Scientific Reports』(Nature系)に発表しました。
研究の概要は以下のとおりです。
その結果、筋力トレーニンググループだけに「真皮の厚みの増加」が確認されました。有酸素運動も肌の弾力改善に効果はありましたが、真皮を厚くするという効果は筋トレ固有のものでした。
これは意外ですね。
筋トレが真皮を厚くするメカニズムの鍵が、ビグリカンにあります。研究チームは参加者の血液を分析した結果、筋トレ後に血中の炎症性ケモカイン(CCL28とCXCL4)が著しく減少していることを発見しました。これらのケモカインは、通常のビグリカンの遺伝子発現を抑制する「ブレーキ役」として機能していたことが判明したのです。
筋トレ → 血中炎症物質(CCL28)が減る → ビグリカンのブレーキが外れる → 真皮ECMが増加 → 真皮が厚くなる、というのが一連の流れです。
立命館大学公式発表「筋力トレーニングが美肌に貢献することを世界で初めて報告」の詳細はこちら
研究で実証された筋トレプログラムを参考に、実際に始められる内容を紹介します。立命館大学の研究では「週2回・1回あたり約30〜45分」のマシントレーニングで効果が確認されました。種目はチェストプレス、レッグカール、レッグエクステンション、アームカール、ローイング、ショルダープレスなど全身6種目が基本です。
強度は「10回繰り返すのがやっと」と感じる負荷(最大筋力の75〜80%程度)で、3セットを目安に行います。この強度設定が重要で、軽すぎると真皮のECMに影響する血中成分の変化が十分に起きない可能性があります。
強度と頻度が肝心ということです。
ジムのマシンが難しい場合は、自宅でのスクワット・腕立て伏せ・ランジからでも構いません。大切なのは「大きな筋肉に、ある程度の負荷をかけること」です。特に下半身は体の筋肉の約70%を占めるため、スクワットを中心に据えるのが効率的です。研究では16週間(4カ月)で効果が現れましたが、継続こそが最大の条件です。
筋トレによってビグリカンの遺伝子発現が高まっても、コラーゲンやエラスチンを新たに作り出すには「材料」が必要です。
その材料がタンパク質です。
真皮を構成するコラーゲン・エラスチン・ビグリカンはいずれもタンパク質を主成分としており、食事からの供給なしに真皮の再構築は進みません。
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、18歳以上の女性の1日あたりのタンパク質推奨量を50gとしていますが、筋トレをしている場合は体重1kgあたり1.2〜1.6gの摂取が望ましいとされています。例えば体重50kgの人なら1日60〜80g、卵に換算すると約10〜13個分のタンパク質が目安です。
意外と多い量ですね。
日常の食事でこれを満たすには、肉・魚・卵・大豆製品を各食事にバランスよく組み合わせることが欠かせません。筋トレ後30〜60分以内のタンパク質補給は、筋肉の合成を促す「ゴールデンタイム」とも呼ばれています。この時間帯にプロテインを活用することは、ビグリカン産生を後押しする食事戦略として合理的です。
筋トレをすると、筋肉から「マイオカイン」と呼ばれる生理活性物質が分泌されます。マイオカインは「筋肉が出すホルモン様物質」の総称で、全身のさまざまな臓器に働きかけ、老化や病気の抑制に関与しています。
ビグリカンはマイオカインそのものではありませんが、マイオカインと連動して美肌効果を高めます。特に注目されるのが「マイオネクチン」というマイオカインの一種で、コラーゲン生成を促進し、皮膚細胞を活性化する美肌作用があることが確認されています。筋トレ → マイオカイン分泌 → コラーゲン増加 → ビグリカンが作用しやすい真皮環境が整う、という相乗効果があります。
マイオカインとビグリカンはチームで機能するということですね。
ファンケルの研究では、マイオカインが精油の成分で分泌促進されることも発見されており、アロマテラピーとの組み合わせが話題になっています。ただし最も確実にマイオカインを増やす方法は、やはり筋肉を動かすことです。スクワットなど下半身の大きな筋肉を使う運動が、マイオカイン分泌において特に有効です。
ファンケル研究所「マイオカインが精油で分泌促進されることを発見」の詳細はこちら
現時点では「ビグリカン配合化粧品」は一般的ではありませんが、真皮のECMをサポートする成分として「プロテオグリカン」を配合した化粧品やサプリメントが注目を集めています。プロテオグリカンはビグリカンと同じく真皮のECMを構成するプロテオグリカンの一種で、ヒアルロン酸と同等以上の保水力を持ちます。
弘前大学医学部の研究により、サケの鼻軟骨からプロテオグリカンを効率よく抽出する技術が2000年に開発され、青森発の機能性美容成分として市場に広まりました。コラーゲンやヒアルロン酸に続く「第3の美容成分」と呼ばれています。
これは使えそうです。
ただし、外側から塗るだけでは真皮の深部まで届きにくいため、化粧品と筋トレを組み合わせることが理にかなっています。筋トレでビグリカンを増やして真皮の構造を整え、化粧品で表皮の保湿を補う、という「内外ダブルアプローチ」が最も効率的です。美容液やクリームを選ぶ際は、プロテオグリカン・コラーゲン・エラスチン生成をサポートする成分が含まれているものを選ぶと、より高い相乗効果が期待できます。
「美肌のためには有酸素運動が良い」というイメージを持っている人は多いでしょう。確かに有酸素運動は血行を促進し、肌のターンオーバーを活発にします。立命館大学の研究でも、有酸素運動グループは肌の弾力性(皮膚弾力回復率:Ur/Uf)が改善しました。
しかし「真皮の厚みの増加」が確認されたのは筋力トレーニンググループだけでした。ランニングや水泳だけでは、ビグリカンを誘導するほどの血中炎症性ケモカインの低下が起きにくいことが研究で示唆されています。
つまり「表面の弾力は有酸素運動でも改善できるが、根本的な真皮の厚みは筋トレにしか増やせない」ということです。
これが原則です。
この違いは大きな意味を持ちます。肌の「弾力」と「厚み」は別の問題で、どちらも解決したいなら両方の運動を組み合わせるのが理想です。日本皮膚科学会が推奨する週150分程度(1日30分)のウォーキングやジョギングに加えて、週2回の筋トレを取り入れることで、ビグリカン増加による真皮強化と血行促進の美肌効果を同時に得られます。
美容業界では長年「保湿」「紫外線対策」「ビタミンC」が美肌の三大原則として語られてきました。
これらは表皮レベルでは非常に有効です。
ただし、シワの深化やフェイスラインのたるみのような「構造的な老化」は、表皮ケアだけでは止められない側面があります。
これを理解する鍵が「表皮と真皮の老化は別の問題である」という考え方です。化粧水・美容液は表皮(厚さ約0.1〜0.2mm)を潤しますが、真皮(厚さ約2〜3mm)には届きにくいものがほとんどです。ヒアルロン酸分子は大きすぎて表皮を通過できないため、化粧品由来のヒアルロン酸は主に表面の保湿に作用します。
ここが美容の落とし穴と言えます。
つまり、高価な美容液を毎日塗り続けても、真皮のビグリカンが減り続けていれば「ガワだけ潤った、中身がスカスカの肌」になっていく可能性があります。表皮の保湿を続けながら、同時に真皮を「内側から」鍛える手段として筋トレとビグリカンの仕組みを知ることは、現代の美肌戦略において欠かせない視点です。肌の若さを守るには、スキンケアコスメと運動習慣の両輪が必要という時代に入っています。
ビグリカンを増やすための筋トレを習慣化するには、効果の実感を待つ「忍耐」と、生活に溶け込む「仕組みづくり」の両方が欠かせません。立命館大学の研究では16週間という期間が必要でしたが、これは体内の真皮構造が変化するまでには相応の時間がかかるという意味でもあります。
継続を助ける工夫として以下のアプローチが効果的です。
筋トレと睡眠と紫外線対策はセットです。
睡眠中に分泌される成長ホルモンは、真皮の線維芽細胞を活性化してコラーゲンやビグリカンの産生を促します。睡眠不足はビグリカンを増やす筋トレの効果を半減させるリスクがあります。運動・栄養・睡眠の3つを揃えることで、ビグリカンを最大限に活用できる体内環境が整います。
「ビグリカンを直接肌に塗れば良いのでは?」という疑問を持つ人もいるかもしれません。現時点でビグリカン単体を配合した一般向け化粧品は存在しておらず、主に研究試薬として流通しています。
また「筋トレをすると肌が荒れる」という誤解もあります。これは過度なトレーニングや睡眠不足・栄養不足が伴う場合に起きやすい現象で、適切な強度・頻度で行い、タンパク質と睡眠を確保すれば問題ありません。
正しく行えば問題ありません。
さらに「ビグリカンはサプリで補えないの?」という声もあります。プロテオグリカンを含むサプリはありますが、ビグリカン自体を経口摂取しても、消化器で分解されて真皮まで届くかどうかは現状では明確な科学的根拠が乏しい状況です。現段階で最も確実にビグリカンを増やせる方法は、やはり筋力トレーニングの継続です。ビグリカンは「外から補う成分」ではなく「自分の体に作らせる成分」という認識が正確なところです。