
脂質二重層とは、極性を持った薄いリン脂質が二層になった膜構造で、ほぼ全ての生物で細胞膜の基本構造として利用されています 。この構造は、両親媒性分子であるリン脂質が水中で自己組織化することで形成される膜状構造です 。
脂質二重層の厚さは約3.5-5.6ナノメートル程度で、親水性のリン酸部分の頭部を外側に、疎水性の脂肪酸を内側に向けて配列します 。この配列により、膜は電気的に中性となり、酸素や二酸化炭素などの極めて小さな分子は通しますが、極性を持つ水分子は通りにくく、大きな分子やイオンは通ることができません 。
細胞膜の構造は流動モザイクモデルとして知られており、脂質二重層によるマトリックスに種々の膜タンパク質が浮遊した構造です 。リン脂質分子同士の結合は緩いため、各リン脂質分子は二重層の中を横方向に自由に移動することができます 。
参考)細胞膜 - 脳科学辞典
リン脂質二重層は、脂質二重層の中でも特にリン脂質分子から構成される特定の膜構造を指します 。リン脂質分子は上下2つの部分からできており、上部がリン酸、下部が脂肪酸という構造をしています 。
参考)【高校生物】「細胞膜の構造」
リン脂質には分子の種類による違いがあり、リン酸の先に付いた分子によってホスファチジルコリン(PC)、スフィンゴミエリン(SM)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)などが知られています 。例えば、ヒトの赤血球の膜脂質二重層では、PCが21%、PSとPEが合わせて29%、SMが21%、コレステロールが26%で構成されています 。
リン脂質二重層では、リン脂質分子の分布に非対称性があります 。外層にはホスファチジルコリンやスフィンゴミエリンなどの中性リン脂質が多く、内層にはホスファチジルエタノールアミンやホスファチジルセリンなどの陰性荷電を帯びた酸性のリン脂質が多く含まれています 。
脂質二重層という概念は、より広義の膜構造を指し、リン脂質以外の脂質成分も含む包括的な概念です 。一方、リン脂質二重層は具体的にリン脂質分子から構成される膜構造を指しており、より特定的な定義といえます 。
機能面では、脂質二重層は細胞内外の物質透過性を制限するバリアの役割を果たしています 。リン脂質二重層では、特に膜の非対称性が重要な機能を持ち、血小板が活性化されると、内層にあったホスファチジルセリンなどが外層に移動するフリップフロップ現象が起こります 。
脂質ラフトと呼ばれる特殊な領域では、スフィンゴミエリンが主体となり、コレステロール分子が多く入り込んで分子間の結合を強化しています 。ラフト部分は他の部分より少し厚く硬い構造を持ち、膜縦貫タンパクやレセプター、糖脂質なども多く存在しています 。
脂質二重層の透過性は、分子のサイズと極性によって大きく異なります 。極めて小さな分子である酸素や二酸化炭素は自由に透過できますが、極性を持つ水分子は通りにくく、大きな分子やイオンは基本的に透過できません 。
透過係数は拡散係数と溶解係数の積で表され、水和イオンは親水性が高いため脂質二重層への溶解性が不足してイオンが透過できません 。脂質膜はほとんどすべての親水性分子の透過に対してバリア機能を示します 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/membrane/39/6/39_372/_pdf/-char/ja
膜の流動性は温度やコレステロール含量によって変化し、コレステロールが増加すると膜は硬くなり柔軟性が弱くなります 。この物理的性質の変化は、膜タンパク質の機能や細胞の生理的活動に大きな影響を与えます 。
皮膚のバリア機能において、脂質二重層構造は極めて重要な役割を果たしています 。角層の細胞間脂質は、セラミド、コレステロール、脂肪酸などの脂質の総称で、約50%をセラミドが占めており、角層細胞同士の間を埋めて水分が奪われないようにする油溶性のうるおい成分として機能します 。
参考)バリア機能と美肌の関係は?毎日のスキンケアのポイント: me…
肌の表面にある角質層は「ラメラ構造」という油分と水分が幾重にも重なり合った多層構造で、この構造が肌のバリア機能を維持しています 。ラメラ構造に似たリポソームを肌に塗布することで、肌のラメラ構造が崩れた部分を補修し、肌本来のバリア機能を回復させることができます 。
参考)サイエンスストーリー|DR.HONEY公式サイト
バリア機能が低下すると、乾燥や皮脂による酸化がターンオーバーの乱れを引き起こし、皮ムケ、角栓の形成、くすみ、シワ、ニキビなどの様々な肌トラブルの原因となります 。化粧品の重要な役割の一つは、肌がもとから持っている「水溶性」と「油溶性」の両方のうるおい成分を与え、バリア機能をサポートすることです 。
敏感肌は、バリア機能が低下することで刺激に対する抵抗力が落ち、不完全な皮脂膜でうるおいを保てず、細胞間にも隙間ができて刺激物質が侵入しやすくなった状態です 。日頃のスキンケアで化粧水と乳液やクリームを使用し、たっぷりと保湿することで、脂質二重層構造を含む肌のバリア機能を強力にサポートすることができます 。